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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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対怪獣戦

 映画で毎回毎回、怪獣に挑まされる自衛隊の方々の気持ちが今なら理解できそうだ。


「で、どうするよ」


 ヒュールミの問いかけに全員が無言で顔を見合わせている。

 時間稼ぎを提案したけど方法は……どうしようか。


「ピティーと……ハッコンで……空から……あれ落とす……」


 無言を貫いていたピティーが珍しく自ら意見を口にした。

 何故かラッミスがじっと俺を見つめている。若干、怒っていらっしゃいませんでしょうか。

 作戦としては悪くないというか、それ以外で俺が活躍できるとは思えないな。


「それって、敵の中将軍を倒した時の手か。悪くねえな、だったらこれ大量に渡しておくぜ。海だから使い道があるかと思って、大量生産しておいて正解だったな」


 ヒュールミから大量の魔道具を手渡された。これは水を凍らす魔道具か。フィルミナ副団長との戦いで使い切ったから助かるよ。


「経費は後で請求してくれ」


 熊会長がスポンサーになってくれるようだ。この魔道具は安くなかった筈だから、これで遠慮なく使える。


「うーん、矢なんて何の役にも立たないっすよね。避難誘導手伝うっす!」


「そうですね。ハッコンとシメライさんぐらいしか役に立ちそうもないですので、邪魔にならないようにしておきましょう」


 足止めは俺とピティーのコンビ、それとシメライお爺さんが担当することになり、何人かサポートを残して各自散っていった。


「ハッコン……一緒に……飛ぼうね……」


「いらっしゃいませ」


 ピティーの〈重さ操作〉があれば上空からの爆撃も可能だ。


「ハッコン、ちゃんと戻ってきてね」


 ラッミスが俺の体に手を触れて心配そうに見上げている。


「う ん ま か せ」

「て よ ありがとう」


 そう言うと手を離してくれた。掴んでいた部分が指の形に凹んでいるが、これは今直さないでおこう。これがあると彼女と繋がっている気持ちになれるから。

 風船を大量に制作して、横倒しになるとその上にピティーが寝そべっている。

 ラッミスが頬を引きつらせて横目で睨んでいるが、彼女は素知らぬ顔で俺の体に頬を寄せている。わざとかな、わざとなのかなっ。

 ここは、俺の為に争わないで! と言う場面なのだろうか。やめておこう、事態が悪化する未来しか見えない。

 二人ともただの自動販売機である俺に依存しすぎている気もするが、独占欲が出るぐらいに気にいられている事実は素直に嬉しい。もう少し、仲良くして欲しいが。


 ピティーが〈重さ操作〉をしてくれたようで、ふわっと宙に浮き高度がぐんぐん上がっていく。

 充分な高さを確保できたので、今度は〈コイン式掃除機〉の風を出す機能を使い、犬岩山を目指して滑空する。

 暫く飛び続けると、その巨体が徐々に全貌を現していく。

 近くで見ると全体の造形がシベリアンハスキーのようだ。彫りが荒いのが逆に迫力を増す効果があり、その大きさと相まって圧倒的な暴力性を感じさせる。

 犬岩山はその巨体で暴れる以外の特殊な攻撃方法はないらしい。遠距離攻撃も保持していないと説明を受けている。

 上空からなら一方的な攻撃が可能となる。


 中将軍を倒した方法、コンクリートの板を出してからの撃ち込み。相手が岩でできていようが、この高さから勢いよく弾き飛ばされたコンクリートの板を喰らって無傷とはいかないだろう。

 連続で五枚射出する。あの巨体なので外れることなくコンクリート板が着弾した。

 眼下でコンクリートの板が命中、爆散している光景が目に入る。相手の岩肌に小さな窪みができているが、犬岩山は前足で首筋を軽く掻いただけで平然と歩き続けている。

 思ったより岩が硬いのか。あれだと自爆覚悟で高高度から巨大自動販売機で落下して、激突しても倒せるか怪しい。

 めげずにコンクリート板の雨を降らしているが、表面の岩を砕いている程度でダメージとしては微々たるもののようだ。


「効いてない……みたいだね……」


 ピティーもそう思うか。俺の体から少しだけ身を乗り出して下の様子を窺っているが、やっぱり効果は薄いように見えるよね。

 じゃあ、弾の種類を変えよう。フォルムチェンジで〈コインロッカー〉になるとヒュールミから渡された魔道具を投下した。

 犬岩山の足元に当たるように狙い、思った通りの場所へ着水していく。

 魔道具が落ちたあたりが一気に凍り付き、膝下まで海水に埋まっていた脚を上げようとして、犬岩山が硬直している。


「あっ……止まったね……」


 わざと後ろ脚の付近は凍らせず、前足周辺を重点的に狙ったので前のめりになって顔が海中に没したな。直ぐに顔を上げたが、氷を砕こうと必死に足掻いている。

 これで少しは時間が稼げるが、いずれ砕かれそうだ。少しでも気をそらせる為に上からコンクリート板の狙撃を続けておく。

 相手にしてみれば背中で虫が暴れている程度の効果かも知れないが、集中が少しでも乱れているのなら意味はあるだろう。

 あれ、凍っていない箇所の海面の動きが妙じゃないか。

 犬岩山が暴れるので海面が大きく波打っていると思っていたのだが、真逆である集落の方向から巨大な津波が押し寄せてきた。


 これはシメライお爺さんが発生させた津波か。

 なら、この攻撃に便乗させてもらおう。津波が被さる直前に凍らせる魔道具を撃ち込む。

 体に海水を大量に浴びた状態で一気に凍り付く。上半身が津波と同化しているかのような光景になっているぞ。

 これで時間稼ぎとしては充分だろう。残りの魔道具もばら撒いて後ろ脚の周辺も凍らせておこう。

 氷漬けになった敵を眺めながら勝利の余韻に浸りたいところだが、氷の至る所に小さなひびが入っていくのを目撃して、俺たちは集落へと撤退することにした。





 集落に戻ると住民と兵士の避難が全て終わっていて、残るは仲間たちだけだった。

 全員待ってくれていたのか。みんな律儀だな、そういうとこ好きだよ。


「おっ、戻ってきたな。早く来い! とっとと逃げるぞ」


「ハッコンっ!」


 まだ空中にいたのだが、ラッミスに飛び付かれて地上に引きずり降ろされた。といっても、ちゃんと抱えられてダメージは一切受けていないが。

 転送陣に全員が飛び込むと、お爺さんが魔力を発動させて一気に清流の湖階層に飛んだ。

 いつもの部屋に転送されると、ヒュールミとお爺さんが転送陣に触れて何か細工をしている。


「犬岩山階層との接続を切っておくぞ。万が一にでも海水が流れ込んできおったら大惨事になるからのぅ」


「だな。壊滅状態は免れねえだろうし、生き残った冥府の王の配下に乗りこまれても厄介だからよ」


 こういった作業は二人に任せておけば間違いない。

 これで犬岩山階層の騒動に一区切りついたわけか。相手の戦力やケリオイル団長たちの現状も理解できた。だからといって事態が好転したわけじゃないのが問題だ。

 でも、攻略中の永遠の階層以外の異変は一応だが終焉を迎えた。残る階層は一つか。


「ううう、ボクの階層がぁぁ。三食昼寝付きの職場がぁぁ」


 子供会長が膝を抱えて泣いているが、最後の一言を聞いて同情する気が失せたようで放置されている。


「また住民が増えたか。人員が増えることは喜ばしいことだが、仕事量が……」


「清流の会長。我々も手伝う故にそう落ち込むな」


「そうですよ。私なんて存在が手伝ったところで微力にも程があるでしょうけど、それでも何もしないよりもマシだと思いますわ。あっ、そうそう、そう言えば昨日朝起きたら外で住民たちが楽しそうにお話をしていたので、私も混ぜてもらおうと階段を駆け下りていましたら、つい慌て過ぎて――」


「迷路会長は話が長すぎるっちゅうねん! こういう時は簡潔にわかり易く要点を伝えるっちゅうのが大切やで。つまり、清流の会長はん、お駄賃なんぼくれるんや?」


 闇の会長のボケに老夫婦が同時に後頭部を叩いている。元同僚だけあって息がピッタリだな。

 ハンター協会の会長たちが手分けして手伝ってくれるそうなので、今回移り住んでくる人々の今後の生活環境の取り決めも滞りなく行われるだろう。

 じゃあ、俺も自動販売機として移り住んできた人々の為に歓迎セールでも開催しますか。

 全品全て半額でご奉仕。犬岩山階層から来た人は脅威の九割引きを実施させてもらおう。金品を持たずに避難した人には無料で提供しようか。


 こういうことをすると、この人たちだけ無料で提供してずるいと絡んでくる輩が必ずいるのだが、そこは我慢してもらおう。

 販売人は俺であり、割引も贔屓をするのも自由な筈だ。

 商売人としては間違っているとは思うが、利益より人情を重視して文句を言われるなら幾らでもどうぞ、というスタンスなのでどうでもいい。

 地域と人に優しい自動販売機というのがモットーだからね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] サメの中将軍を倒した獲得ポイントがあれば、犬岩山に対抗できる何かしらの新機能を獲得できたのでは?
[一言] 犬岩山階層を冒険してた人は居なかったんですかね……まあ仕方のない犠牲扱いなのかもしれませんが
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