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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
八章

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今後の対策

「つまり、ケリオイル団長たちが勧誘に来たのですが、断って脱走して海に浮かんでいた筈が沈んでしまい、釣り上げられたということで間違いありませんか」


「そう……よ……」


 既に想い人の魂は離脱したことになっている設定のヘブイが訪ねると、ピティーは静かに頷いている。落ち着きを取り戻したみたいだ。

 ちなみに魂が乗り移るとか無理な設定が通用するのは想い人が日頃から、


「僕と君とは魂で繋がっているのさ。どんなに離れていても魂になってでも必ず会いに行くから」


 と口にしていたのであっさりと信じてくれている。彼女の思い込みの強さが怖いです、はい。

 そんな二人はラブラブなカップルだったのかと誤解しそうだが、実は手も繋いだことがないそうだ。ふらっと現れては口車に乗せられて、稼いだお金を渡していたらしい。

 シュイ曰く「財布代わりにしか、思ってなかったっすよ」だそうだ。

 彼女の恋愛事情に関しては一旦置いておいて、別なことがさっきから気になっている。あんな重そうな盾なのによく海に浮かんだな。

 実はああ見えて重くないのだろうか。特殊な軽い金属で加工されているとか。


「ぬおおおおっ、これ持ち上がんねえぞっ!」


「こ、これはかなりの重量ですねっ!」


 砂浜に置かれている盾をピティーの許可を得てから、ヒュールミが興味本位で持ち上げようとしているが全力で踏ん張っても盾が浮くことはなかった。

 続いてミシュエルが手にかけると、苦戦はしているが何とか持ち上がったようだ。ただ、自在に扱うのは無理なようで、苦労して盾を構えてはみたがよろめいている。

 そんなに重いのか。それをあんな細腕の女性が二枚も軽々と……ラッミスと同じく怪力の加護持ちの可能性が高そうだ。


「普通の人じゃその盾は扱えないっすよ。ピティーは重さの加護があるっすから」


「重さの加護って何?」


 こういう質問はヒュールミにするのがお決まりとなっているので、みんなの視線が彼女に集まっている。


「重さの加護ってのは、触れている物の重さを変えることができる加護だぜ。確かその手で触れた物の重さを軽くしたり重くしたり自在に操れるのだったか」


 そして、期待に応えて丁寧に説明してくれるヒュールミ。


「そう……でも……手で触れた……物だけ……」


 ピティーも肯定しているので間違いない。触れた物の重さを変えられるから両手に巨大な盾を装着できるのか。

 服装が軽装なのは重さを軽くする能力が両手で触れるという制限があるから、重量のある防具を装備できないってことかな。

 その〈重さの加護〉で盾の重さを軽くして海に浮かんでいたのか、なるほど。


「勧誘ってどれぐらい前に」


「お腹が……空いているから……二日前ぐらい……」


 つまり、二日も何も食べてないってことだよな。それはダメだ。痩せ型なのに食事をちゃんと取らないと美容と健康に悪影響を与える。


「し ゅ い」


「なんっすか」


「あ の こ く う」


 そう言って〈コンビニ自販機〉にフォルムチェンジして食べ物をずらっと並べる。何が好きなのかわからないので、シュイに選んでもらおう。


「ハッコンはピティー食べるっすか?」


 シュイには通じなかったか。ハッコン語検定ではまだ初級だ……じゃない、俺がもうちょっと言い回しを考えないとダメだな。


「ピティーは何が好物なのか聞いているみたいだよ」


 流石だよ、ラッミス。ハッコン語免許皆伝を授けよう。


「そういう意味っすか。確か甘い物が好きだったっすよ」


 じゃあ、スイーツ系のラインナップを増やすか。商品を全てスイーツで揃えると、女性陣がじろじろとこっちを見ている。そっちが釣れたか。


「いらっしゃいませ」


 いつもの挨拶をして女性陣にスイーツを売り、シュイがピティーの分も購入すると彼女の元へ持って行ってくれた。


「ピティーお腹空いているっすよね、これを食べるといいっすよ。ハッコンのは美味しいっすから」


「ハッコン……?」


「あの四角い箱があるでしょう。優秀な魔道具で人の魂が宿っています。お金と引き換えに様々な商品を購入することが可能なのです」


 ヘブイの説明を聞いても良くわかってないようだが、渡されたエクレアが気になっているようで、じっと手元を見つめている。


「こうやって開けて、齧りつくっす!」


 同じ商品を手にしていたシュイがエクレアを頬張ると、瞬時に表情が緩み幸福を顔中で表現している。

 その姿を見て警戒が薄れたようで、ピティーもエクレアを口にした。


「あっ……美味しい……」


 前髪が邪魔で口元しか見えないのだが、口角が垂れ下がり喜んでくれているのがわかる。

 好評のようで何よりだよ。何をするにもまずは腹を満たして活力を回復しないと。


「最高っすね、この中にクリームが入っているのは! あと、これと、これと、これも三つずつ買うっす!」


 シュイは程々にしような。

 全員がスイーツに夢中になっている間に魚も焼けたので、このままピティーの歓迎会も兼ねて本格的に食事をすることになった。

 先にスイーツを食べたので順番は逆になってしまったが、魚も魔物も俺の提供した醤油を掛けたら驚くほど味が良くなったそうで、問題なく食べきりそうだ。


「食べながら今後どうするか話し合いましょうか」


「そうだな。団員のピティーを勧誘できたから、当初の目的は完遂できちまったな。しぃーしぃー。後は指揮官を探して指輪の奪取、もしくは破壊ってとこか」


 ヒュールミ、女性なのだから野菜を刺していた串で、堂々と歯の隙間に詰まったものを取らない。俺は気にしない方だけど、オッサン臭いよ。


「ケリオイル団長はまだこの階層に居るのかな。だったら、会えるんじゃないかな?」


 そうか。勧誘に失敗したようだけど、未だに探している可能性はあるのか。


「でも、見つけたところでどうするよ。叩きのめしてふん縛るか」


「協力関係ではあるようですが、冥府の王についての情報は最低限しか知らないでしょうし。ただ、監禁しておけばダンジョン制覇は不可能となりますが」


「やはり、今の内に何とかしておいた方が良いのではないでしょうか。ですよね、ハッコン師匠」


 う、うーん、ここで同意を求められても困るな。

 今捕まえておけば時間制限がなくなり精神的にも有利にはなる。だけど、一つ心配事がある。


「ぽ て い さ ん」


「もしかして……ピティーの……こと……」


「う ん」


 ごめんね、俺の話せる言葉だとこれが精一杯だから。


「よ に ん だ っ」

「た の だ ん ち」

「よ う た ち」


「四人……ううん……二回目の……勧誘に来た時……白い女性……もいた……」


 あー、やっぱり団長たちだけで行動していたわけじゃないのか。それに白い女性ってもしかして、彼女のことか。


「こ の か た」


 そう言って〈液晶パネル〉を取りつけて、砂漠の柱で会った雪精人であるスルリィムを映し出す。


「そう……この人……」


「マジかよ。スルリィムがいるとなると話が違ってくるぜ。やっぱ、転送陣を利用しないで移動する方法があるみてえだな、奴らには」


 逃げる際も瞬間移動したように見えたから、階層を自由に移動する方法があるのかもしれない。そうなると、清流の湖階層も危険だということになるので、熊会長たちに伝えておいた方が良さそうだ。


「私の咆哮撃で吹雪を掻き消すには……まだまだ精進が足りず申し訳ありません」


「あの吹雪は厄介過ぎますね。それにここは海です、水が豊富にありますので多種多様な攻撃が予想されます。キコユさんがいない今の我々では避けるべき相手ですよ」


「ちょっときついっすよね。本気でやりあうなら、助っ人が欲しいところっす」


 助っ人はありかもしれない。熊会長に得た情報を伝えて誰か助力を願ってみようか。あの吹雪も魔法のような仕組みだろうから、シメライお爺さんなら対応できそうな気がする。

 勝てなくても構わないからスルリィムを封じてくれる人さえいれば、手の内を明かした団長たち四人なら俺たちで対応できる。


「じゃあ、一度、熊会長に聞いてみようよ。誰か手が空いてませんかって」


 誰も反論する人がいなかったので、ラッミスの意見が通ることになった。

 全員で戻る必要はないだろうとヒュールミだけが転送陣で一旦、清流の湖階層に戻ったので、俺たちは今度こそ各自別行動となり、俺は犬岩山階層で商売を開始する。

 カリオスたちに貰った看板を活用して購入方法を記載して置くと、物珍しさに人が集まり順調に商品が売れていく。

 暑い場所だとアイスと水の売れ行きが好調だ。ジュースも売れるには売れるのだが、本当に喉が渇いていると水を欲するようだ。

 それに、ここの井戸の水よりも冷たくて美味しいとお客が言っていた。


 順調に商品を売り捌いてお客の波が途切れたところで、視界の隅にヒュールミが映った。どうやら、交渉を終えて帰ってきたようだ。

 なんか俯き気味で元気がないように見えるな。


「おう、ハッコン。俺にも何か冷たい物貰えるか」


「いらっしゃいませ」


 声に覇気がない。助っ人を借りられなかったのかもしれないな。そんなに気にしないでいいのに、お疲れ様でした。


「はああぁ、助っ人の交渉はいけたんだが。まさか、そっちが来るとはな」


 あれ、助っ人は頼めたのか。お爺さんは無理だったようだけど、熊会長が選んだ人材なら間違いはないと思うのだけど。


「ひっさしぶりに、犬岩山階層に来たが! 灼熱の砂には勝てねえな! 温い、温すぎるぜええっ!」


 突如響いてきた脳天を揺さぶるような大声に聞き覚えがある。

 何故、灼熱の砂階層の会長をチョイスしたんだ、熊会長。


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― 新着の感想 ―
[一言] 灼熱の砂階層の会長は、檜山修之の声で脳内再生。
[気になる点] >口角が垂れ下がり 喜んでいるなら口角があがるとか、口元が緩むとかかな
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