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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
八章

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犬岩山階層と釣り

「やあやあ、よく来たね。歓迎するよ」


 兵士が連れてきたのは男の子だった。服装は一般的に想像する貴族の格好から、袖を取り払って短パンにしたようなデザインだ。

 センター分けの茶色い髪にくりくりとした大きな目。利発そうな子供としか思えない。

 だが、この対応から見て犬岩山階層の会長だよな。この世界では見た目は人間でも違う種族の場合がある。キコユだって見た目は子供だったが中身は成人前だった。

 安易に外見だけで判断したら痛い目に遭いそうだ。


「ええと、会長さん?」


「うん、そうだよ。犬岩山階層のハンター協会の会長さんだよ」


 胸を張って威張っている動作も子供らしい無邪気さが垣間見える。

 あれも相手を油断させる為の芝居かも知れないな。


「お姉ちゃんはオッパイ大きいね!」


 目をキラキラさせて何言ってんだ。子供らしい発言として聞き流す場面なのかもしれないが、問題は子供会長の中身。


「あ、うん、ありがとう」


 ほら、ラッミスも対応に困っているじゃないか。


「隣のお姉ちゃんはまっ平らなのにね!」


「今……なんつった」


 こ、こら! ヒュールミのこめかみに血管が浮き出て、怒りの形相になっているから早く謝るんだ。命が惜しくないのか!


「え、ペッタンコって言っただけだよ。あ、そっちの人は男の子かと思ったら女性だったんだ、色気皆無だね。聖職者っぽい人は笑顔が嘘っぽいし危ない感じがするよ。うわー黒い鎧とその剣カッコイイね。物語に出てくる伝説の勇者の物真似みたいだ!」


 悪意はないようだけど、さらっと的確に人の嫌がるポイントを突く子だな。


「す、すみません! うちの会長は思ったことを素直に口にするところがありまして、何卒ご容赦ください」


 子供会長の頭を押さえつけて兵士が平謝りしている。

 必死にフォローしているのは理解しているが、つまりそれって自分もそう思っていると言っているようなものだぞ。

 仲間たちの口角が吊り上がり小刻みに震えているが見なかったことにしておこう。


「あ、えと、その清流の湖階層から来ました」


 一番心のダメージが少ないラッミスが対応するのか。


「うん、知ってる。で、何しに来たの?」


「えっと、色々あって……」


 交渉役には向いてないから考えがまとまらないようだ。ここは助け船を出すか。


「て が に く ま」


「手蟹熊?」


 子供会長には通じてないが、本命はそっちじゃない。


「あ、そっか。熊会長から手紙を預かってるから、これを読んでもらえるかな」


「そうなんだ、貸して貸して」


 手紙を手渡すと素早く目を通している。隣に立つ兵士が覗き込んでいるが機密文章とかじゃないのか。

 会長は何度も頷きながら笑顔で最後まで読みきったな。


「あー、だから魔物が活性化しているんだね、納得だよ。じゃあ、ここの異変解決は任したから! 解決したら教えてねー、じゃあねー」


 手を振って立ち去ろうとした子供会長の頭を、兵士が鷲掴みにして動きを止めた。


「じゃあねーではないでしょう。重ね重ね、ご無礼をお許しください」


 何度も頭を下げて謝罪する兵士を見ていると、ふとスオリの護衛という名の子守を担当している黒服たちのことを思い出した。


「痛いっ、痛いってば! 指が脳にめり込むぅぅぅ」


 かなり本気で力込めているようで子供会長が逃れようと本気で暴れている。

 兵士は涼しい顔をしたまま、更に握力を強めているようだが。


「手紙には人員の捜索を手伝ってほしいと書いていましたが、どのような方でしょうか。特徴を教えていただけば、部下たちに命じて調べさせます」


 この兵士さん実は結構上の立場の人なのか。子供会長より頼りになりそうだから、協力を要請した方がいいな。

 愚者の奇行団についてと、探している二人の団員の特徴を詳しくヘブイが説明するそうで、兵士たちの詰め所に行くことになった。

 子供会長は手を離した隙に走って逃げたので、俺たちはすることが無くなりヘブイが帰ってくるまで自由行動となり、各自が思い思いの場所に散らばっていく。

 シュイはこの階層の料理に興味があるので、食事のできる場所を探すそうだ。

 ミシュエルは予備の武器が欲しいらしく、勇気を振り絞って武器屋の場所を通りすがりの女性に訊ねている。声を掛けられた人が頬を染め潤んだ瞳で見つめているのは、いつも通りだな。


「オレは魔道具屋を見てくるついでに情報収集してくるぜ」


 そう言ってヒュールミもいなくなってしまったので、残っているのは俺とラッミスだけになった。


「何しよっか、ハッコン」


 南国リゾート地の様な場所なので生身の体があったら海水浴もいいけど、今やったら錆びる。それに魔物がいるのに泳ぐのは無謀だろう。

 となると、海の醍醐味といえば……釣りか。魚でも魔物でも釣ったら食材になるみたいだから、今晩のおかずをゲットするのも悪くない。

 釣りはどうかと提案したかったが「つ」が言えないな。他の言葉でどうにか伝えて見るか。


「さ か あ っ り」


 ラッミスが眉根を寄せて口をへの字にして考え込んでしまった。

 いくら察しのいい彼女でも「さかなつり」には聞こえなかったか。「つ」「な」が言えないので代用してみたが無理がありすぎた。


「う お と り」


 これならどうだ。意味的には同じだろう。


「さかあっり、うおとり……同じことを言いたかったのなら、うおとさかな、そして、あっりととりが同じ意味だとしたら……もしかして、魚釣り?」


 おおっ、ラッミス凄いな。我ながら無理があり過ぎると思ったのに、正しい答えを導き出してくれるなんて。


「う ん う ん」


「やった、当たってたんだね。ええと、魚釣りかー。川魚を捕まえるのは得意だったけど、釣りはしたことないなぁ。ヒュールミは好きだったみたいだよ」


 釣りをせずに魚を捕まえていたのか、網とか使っていたのかな。

 ヒュールミが釣り好きなのは意外だ。大きな岩で胡坐をかいて釣りをする姿を想像してみたが、結構似合う気がする。


「ん、釣りがどうしたんだ?」


「あれ、魔道具屋探すんじゃなかったの?」


 いつの間にか近くまで戻ってきていたヒュールミが会話に加わってきた。


「探すのに時間かかりそうだったから飲み物を買ってから行こうかと思ってな。んで、釣りがどうした」


「ハッコンが釣りでもしたらどうだって言ってくれたの」


「お、いいじゃねえか。オレも混ぜてくれよ」


「うん、いいよ。じゃあ、久しぶりに一緒に魚捕ろうよ」


「岩投げつけたり、水面殴って魚捕るのはやめろよ……」


 なるほど、ラッミスの魚を捕まえていた方法が理解できた。

 こうやって昔話を楽しそうに二人が話しているのを見ていると、仲の良い幼馴染だったことが伝わってくる。

 昔からこんな関係を続けてきたのだろうな、少しだけ羨ましい。


「釣り竿、どうすっか。道具屋で売っているか」


「海辺の集落だからありそうだけどね。なかったら、誰かから借りてもいいんじゃないかな」


 釣り道具をお探しですか。ならば、とっておきの物がありますよ、御両人。

 俺は基本の自動販売機形態はそのままで、側面と正面のデザインを変更した。そこには赤い文字で『釣りえさ』と日本語で書きこんでおく。

 商品を全て入れ替えて釣り餌だけではなく、浮きや釣り糸や針といった釣り具を並べる。

 釣りをしない人には馴染みがないかもしれないが、釣りの餌を売っている自動販売機というのは意外とあるのだ。

 釣り具の専門店前もそうだが、海釣り施設で置かれていることがある。父親が釣り好きだったので、子供の頃によく連れていかれ目にすることが多かった。

 加工された袋に入ったアミエビだけでなく、生きたままのミミズや青いそめを売っていたのが印象的だったな。今思えば生き物を売っている自動販売機って、これが初体験だったのか。


「お、なんだこれ。この文字ってハッコンの世界の文字だよな」


「いらっしゃいませ」


 ミミズや青いそめは陳列するとぐろいから、商品名しか書いてなかったのも再現している。釣り糸や浮きは袋に入っている状態で並べているが。

 池や川釣りならルアーの自動販売機もあるのだが、それはまた別の機会かな。


「袋の絵からして、これは浮きか。んでもって、これは針がついた糸や仕掛けか。じゃあ残りの字だけの奴は餌か?」


 御明察だよ。さあ、好きな餌を選んでくれ。


「流石に竿はなさそうだな、そうだろハッコン」


「う ん」


「じゃあ、竿はそこら辺の枝でも加工すりゃいいか。仕掛けを買って……餌は適当に選ぶか」


「うちが選んでいい?」


「おう、いいぜ。好きにしな」


 海釣り用の仕掛けだけしか並べてなかったので、それを選んだみたいだ。

 問題はここからだ。海釣り用の餌というのは女性や子供が初体験すると、悲鳴を上げて泣く子もいるぐらいの見た目をしている。

 ミミズはご存知の通りだが、青いそめというのは濁った深緑や灰色の体に小さい足が無数に並んでいるミミズの様な生き物だ。

 慣れてしまえばどうってことはないのだが、子供の頃は触りたくなかったので餌つけは父に任せていた。

 そんなグロテスクな青いそめを見た時の二人の反応を密かに期待している。ちょっとした悪戯心だが、驚いたときの可愛いリアクションを見せて欲しい。録画の準備もバッチリです。


「じゃあ、餌は違うのを二つ選んでみるね」


 おっし、青いそめも選んだようだ。紙に包まれた小さな箱を取り出して二人が覗き込んでいる。包装紙を破いて透明のパックの中に蠢く青いそめの団体。

 おう、何だろう。久々に見たら俺が衝撃を受けてしまった。体の中にこれがいるのか……商品速攻で入れ替えよう。

 でだ、肝心なのは二人の反応だ。

 じっと、パックの中の青いそめを見つめているのだが、表情に変化がない。


「ちょっと、見た目は違うけど川にも似たのいたよね」


「こんなもん、魔物に比べたら可愛いもんだよな」


 あ、うん、そうだね。異世界で魔物や自然に慣れ親しんでいる彼女たちが、この程度で驚くわけないよね。

 キャーとか、気持ち悪くて触れなーい、ってリアクションは無しですか……。


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