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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
七章

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ミスダンジョンコンテスト その6

 さて、シュイはどんな格好で出てくるのか。俺の予想だとアウトドアの格好……キャンプ場とかで見かけるファッションが似合うと思う。

 あのファッション雑誌にも夏場のバーベキューやキャンプでモテ女になるには! みたいな煽り文句が書いてあったからな。ボーイッシュなシュイにはピッタリだろう。

 おっと、出てきたようだ。

 白く清潔感のある半袖の服なのだが、袖と首元は黒い縁取りがされている。

 そして、胸元には四角い布が張りつけられている。そこには、何か文字が書かれているのだが、まだ勉強中なので読み取ることができない。

 たぶん、初めの文字は、し? だと思うが残りがわからない。予想はつくけど。

 そして、下腹部には一瞬下着なのではと目を疑いそうになったが、よく見ると黒い短パンにも見える。

 冷静に観察してみたが、実は一目見てそれが何であるのかわかっている。


 体操服だこれ。

 まさか、これを選んでくるか……女子高生特集には今と昔のファッションの違いがあって、タイトルは女子高生の古今東西だった。


「見たこともない格好やけど、なんかぐっとくるで」


「ふむ、上手く言い表せないが、妙に目を引くものがある」


「動きやすそうな格好ですね」


 審査員の会長たちの反応は悪くないな。会場の男性陣も盛り上がっているようだし、このチョイスはありのようだ。

 舞台には色とりどりの風船が設置されて、それを側転や宙返りをしながら射抜いていく。これには子供も大人も大喜びだ。

 彼女には風船でしか手を貸せなかったが、今までの中では一番の盛り上がりかもしれない。

 全ての風船を破裂させると、シュイが両腕を大きく振り舞台袖へと消えてく。

 次は順番だとヒュールミか。俺が手を貸したことがプラスに働けばいいのだけど。


「続いてはー、ヒュールミさんの番なのですが、当人たちの希望により、特別に二人同時に登場してもらいます! はりきってどうぞー!」


 おっ、同時に出てくるのか。上手くいけば相乗効果が期待できるが、失敗すると票が分かれてしまうかもしれないな。

 駆動音の高鳴りを抑えつつ、舞台をじっと見つめていると彼女たちが現れた。

 紺色の地味な色合いだが首元の大きな襟が特徴的だ。そして真っ赤なスカーフを襟の下に通して胸元に垂らしている。

 下は足首辺りまでスカートの裾があり、何故か肩に木刀のような物を担いでいる、ヒュールミがいた。

 これ、昭和の一時期流行ったスケバンだ。あれってセーラー服だよな……ビックリするぐらい似合っている。

 髪は後ろで縛ってポニーテールにしているのもポイントが高い。まさか、そっちで攻めてくるとは。そうなるとラッミスは……。


 続いて現れたのは、紺色のジャケットに白のワイシャツ。そして胸元には目が覚めるような青のリボン。下はチェック柄で裾が膝上の短いスカート。

 こっちはブレザーの制服できたか。これは贔屓無しに可愛いぞ。こんな女子高生がいたら、クラスの男子が黙っていないだろうな。

 成程、二人とも自分に似合いそうな制服を選んだという訳か。

 ヒュールミの格好は下手したら、滑稽に見える可能性もあるのだがこの異世界には存在しない服なので、好意的に受け入れられているようだ。

 そして、異世界の人間にもわかるぐらい似合い過ぎている。まるで彼女の為にあつらえたかのような違和感の無さ。


 でも、もっと可愛い服もあった筈なのに、あえてあれを選んだのはきっと……恥ずかしかったからだろう。確かに似合ってはいるが色合いが地味で、ラッミスと並ぶとその欠点が際立ってしまう。

 隣に並ぶラッミスはその明るさとスタイルの良さが、制服を装備することにより相乗効果を発揮しているな。日頃の格好も好きだが、この格好は新鮮味があって多くの観客がどよめいているぞ。

 そして、それだけじゃない。二人ともいつもより綺麗なのだ……顔が。これはお世辞ではなく、いつもと顔が少し違う。

 顔全体に薄らとファンデーション、口紅も塗られている。濃い化粧ではないが、ナチュラルメイクを施している。

 素材が良いので厚化粧は必要ないと判断したのだが、目が大きく見えて口紅は少し明るい色にしておいた。舞台では遠くの人にも見えるように、目立つようにした方が良いらしい。


 そうやって彼女たちに化粧をしたのは――俺だ。

 そう、あの化粧をしたのは俺なのだ。

 彼女たちが出場を決めたその日から毎夜ファッション雑誌を読み漁り、これでハートを鷲掴みメイク術というコーナーを参考に、朝まで練習を繰り返してきた。

 俺の前には化粧を試し塗りされたペットボトルや缶がズラリと並んでいたので、買い物に来たお客が意味もわからず困惑していたな。


 そもそも、化粧品をどうしたのかと俺の能力を知っていたら疑問が思い浮かぶかもしれない。商品は俺が自動販売機で購入したことのある物しか取り出せない。

 その縛りがあるのに化粧品を出せたということは、化粧品を自動販売機で買ったことがあるということだ。

 ます、化粧品の自動販売機は存在した。海外の化粧品メーカーなのだが2009年だったか、大手ショッピングモールや銀座等に置かれていた時期があった。

 残念なことに二年ぐらいで撤退してしまったのだが、もちろんマニアとしてチェック済みで、その物珍しさにわざわざ車で遠出をして購入したのだ。

 ああ、男が一人で化粧品をな!


「これが母さんが頼んでいた化粧品か、ええとこれとこれを」


 と声に出しながらメモを取り出し、母親に頼まれて渋々やってきた感を出しながら買いましたとも!

 実際、購入した商品は母の日に実家へ送ったので嘘ではないのだけれど、異様に恥ずかしかったのを覚えている。

 あの時の経験がこうやって力になっているのだから、男なのに化粧品を買ったことは間違いなかったということだよな。うんうん。

 そんな過去の思い出はどうでもいいのだけど、化粧をすることに関しては男性の中にはこういった考えの人がいるのではないだろうか。


「俺はノーメイクの方が好きだ」


 と。ちなみに俺も昔はそうだったのだが、仲の良い女友達とそんな話をしていたらキレられた。どんな会話内容だったか詳しく思い出してみるか、確か――


「男ってたまにそんなことを口にする世間知らずがいるわよね。元々、素材が良いなら化粧なんてしなくてもいいだろ、とかふざけたこと言う輩には美人ともてはやされている女優やアイドルが全員化粧をしている理由を説明して欲しいものだわ」


「えっ、でも、月曜の夜にやっているドラマに出ている女優さんって、風呂上がりのすっぴんの場面も綺麗だったよ?」


「ばっかじゃないの。すっぴん風ナチュラルメイクよ、あれ。あのね、すっぴんと化粧の差ってのは、モノクロのアニメと綺麗に色を塗ったアニメぐらいの差があるの。確かにモノクロでも見れるかもしれないけど、色が付くことによって魅力は数倍に跳ね上がるでしょ」


「あ、うん、まあ、確かに」


「その色塗りのテクニックも重要で何でも塗ればいいってものじゃないの、子供の塗り絵レベルだったら塗らない方がマシだし」


「そ、そうだな」


「化粧って美しくなる目的もあるけど、自分の欠点を隠せるというメリットが大きいの。どれぐらい重要なのか見せて上げようじゃないの……今から化粧落としてやるから、どれぐらい変化するか勉強しなさい。眉毛が無くなって、血色の悪い唇と、吹き出物やニキビを露わにした肌を見せてやるわ」


 な、懐かしい思い出だな。あの後、素直にごめんなさいと謝った覚えがある。

 外で会ったらわからないぐらい顔が変わったのだが、俺としてはすっぴんの顔も悪くないと思ったので、それを正直に伝えたら「ばっかじゃないのっ!」と更にキレられた。

 その時の経験と毎夜の特訓が生きたようで、それなりに上手く化粧できたと思っている。小学生の頃に絵画教室に通っていたのも少しは役だったのかもしれない。

 二人とも元が良いので、ほんの少し後押しした程度なのかもしれないが、それでも力になれたのなら頑張った甲斐はあった。


 昔を懐かしんでいる間に、舞台ではヒュールミの発明品をラッミスが運んできた。

 それはマネキンのような等身大の人形で、ラッミスが渡された腕輪を装着すると、その動きを真似てマネキンが動き出した。

 連動しているのか。これって、普通に凄い発明だな。

 ラッミスが日頃の訓練と同じように拳を突き出すと、マネキンも同じ動きをしている。だけど、全力の突きの速さを完全に模倣するのは不可能なようだ。

 ゆっくりした動きを完全に真似ているだけでも大したものなのだが、素早く動くと動きのずれが発生しているな。

 面白がっているラッミスが、マネキンが寝転んでいた重そうな台を軽々と持ち上げる。そして、今度は少し位置をずらしてマネキンが持ち上げられるような配置になると、ラッミスは何もない場所で持ち上げる振りをしてみた。


「あっ、バカ、やめっ」


 めきっ、と鈍いとが響いたかと思うと肘から千切れた腕を置き去りにして、マネキンが万歳をしている。

 動きを真似ているだけで、その怪力を表現できるわけがない。

 ラッミスが横目でヒュールミを確認して、拳を頭にこつんと当てて舌を出している。反省しているつもりのようだ。

 隣で腕のないマネキンが同じことをしたので、観客からは笑い声が響いている。

 そのまま、ヒュールミに追い回されながら退場していった。

 会場の盛り上がりも一番だったし、彼女たちの格好と化粧も新鮮で評価も高いと信じたいが……問題はこの後の大本命か。

 それは誰もがわかっているようで、さっきまでの騒ぎが嘘のように静まり返っている。みんな彼女――シャーリィを待ちかねているのだろう。


「では、皆様お待ちかねの……ってなに、母さん。えっとこれ読むの」


 舞台の真ん中に進み出てきたムナミに宿屋の女将さんが走りよると、何か紙を手渡した。

 それを読んでいるムナミの表情が驚愕から困惑へと変化した。何かあったのだろうか。


「失礼しました。皆様、申し訳ありません、シャーリィさんは急に体調を崩されたようで、棄権されるようです。一人減って九名による投票となりますので、振るってご参加ください!」


 会場中がざわついているけど、無理もないと思う。大本命のシャーリィがいなくなると優勝者がわからなくなってきた。

 まさかのリタイアか……シャーリィさんの体調は気になるが、これでラッミスたちの優勝も見えてきた。これは誰が勝つか、投票結果を待つしかない。


「ハッコン、お主も審査するのを忘れておらぬか」


「あ っ」


 そうだった。何点を付けるか決めないと。


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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてだけど、学生がテーマのグラビア雑誌とかだったりしない?
[良い点] ファッション……雑誌……?
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