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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
七章

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ミスダンジョンコンテスト その5

 出場者が全員、舞台の上に横並びで立っている。

 ある意味一番目立っているのは、タスマニアデビルの外見をしているスコだろう。今回の参加者の中で見た目が人間ではないのはスコだけだ。

 これは獣人系の票を集めるかもしれないな。あと動物好きは必ず一定数存在しているので、そういった相手に対する強みがある。

 会場の盛り上がり具合から予想するのであれば、ラッミスは二番人気だろう。

 個人的には一押しだが私情は挟まないようにしないといけない。

 スオリとキコユは片方だけが出場ならロリコン枠……もとい、少女としての可愛らしさで票が集まる可能性もあったのだが、同年代に見える二人が出場したことにより票が割れるのではないかと考えている。

 他の出場者だって固定ファンがいるようで、外見だけではなく日頃の人当たりの良さや言動が票に繋がりそうだ。


 そして、大本命は言うまでもなく、シャーリィだろう。

 女性でも思わず見とれるような容姿。理想の女性像と表現しても過言ではないスタイル。

 夜の商売をしているのだが店の評判は良く、色々とお世話になっている男性陣たちは間違いなく票を入れるだろう。

 となると、女性から嫌われていそうなものなのだが、そんなことはない。

 衛生面、金額、職場環境にかなり気を遣っているようで、そこで働いている女性から苦情が熊会長に寄せられたことは一度もないそうだ。

 現代日本だと問題がある行為だとしても、この世界では違法ではなく一般的な仕事の一つらしい。

 噂によると見た目は人間と変わらないが人の精を糧にして生きる種族もいるそうで、そういった種族を結構雇っているそうだ。流石の異世界、日本の常識が通用しない。

 つまり、何が言いたいかというと、シャーリィさんには死角がない。

 日本ならシャーリィさんの仕事に対して嫌悪感を抱く層が結構いるのだが、ここでは殆どいないようだ。今のところ会場の反応から察するに一番人気は固い。どうやれば、ラッミスたちが勝てるのだろうか。


「では、皆さんもう一度大きな拍手を!」


 手を打ち鳴らす音で俺は思考の海から浮かび上がってきた。出場者が一旦、舞台袖に消えて行く。


「今から、衣装替えをしてもらいまして、特技披露となります! 自慢できる特技がない方は……観客の皆さんに好印象を与える何かを考えてもらうことになっていますので、乞うご期待ください! 少し休憩となりますので、その間にトイレ、飲み物、食べ物の補給をされては如何でしょうか。各店舗が腕を振るった料理の数々が皆様をもてなして――」


 ムナミの台詞が途中から露店の宣伝に変わっている。話を聞き流しながら、第一印象での出場者の評価を脳内で纏めていた。


「ハッコン、わりぃ、ちょっと来てくれ!」


「ごめんね、ちょっとだけだから」


 着替える時間の筈なのに、ラッミスとヒュールミが舞台に上がった時と同じ服装でやってくると、返事も聞かずに抱え上げられて運ばれて行く。


「あ の」


「ごめんね、直ぐだから」


 急いでいるようで詳しい説明もなく、とあるテントに運び込まれる。

 そこには出場者たちが思い思いの服装に着替えている最中だった。もう既に着替え終わっている面子もいるのか。

 カリオスの恋人であるフィアは――全身真っ赤だった。赤のワンピースに赤のマフラー赤い靴。以前見たことのあるストーカーファッションか。

 恋人の好みに合わせたのだろうが、一般から高評価を得られるかは微妙だと思う。始まりの会長はその格好を見て、良い趣味だと言わんばかりに感心しているが。

 これで赤が被ることになるのか。普通ならインパクトのある格好なのだが、赤好きの始まりの会長がいたことが不運だった。

 さて、やましい気持ちは全くないのだが、ラッミスたちを勝たせる為の情報を得る為に、渋々、着替えている最中の出場者の様子を、じっくり、見逃さないように観察をしないといけない。


「ねえ、ハッコン。変なところ見てない? 明かりが点滅してるよ」


 しまった、心の動きが照明とスイッチの明かりでわかると、以前もラッミスに指摘されたのだった。ここは平常心で対応しなければ。


「あたりがでたらもういっぽん」


「ハッコンって惚ける時に、よくその言葉使うよな」


 くっ、ヒュールミから冷静な指摘をもらってしまった。迂闊な言動は自分を追い込むことになりそうなので、控えることにしよう。

 この騒ぎに気が付いたシュイがこっちに歩み寄ってきた。彼女も一緒に何か頼みごとでもあるのだろうか。


「って、そんなこと言いたい訳じゃなかったの。このままじゃ、たぶん……ううん、きっと、シャーリィさんには敵わない。うちらじゃ、もうどうしようもなくて」


「都合の良すぎる頼みだとはわかっているが、女性の魅力を押し上げるような商品があったら、頼むっ!」


「お願いするっす!」


 三人が手を合わせて拝んできた。

 ええと、俺も力を貸してあげたいのは山々だけど、服は既に用意している状態で目を引くような小物も用意できない。

 後半開始までは一時間ぐらい休憩があるが、その間にやれることか。

 正直な話、手が無い訳じゃない。一応、こんなこともあろうかと考えていたことはある。だけど、三人となると時間が足りない恐れが。


「さ く が あ り」

「ま す で も」

「た り ね い」


 江戸っ子風になってしまった。「じ」と「な」が言えたらもっと上手く伝えられるのだが。


「ええと、考えがあるけど足りないんだよね。何が足りないのかな……道具?」


「ざんねん」


「ってことは、時間?」


「いらっしゃいませ」


 こうやって言葉を繋ぎ合わせられるようになっても「はい」「いいえ」の「は」と「え」が言えないので、今まで通り「いらっしゃいませ」「ざんねん」で返事をした方が早い。


「策はあるが、それをするには時間が足りねえってことか。それって、三人分だと時間が足りないってことか?」


「いらっしゃいませ」


 一人……いや、二人なら何とかなるかもしれない。


「じゃあ、何をするのかはわからないっすけど、二人がしてもらえばいいっす。二人が優勝したら商品は貰える約束っすから」


「えと、いいの?」


「いいっす! 二人の方が優勝への想いは強いっすからね」


 そう言って身を引いたシュイは眩いばかりの笑みを浮かべた。


「わりぃな。まあ、オレはおまけだが万が一、優勝できたら絶対に賞品は渡すから安心してくれよ」


「うんうん、約束する!」


 シュイはその言葉を聞いて満足したようで、俺たちから離れると服を脱ぎ始めた。

 そして、二人は俺の視線から着替える姿が遮られる場所に移動した。わざとだよな……。


「ハッコン、何だって耐えるから、お願い!」


 正直言って自信はないが、やるだけやってみよう。俺のテクニックで彼女たちを輝かせてみせるぞ。





 俺は再び審査員席へと戻ってきた。時間ギリギリだったので控え室……控えテントまで迎えに来た熊会長に運ばれてだが。


「何をしておったのだ。公正な審査をせねばならぬ。賄賂などは厳禁だ」


「いらっしゃいませ」


 やましい事をしていたわけではないので、そう返事しておいた。

 手は貸したが審査に手心を加えるつもりはない。まあ、俺の好みで左右されるのは勘弁してほしいけど。


「始まったようだな」


 舞台に視線を移すとトップバッターのアコウイが舞台に進み出ていた。

 手には口を紐で縛った袋を二つ持っている。そんな物で何をする気なのだろう。先が読めないけど楽しみにさせてもらおう。





 あれから、次々と出場者が現れては特技とお気に入りの服装を披露している。

 フィアは全身を赤で統一したファッションで舞台上に作業道具を用意すると、ポーションの調合をしていた。

 スコは自分の半分ぐらいはある肉の塊をあっという間に平らげていたな。

 始まりの会長の服装は同じだったのだが、舞台に等身大の藁人形を用意すると目にも止まらない蹴りの連打を繰り出していた。蹴り技が得意なのか。

 藁の人形が真黒に染められていたのは触れないでおこうと思った。隣で闇の会長が身震いしていたが気にしない。


 スオリは社交界にでも行きそうな煌びやかなドレスで現れると、続いて黒服軍団がやってきて組体操のようなことを始めた。

 ちなみにスオリは後ろで満足げに見ていただけだ。これはアピールになるのだろうか。お疲れ様です、黒服の皆さん。

 キコユも格好はそのままだったのだが、ボタンと黒八咫に芸をさせていた。これは会場も盛り上がっていた。でも、あれって芸を仕込んだわけじゃなくて、ボタンと黒八咫の頭がいいだけだよな……。

 そして、楽しみにしていたシュイの番が来た。どんな格好とアピールをしてくれるのだろうか。あのファッション雑誌から、どの服を選んだのか注目だ。


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