ミスダンジョンコンテスト その2
「どうやったら優勝できるか緊急会議を始めるぜ!」
「わーー!」
「やってやるっす!」
夜も更けているというのに同年代の女性が三人集まると華やかだな。
司会進行はヒュールミ。ラッミスとシュイは今のところ聞き役のようだ。
シュイは俺の商品目当てで出場を決めたそうだ。予想通りにも程がある。
対策本部としてラッミスとヒュールミの住居であるテントが選ばれた。何故ライバル関係にある筈の三人が力を合わせているのか、それには理由がある。
ミスダンジョンコンテストは想像以上の反響で参加人数が相当な数になるそうだ。
優勝賞品も俺の商品だけではなく、スオリが提供してくれた魔道具や貴金属類も増えているそうで、それ目当ての女性が結構いるらしい。
そして、何よりも彼女たちの危機感を煽ったのはシャーリィの存在だ。
一対一では太刀打ちできないと考えたようで、全員で何とか力を合わせて現状を打破しようとしている。
「まず、当日の進行は順番に舞台に立って挨拶がある。ここは普段着で登場するのが決まりだそうだ」
「元気よく挨拶すればいいっすかね」
「うんうん、そうだよね」
「まあ、そうだな。日頃の自分らしさを見せるのが大事だろう。でだ、問題はその次の特技披露だ。その名の通り自分の特技だけではなく、魅力を見せつけなければならねえって話だぜ。格好は自由らしい」
つまりアピールタイムってことか。
最近ではどこかのアイドルさんたちが投票してもらう為に色々やっていたりするよな。
「特技っすか。じゃあ、弓っすね」
的を並べて矢で射抜く。単純だが、わかり易くていいかもしれない。観客に十分アピールできる特技だ。
「うちは重い物でも持ち上げるのがいいのかな」
怪力も見た目にインパクトがある。見るからに重そうな物を持ち上げると効果的かもしれない。
「俺は発明品を出してみるか」
ヒュールミの魔道具技師の腕は知っているので、これも目を引きそうだ。
何だ、特技披露では彼女たちはかなり有利じゃないか。これなら上位入賞、上手くいけば優勝も夢ではないのかもしれない。
「ただ、問題は……服、だよな」
「これ以外だと寝巻きと普段着しかないっす」
「あっ、うちも」
「右に同じく。オシャレなんて気にもしてなかったからな」
何て寂しい会話だ。年頃の女の子同士が話す内容じゃないだろ。ハンターや魔道具技師をやっていると無頓着になるのか。
まあ、命懸けの職業をしているシュイとラッミスは防具や武器にお金を使っているのだろう。ヒュールミは研究に没頭していて、そういうことに一切興味なさそうだ。
「この階層にも服屋はあるが参加者が押しかけていて、目ぼしい服は全部売りきれちまっていたぜ」
「いっそのこと今ある服を組み合わせるか改良して、布面積を減らして勝負ってのはどうっすか!」
露出度を上げるというのは露骨でありながらも効果的だ。
ミスコンで水着審査があるのは基本中の基本だからな。ただ、この異世界では水着の存在がないようで、プールを作った時も水着を着用している人は一人もいなかった。
「いや、早まるな。露出度勝負では圧倒的にシャーリィが有利だ」
その一言で二人が黙り込んだ。腕を組んで唸っているが、脳内で彼女の姿を思い描いて勝てる見込みがないと判断したのか、揃ってうなだれている。
個人的な意見だと健康美で勝負掛けたら、いけそうな気がするのだけどな。特にラッミスは胸では負けていない。
でも……露出は控えて欲しい気もする。水着や下着の様な格好を見られている場面を想像すると、何故か体内で異音がする。
「特技の演出を考えた方がまだ可能性がたけえと思うぜ。まあ、服装も大事なんだろうけどよ」
既に服装を諦めかけている三人。
服となると自動販売機で購入したことがあるのはTシャツと下着類ぐらいだ。病院にはパジャマやスリッパの自動販売機もあるそうだが、俺が立ち寄った病院にはなかった。
それに今必要なのはオシャレな服ときている。
「服は生地だけなら売ってくれるらしいっすから、作ろうと思えば服を縫えるっすけど」
「えっ、シュイは服を縫えるの?」
「孤児院のみんなには好評っすよ。ダンジョンだと子供服を買うのも一苦労っすからね」
へえー、シュイは服が縫えるのか。繊細な作業だからシュイの性格にはあってなさそうだけど、子供たちの為に裁縫を覚えたのか。
意外と家庭的なところが多くて、いいお母さんになりそうだよな。
「じゃあ、デザインを何とかすればいいのか……オレは自信ないぞ」
「う、うちもそういうのわかんないかな」
「子供服は得意っすけど、オシャレな服ってのがわからないっす」
服のデザインか。あっ、あるよオシャレな服の見本。
俺がとある病気で病院に通っていた頃、病院地下の薬局の隣に自動販売機がずらっと並んでいて、そこに雑誌の自動販売機があった。
健康関連や絵本やゴシップ誌もあったがファッション雑誌も置いていた。
どの雑誌もあまり興味がなかったのだが、一番読めそうな雑誌かなとファッション誌を買った覚えがある。
ええと、まずは〈雑誌自動販売機〉になって、そこにファッション雑誌……あ、あった。これを置けば完了。
「あれっ、ハッコン急に形を変えてどうしたの?」
「なんだこれ、綺麗な絵が描いた本みてえのが並んでいるが」
「見たことない服装してるっすよ」
取り出し口に雑誌を落とすと〈念動力〉で操って三人の前に運んでからページをめくっていく。
モデルの女性が微笑んでいる写真が左右に載っている。
「この服、カワイイ!」
「これなんかいいんじゃねえか。これってハッコンが居た場所の服なのか、すげえな」
「あっ、こういうの好きっす」
三人は俺の存在も忘れて夢中になって読みふけっている。やっぱり、女性なのだなと少し安心した。
この服を完全再現は難しいだろうけど、似た服にするだけでもかなりいい感じになると思う。
この異世界の服もオシャレで個性的な物もあるが、日本の服装の種類には負けている。その中から自分たちに似合いそうなものをチョイスすることが大切だ。
かなり盛り上がっているので、これ以上は俺が口出しする必要もないだろうと傍観者に徹することにした。
服装は朝まで討論が続いた結果、何とか決まったようで雑誌をシュイが持って帰って三人分縫うそうだ。
期限が残り一週間なので、暫く籠って作業すると言い残して去っていった。
残された二人はというと昼間は仕事をして、夜は特技の見せ方を研究しているそうだ。シュイは縫物で忙しいので、弓を使った見栄えのいい的や演出はヒュールミが考えている。
お互いがライバルの筈なのだが、完全に共同作業となっているな。
当初の目的を忘れて楽しんでいるだけの気もするが、ここ最近は色んなことがあり過ぎた。気分転換になっているのなら、良いことなのだけど。
ちなみに選んだ服も特技の練習も一切見せてくれない。当日のお楽しみらしい。
いつものようにハンター協会前で商売をしながら、日に日に準備が整っていく姿を眺めているだけでも結構楽しいな。
横断幕が張られ、会場には舞台が組み上がっていく。闇の森林階層から送られてきた木が大量にあるので材料には困らない。
参加希望者が三十を越えたそうなので、厳選なる書類審査と面接の結果十名までに絞られたそうだ。あの三人はもちろん合格している。
そういえば本番での審査員は各階層のハンター協会会長が担当するそうだ。
公平な立場で判断してもらう為のメンバーらしい。あの個性の強い面々が審査員なのか……みんな頑張れ。
参加者の中にはシャーリィさんは当然として、他にも俺と接点のある人が数名参加しているそうで熊会長が「当日を楽しみにするがいい」と口元に意味深な笑みを浮かべて教えてくれた。
誰が出るのかな。知り合いには綺麗な人が多いから、誰が出ても違和感は無さそうだ。
ラッミスとヒュールミに頑張って欲しいという気持ちはあるが、こういったお祭り騒ぎは楽しんだ者が勝ちだと思う。
誰が一位になっても素直に祝福したいな。




