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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

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繋がる物語

 直ぐに迷路へ向かうことになったので、住民とヒュールミ用に飲食料を大量に残しておく。二ヶ月近くは軽く維持できる量なので、探索に時間がかかっても残した彼らの心配はいらないだろう。

 ヒュールミに無断で行くか迷ったのだが、彼女の性格だと追いかけてきかねないので、ちゃんと説得をしてから行くことになった。


「それ以外に手はないのはわかるが、無謀すぎるだろ……はぁ」


 頭がいいだけに他の手段がないことも即座に理解できてしまい、強く止められないのか。


「ま っ て て ね」


「オレがついて行っても邪魔になるだけだよな。わかった、大人しく待ってるが、危ないと思ったら戻ってこいよ。約束してくれ」


 俺を正面から見据える目は真剣で、拒絶を許さない力があった。

 大丈夫、絶対に死んだりはしない。俺の場合は壊れたりしないか。一度、命を落とした身だから、そう簡単に命を手放したりはしないよ。


「う ん」

「ま も り ゅ よ」


「おう、約束だぜ」


 相変わらず返事が締まらないが、そこは勘弁してもらおう。





 準備も終わり備蓄も充分確保されたので、熊会長に背負われて迷路の入り口に向かった。

 門もない迷路の入り口が大口を開けているのだが、見えない壁があるようで、前に進めず入り口で混雑している魔物たちがいる。


「迷路の結界は持続されているようだ。結構な量が押し寄せておるな」


 入り口ギリギリまで熊会長が近づくと魔物たちが興奮して、見えない壁に激しく体当たりをしている。

 無造作に腕を大きく振り上げると、熊会長の爪が赤黒い光に包まれた。そして、腕を勢いよく振り下ろすと爪から赤黒い光が走り、触れた魔物が切り裂かれていく。

 たった一振りで、入り口を埋め尽くしていた魔物の大半が分断された死体と化した。

 ラッミスは純粋な破壊力といった感じだが、熊会長はプラス技の冴えだ。何処に攻撃を叩き込めば一番効率がいいかわかっているのか、もう二度、腕を振るっただけで入り口の敵は死に絶えた。


「では、行くとしようか」


「う ん」


 見えない壁に突っ込んだのだが、何の問題もなく入ることができる。念の為に熊会長が迷路の外に一度出てみたのだが、入ったら戻れない仕様ではないようだ。

 迷路のど真ん中を貫くように走る大きな道を進むのかと思っていたのだが、団長は躊躇いなく脇の小道へと入っていった。


「本来、大通りには敵があまり寄り付かぬものなのだが、今はその法則が乱れておる。圧倒的な数の暴力には勝てぬからな。各個撃破しやすい細道の方が安全だろう」


「う ん う ん」


 熊会長が強いとはいえ、四方八方から一気に襲い掛かられたら苦戦は必至。俺が〈結界〉で守れるとはいえ、無茶をする気はないようだ。

 小道を進み分岐路に差し掛かると、熊会長はコートの内ポケットから地図を取り出して、念入りに現在地を確認している。


「ハッコンの情報提供のおかげで迷路階層の攻略がかなり楽になった。感謝する」


「ありがとうございました」


 どういたしまして、と返したかったが言葉が足りない。

 上空からの映像を模写した物なので、今回の地図はかなり精度が高い。罠の位置や魔物の分布図まで描かれている。


「この先は岩人魔の密集地帯か」


 岩人魔ってゴーレムみたいな奴だったよな。以前、ラッミスが粉砕していた。

 刃物が効きにくい相手なので怪力で打ち砕くのが一番向いているそうだ。熊会長の爪は刃物扱いなのだろうか。だとしたら、手間取る相手かもしれない。

 慎重に進んでいると脇道から岩人魔が、いきなり飛び出してきた。足音がしなかったということは、そこに潜んでいたのだろう。

 大きめの石を繋ぎ合わせた歪な人型。大人の人間と同じぐらいの身長なので、熊会長の方が圧倒的に大きい。


「ふんっ!」


 岩がこすれ合う音を響かせながら駆け寄ってきた個体に熊の手が振り下ろされた。

 俺の心配は杞憂だったか。いとも容易く岩人魔が脳天から二つに割られて地面に転がっている。


「この程度の硬度なら問題ないようだ」


 追加で現れた二体は掌底と足を掴まれて地面に叩きつけられたことで、戦闘不能になっている。

 安定感のある戦い方だ。一体目での戦いで、どの程度の力で攻撃すればいいかを理解したようで、ラッミスと違い全力で打ち込むのではなく、力を制御して戦っているのが良くわかる。

 二時間ほど進み、単発で現れる魔物を駆逐していたのだが少し休憩を取ることになった。

 俺がスポーツドリンクと軽食を用意すると礼を口にして、壁に背を預けほっと一息吐いている。


「ハッコンを背負って思ったのだが、ラッミスの桁外れの力を実感させられた。このように運ぶのは可能だが、彼女のように楽々というわけにはいかぬようだ」


 足を伸ばして座り込んでいる熊会長が苦笑いを浮かべ、スポーツドリンクを一気にあおった。

 五百キロを超える俺を運ぶだけでも大したものだが、疲労が思ったよりも蓄積されている。ラッミスが軽々といつも運んでくれているので誤解しかけていたが、俺を運ぶだけでも普通は一苦労なのが当たり前だよな。


「とはいえ、結界で守ってくれるのはありがたい。ゆっくり休憩ができ、食料の心配も必要ないというのは本当に助かるものだ」


 守りは任せて、ゆっくり体力の回復に努めてください。

 かなり体力を消耗していたようで軽く睡眠を取り始めた熊会長を〈結界〉でカバーしながら、周囲を見回している。

 そういえば、階層主は復活しているのだろうか。あの燃え盛る骨巨人――炎巨骨魔がいるとなると、会長一人では対処しきれない。現状は上手く事が運んでいるが、この調子で最後まで行けると楽観視する程、甘い考えは持ち合わせていない。

 早くラッミスたちを探しに行きたいと、はやる心を抑え込み警戒を続けていると、微かな音が流れてきた。

 複数の足音と衝突音だろうか。誰かが戦っている?

 この階層の魔物で遭遇したのは、岩人魔、豊豚魔、炎飛頭魔、階層主である炎巨骨魔ぐらいだ。音だけで判断するのは難しいが、距離はそんなに遠くない。

 助けるにしろやり過ごすにしろ、熊会長を起こしておかないと。


「か い ち よ う」


「む、眠ってしまっていたか。すまぬ。何かあったのか」


 元ハンターだけあって寝起きの良さは抜群だ。


「お と が し た」


「音……確かに争うような音があちら側からするようだ。魔物たちの争い……は考えられぬか。指揮官がいるのであれば同士討ちはしないようだからな。とすれば、生き残りのハンターと考えるのが妥当。救いに行くとしよう」


 即座に考えをまとめると熊会長が立ち上がった。迷いが一切なかったな。

 走り出した熊会長だったが、俺が重い為に走る速度は日頃とは比べ物にならない。一刻を争う事態かも知れないので、俺は一番軽い〈ダンボール自動販売機〉にフォルムチェンジしておいた。


「助かるぞ、ハッコン」


 背中の重さを気にしないでよくなると、熊会長は四足歩行で一気に加速した。

 音は徐々に大きく激しさを増している。迷路階層に取り残されたハンターだとしたら一ヶ月も生き延びている時点で、かなり優秀だといえるだろう。

 助けたいという純粋な想いもあるが、魔石を手に入れる為の戦力が欲しいというのが本音でもある。

 曲がり角を抜けた先は、開けた場所になっていて、そこには豊豚魔の群れに囲まれた少女がいた。


 まさか、少女の方が生き延びていたのか!?

 見た目から判断して五、六歳だろう。温かそうな白いコートに灰色の手袋とブーツを履いていて、真冬のようなファッションをしている。

 顔は雪のように白く、目は怯えた様子もなく強い意志が感じられる。閉じられた唇は薄紅色で、小さくて可愛らしい。髪も真っ白でまるで雪の妖精のようだ。


 少女の容姿も目を引いたのだが、他にも注目すべきポイントがあった。

 彼女の隣には荷台が置かれていて、それを引っ張っていたであろう白いウナススが、荷台という名の枷から外された状態で彼女の前に立ちはだかっている。

 ウナスス――つまりこの世界の頭から一本角が生えた猪のことなのだが、このウナススはかなり異質だ。

 まず、俺が見たことあるウナススは全て茶色の体毛だったのだが、このウナススは少女と同じく真っ白なのだ。それに、頭から生えた一本の角が太く長く鋭い。まるで鍛え上げられたランスのような力強さが感じられる。

 そして、何よりも身体のデカさ。今まで見てきたウナススの倍はありそうな大きさで、見ているだけでその力強さが容易に想像できた。


「力を貸すぞ!」


 少女たちに気を取られ背を向けていた豊豚魔を二体切り裂いて吹き飛ばすと、熊会長は少女の隣に立ち並んだ。


「ありがとうござい……ます」


 少女が俺を見て硬直している。〈ダンボール自動販売機〉を背負った熊と遭遇したらそうなるよな。


「この子は仲間です。あと、あの子も」


 そういって彼女が見上げた先には、闇を固めて作り出したかのような大きな鳥がいた。

 それは巨大なカラスによく似ていたが、一目でカラスではないと断言できた。両目の上にもう一つ、第三の目があったからだ。更に、足も三本あった。

 三本足のカラスで思い浮かぶのは日本神話に出てくる八咫烏だが、あれは目が三つもなかった気がする。


「黒八咫、ボタン、この人たちは味方だから、攻撃しないでね。あ、申し遅れました、私はキコユと申します」


 丁寧に挨拶をする、この少女のまとう不思議な雰囲気に、何故か俺は目が離せないでいた。


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― 新着の感想 ―
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[気になる点] 繋がる物語の「迷路のど真ん中を貫くように走る大きな道を進むのかと思っていたのだが、団長は躊躇いなく脇の小道へと入っていった。」の団長→会長 闇の森林階層の「ここは第七階層だな」の七→六…
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