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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
五章

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数と戦闘力

 個々の戦力差があるので、こちらが押し気味に戦えているのだが、敵は無限増殖でもしているのかと、疑いたくなるぐらいに押し寄せてくる。

 もし、魔物が倒されて即座に呼び出せるのであれば、不利になるのはこっちだ。幾ら強くても体力には限界がある。今は総力戦なので休憩を挟めず、消耗していく一方。

 ポイント大量消費を覚悟の上で、巨大自動販売機になるという手も考えはしたが、ここも天井が低すぎる。変化したら潰れるか、崩落するかの二択だ。


 ドライアイスをばらまき二酸化炭素を充満させる方法も考えはしたが、野球場並の空間を満たすには、どれだけ時間が必要なのか見当もつかない。

 ガソリン等を撒いて火を放つのも、俺が単独ならありだが仲間を巻き込むだけ。今まで試してきた戦闘方法の殆どが封じられた状態だ。

 倒すと即座に新たな敵が現れるということは、相手は体力も万全で怪我もない状態で復活するということだ。

 ミシュエルの殺傷力をもってしても、敵の群れを割って敵陣の奥まで進むことが叶わない。切り倒されても、吹き飛ばされても、敵が減っては増える。ジリ貧とは、まさにこのことだろう。


「キリがありませんねっ! 咆哮撃!」


 おっ、ミシュエルの必殺技が炸裂している。

 発動時に技名を叫ぶ必要があるのかとか、野暮なツッコミはしないでおこう。

 その一撃は凄まじく、二十近くの魔物が消し炭と化している。その瞬間、奥の方で同時に幾つもの光が見えた。たぶん、殺されたことにより魔物を新たに召喚して補充したのだろう。

 死んだ数だけ即座に増えているなら、勝てる見込みはないぞ。

 これって、勝つ方法はどうにか指揮官を倒すか、敵を殺さずに無力化するかだよな。無力化する方法なら、心当たりがある。


 該当する人物を目で追うと、鉄棒の先に棘のついた鉄球で魔物を陥没させている男がいた。ヘブイなら精神に干渉する魔法で、奴らに幻覚を見せることも可能じゃないだろうか。

 だが、分岐路の幻覚を発生させたことにより、殆ど魔力が残っていないという話だった。一旦引いて回復を待って再出撃も考慮しておかないとな。

 もう一つの方法である指揮官への直接攻撃なのだが。魔物の群れに遮られて、目当ての敵が何処にいるかすらわからない。

 たぶん、一番奥の壁際だろうが、ただの憶測なので確証はない。というか、そもそも、そこまで辿り着く手段がない。

 いつものように、風船、ダンボールコンボで空からの奇襲も考えたが、天井が低すぎるので敵から撃ち落とされる確率が高すぎる。ラッミスに壁際まで投げてもらったら、楽なのだが絶対にやってくれないと思う。

 駄目で元々頼んでみるか。


「ら っ い す」


「呼んだ? とおおぅ!」


 戦闘中の忙しい時に話しかけて悪いが、何とか説得しないとな。


「あ っ ち に」

「ぽ い し て」


 瓶ジュースの飲み口を敵陣の奥に向けて説明すると、限界まで首を回したラッミスの横眼がジト目だった。

 戦闘が疎かになっても大丈夫なように〈結界〉で覆っておこう。


「向こうに、投げて欲しいんだよね。やだ」


 即座に俺が何を言いたいのか理解してくれるのは嬉しいが、頬を膨らませてご立腹のようだ。

 俺が頑丈なのはラッミスも理解しているのに、未だに乱暴に扱うのを嫌っている。

 彼女の優しさだとはわかっているが、俺としては胴体に鎖でも巻いて、振り回して武器にしてくれても構わないとすら思っているのだが。

 〈結界〉を張った状態で敵に投げつけたら、かなりの威力が出て、俺も移動距離を稼げるというメリットがある。


「か た い か ら」


「いーやっ。ハッコンを道具みたいな扱いしたくない」


 自動販売機は道具みたいなものなのだが、ラッミスは俺を対等の存在として見てくれている。それは嬉しいことなのだが、時には厳しく突き放していいんだぞ。

 最近、依存もなくなってきたと思っていたけど、未だに俺が傷つけられることを極端に恐れている。いや、自分が傷つけてしまうことを怖がっているのか。


「あ い ぽ う だ」


 切実に「ぼ」という発音が欲しい! あいぽうって、締まらないにも程がある。相棒って言いたかったのにっ。


「あいぽうって……ぷっ、あはははははは! うん、相棒だもんね」


「だ か ら し ん」

「よ う し て」


 声を少し低く設定して、少しでも説得力が出るように調整してみたがどうだろう。

 ラッミスは屈むと俺を背負子から降ろした。そして、俺を両手で挟み込むようにして掴むと、額を付けた状態でじっと見つめている。

 あの真剣な眼差し、理解してくれたのか。


「相棒として言わせてもらうね。いーや」


「う っ」


 今、同意する流れだったよね……。


「投げて指揮官がいなかったらどうするの? ハッコン動けないでしょ。ずっと敵が現れていたら、誰も迎えに行けないよ?」


 そうだけど、そこはガソリンとか灯油を散布して、一面を火の海にするとかやりようが。


「もしかして、火を付けようと思っているのかな。でも、そんなことしても敵が違う場所から現れたら、火が邪魔で近づけないし、誰がうちを守ってくれるの?」


 賭けに失敗してラッミスが乱戦状態で孤立してしまう、デメリット。考えていなかったわけじゃないが、守るべき彼女から言われて何も返せなかった。

 最近、自分の思惑通りにいくことが多く、今回も全てが上手くいくと何処か楽観視してなかったか。最悪の展開を考慮していたのか俺は。


「ハッコン。うちを心配して自分だけ無茶しようとしているでしょ。こんなこと思ってない? 自分を過剰に心配しすぎて、無理をさせてくれないって」


 うっ、まるで心を読んでいるような鋭さ。初めて会った頃から、そうだったよな。定型文しか話せない言葉足らずの俺を、いつも気遣い察してくれた。


「それは、うちも同じなんよ。ハッコンがうちの身を案じてくれるように、うちもハッコンに傷ついて欲しくないんよ」


 そうか……そうだよな。相棒を名乗っておきながら、ラッミスに無理をさせずに、自分だけ無茶ばかりしていたら、怒って当然だ。


「す ま ん」


「謝らなくていいよ。うちらは一心同体でしょ。攻撃はうち、守りはハッコン。二人がいれば何でもできる!」


「う ん」


 何もかも粉砕する力と、どんな攻撃も通さない守り。二人がいれば何でもできる。今までだって、そうやってきたのだから。

 自分一人で何とかしようとするのは、もう卒業しないとな。これからは二人で力を合わせて、無謀なこともせずに着実に勝利する方法を話し合って――


「ということで、一人より二人。一緒に特攻するよ!」


「う っ」


 ちょ、ちょっとお嬢さん? 何を口走っていらっしゃるので。それはあまりにも両極端過ぎませんかねっ!

 止める間もなく、身体が前に吹っ飛んだ。いや、俺が跳んだというか、ラッミスが全力で地面を蹴って、走り出したのかっ。


「お お お お お」


 久しぶりに本気走りをするラッミスの背に乗ったのだが、何百キロもある俺を背負っているとは思えない走りっぷりだ。


「えっ、ラッミスさん、ハッコン師匠!?」


 怒涛の勢いで背後から迫る、ラッミスの気配を感じたのか一度チラッと視線を向けただけのミシュエルが、今度は慌てて振り返っている。


「え、え、えっと、蹴散らします!」


 俺たちが特攻しているのを即座に理解して、ミシュエルが大剣を肩に担ぎ、大きく踏み込むと渾身の振り下ろしを放った。

 横に薙ぐのではなく、真っ直ぐ縦に振り下ろした大剣の刃から赤い光が真っ直ぐに伸びる。赤い軌跡に触れた魔物たちが真っ二つに裂けながら、攻撃の余波で左右に吹っ飛んでいる。

 敵の群れの真ん中に、黒く焼け焦げた一直線の道が開けた。


「ハッコン師匠、どうぞ、お進みください!」


 いやいや、止めてくれていいんだぞ!?


「ありがとう、ミシュエル。さすが、ハッコンの一番弟子」


「いやぁ、そんなことないですよ。頑張ってください!」


 ミシュエル、褒められて嬉しそうだな。満面の笑みで見送ってくれているよ。

 ラッミスは迷わず突っ込んでいくし……ええい、腹をくくるぞ!

 無謀とも思える突撃は俺に対する信頼の証と思っておこう。こうなったら、二人で指揮官を探し出して捕縛、もしくは倒すしかない。


「蹴散らすよ、ハッコン!」


「お う さ」


 孤立しているなら、それはそれで戦いようがある。思う存分、ラッミスには暴れてもらうとしよう。


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