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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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泣く幼子、惑う大人

「背後の大箱も、全部同じ中身でしょうか」

「だと思うが、念のために底に何か入っとらんか確認した方がよいぞ。中の人質に武器でも持たれたら厄介じゃからの」


 ぬらりひょんのもっともな意見に、ゴーライはうなずいて自分の一族を呼んだ。待ってましたとばかりに若い衆がどっと押し寄せ、箱の中身を改めはじめる。


 若衆たちの検閲をくぐりぬけた箱は、かつぎ上げられて壁の中へ消えて行った。勝手に食うなよ、とその背中に向かってゴーライは念押しの一言を放っておいた。


 ぬらりひょんとゴーライは次々箱の中身をあけていく。さっきと同じ弁当ばかりかと思いきや、次の箱には丸い筒がびっしり詰まっていたし、その次の箱には目が痛くなるような派手な装飾の箱が入っていた。


 ゴーライがさらに奥の箱をあけてみると、巨大な饅頭まんじゅうが入っている。しかし全体的にひどく焦げていて見苦しい。下手な職人が作ったようだ。匂いもひどく甘臭い。


 ぬらりひょんに聞いてみたが、さすがの彼でもこれはわからないらしく、首をひねるばかりだった。


「これは人質用にしましょうか。皆、手をつけないでしょう」

「そうじゃな。そもそもこんなものどうやって食うんじゃろ」

「全部こんな風だと気が滅入りますね」


 しかし、その後は魚や肉など、わかりやすいものが続いたのでゴーライは胸をなでおろした。


 ようやく全ての箱を調べ終わり、二人は壁の中へと引き返した。全員無事に帰還したことを確認し、また地縮じちぢみがなにやらむにゃむにゃ言うと、壁の穴はひとりでに塞がった。


「どーやってこんな風にしてるのかねえ」


 きゅうがひたすら不思議がって、壁をつっつこうとして地縮にしかられているのを横目に、ゴーライとぬらりひょんは配られた食料の配分にとりかかっていた。


 とりあえずコワイがうるさいので、彼のもとに大量の握り飯と焼き魚を持っていかせ、それから各班への振り分けを決めだした。


 どこにどんな種族がどれだけいるかから始まり、あれが食べられるだの食べられないだのと激論を交わしたあげくようやく話がまとまった。若いものがわっせわっせといきのいい声とともに、最後の紙箱を持ち去っていった時は心からせいせいしたものだ。


 しかし、明日以降もこの作業が続くかと思うとゴーライは心底うんざりする。どうせコワイはこんなめんどくさいことは自分でやらないに決まっているからだ。


 本来は山を駆け、獣を狩っているはずの自分がなぜこんな情けないことに、と天を仰ぎ見たが、そこには暗い空ばかり。星ひとつ見えないさまが、自分の未来の暗示のようで、ゴーライはいっそう気分が滅入った。




 怜香れいかの左隣からぐぐう、と腹が鳴る音がした。座席に突っ伏していた怜香は顔を上げる。左隣にいたみやこが、泣きべそをかいていた。


「どうしたの?」

「ひもじい」


 同じ年頃の子供と比べて、大人びてはいるがまだ三歳。都は欲望を素直に口にする。確かにここに閉じ込められてから、食事は一回もしていない。


「困りましたねえ……」


 一丞いちじょうが眉毛を八の字にして必死にあやすが、それで都の空腹が消えるわけもない。怜香も加わってみたが、結果はかんばしくなかった。


 見張りのイッポンダタラたちの数がなぜかさっきからがくっと減ったおかげで、怜香たちが動いてもまだ注意されてはいない。しかし、これが長く続いて相手に目をつけられてしまっては、なにをされるかわかったものではない。なんとか都の機嫌を直さなくては。


 怜香は右隣の大和やまとに目配せを送る。怜香の意図を察した大和が身を乗り出す。任しとけとばかりに、彼は親指をつき出した。


「よーし、俺がお話してやろか。昔むかーし、あるところにおじいさんとおばあさんがおったとなー」

「じいじ、じいじ」


 大和が鼻の穴をふくらませて昔話をしだしたが、遠く離れたいわおじいさんを思い出させる結果にしかならなかったようで、都はしくしく泣き出した。


 もちろん一丞は額にありったけの青筋をたてて大和を威嚇いかくした。いつもはとろんと閉じかかった目をしているひびきまで、目をつりあげて大和をにらみつける。二人にメンチをきられた彼はすっかりあわててしまい、米つきバッタのように謝りまくっている。


「よしよし」


 まだぐずぐずと鼻をすすっている都のぬくい体を怜香がだっこしていると、ふいに前の席からショートカットの生徒がこちらをのぞき込んできた。


「あ、ごめん」


 皆、状況のわからない中で一カ所に押し込められて気が立っている。子供の泣き声がうるさかったのかと思い、怜香は謝った。


「なんで謝るの?」

「音が気になったかと思って」

「違うよ」


 生徒は即座に怜香の考えを否定した。確かに、音をとがめるにしては彼女の表情が柔らかい。


「じゃあ、どうしたの?」

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