藪をつついて蛇を出す
「本当か」
「今、カナメの弟からみんなにメッセージが入ったの。大統領の対処次第だけど、なんとかそこまでには説得してみるつもりだって。リアムも後で見てみるといいわ」
「ゴネるかもしれないけど、怒りのピークは越したみたいだな」
「そ、そう。そうなんだ」
リアムは両手を大きく天にかかげた。とにかくありとあらゆるものに感謝したい。その様子を見たチームメイトたちも、表情を和らげた。
「だからそれまでに足、治しなさいよ。パーティーは派手にやるからね」
「そうよ。あ、私たち予行練習でクッキー作ったからこれ食べ」
「おおっと、フライトの時間が迫ってきたんじゃないかマイロン」
「そうだな。残念だが、お暇しよう二人とも」
「任務だ任務。任務が僕らを待っている」
「え、ちょっと」
「何急いでるのよう。リアム、じゃあねー」
不吉なアイテムの出現を察した男性陣が、ものすごい速度で女性たちを引っ張りながら廊下へ消えていく。リアムは呆然としながらそれを見送った。
「……全く、落ち着かん連中じゃ。若いから仕方ないがの」
ドクターはぶつぶつとつぶやきながら、リアムの顔を見た。
彼は愚痴りながらも、どこか嬉しそうに笑う。ドクターもさんざん要に迷惑をかけられつつも、最後まで面倒を見たメンバーだ。
(早く戻ってきなよ、カナメ。ここももう、君の居場所なんだから)
海の向こう、聞こえるはずのない彼女に呼びかけてみる。恋人としてはまだほど遠くても、絶望するほどの関係ではないのが救いだ。
(とにかく今は、足を治すこと……ん?)
リアムは気配に気づいて、ドクターを呼び止める。
「あ、ドクター。その抱き枕は、ここに置いていって」
☆☆☆
墓参り、というのも久しぶりだ。
市内では死者も多く、墓石が不足している。しかし紫の前には、真新しい墓がそびえていた。生前の彼女と同じで、小さくはあるがどっしりとした重みがある。いい石を使っているのはすぐに分かった。
「たかのん、先に行っちゃったねえ」
旧友に向かって、紫はつぶやく。京はまだ暑い。紫は墓石にざばざばと墓石に向かって水をふりかけた。
霊前には、真新しい白い花が供えられている。しかしその長さや大きさはばらばらで、花屋で買ったようには見えなかった。
(……ああ、来たのね)
隼人から聞いた話を思い出す。
『僕たちの先祖……ひいひい祖母さまくらいかな、数年間姿を消していた時期がありましてね』
『彼女は「天狗と暮らした」と言っていたようですよ。信じる者はわずかでしたが』
邪推に過ぎないのかもしれない。本当のことを知っている者は、ほとんどこの世を去っている。それでも、知れて良かった。心から、紫はそう思う。
「花、こんくらいでいいかのう」
両手いっぱいに白い菊を持った巌がやってくる。彼はこぢんまりとした墓を見て、顔をしかめた。
「多すぎたか」
持ってきた花の半分を置いた時点で、すでに墓は埋まりかかっていた。まつりはきっと、苦笑いしているに違いない。
「仕方ないの、持って帰るか」
墓に向かって一礼をすませてから、巌が残った花に目をやった。
「──ううん、置いていこうよ。お墓は他にもあるし」
紫は知っている。なじみの天狗が、自分にだけこっそり教えてくれたのだ。
この近くに、鬼一の墓があると。
それはあまりに不自然だ、と紫は思った。鬼一の墓なら、何よりも鞍馬にあるべきではないかと。すると、紫の動揺を見透かしたかのように、天狗は言った。
『もちろん鞍馬にも墓はあるよ。ただ、もうひとつ分社ということでな』
そして彼は、いたずらっぽく笑いながらこうつけ加えた。
『あの方にも、鞍馬の鬼一法眼でない時間があってもいいだろう』
紫はうなずく。得心した紫を見て、天狗はそれ以上何も言わずに帰っていった。
「そうか」
今、情報を共有した巌と共に、紫は山道を登る。妖怪でなくては見落としてしまうくらい細い道の終着点に、ようやく墓があった。
どこから持ってきたのだろう、白い巨石が置いてある。名もなにもないが、石の表面には埃一つなかった。石の周りには、てんでばらばらに花や食い物が散らばっている。疾風たちが供えたのだろう。
紫たちはそれを潰さないように、花を置く。今度は疾風が目を丸くする番かもと思うと、おかしかった。
「また来るよ」
もの言わぬ巨石に向かって、声をかける。周りの木がちょうど、返事でもしたかのようにざわっと鳴った。
☆☆☆
「だから、何で俺が寝てる間に全部終わっちまってるんだよ」
「子供じみたワガママを何回言ったら気が済むんですか、頭(代理)」
「そのカッコダイリってのをやめろっつってんだろうが……あいててて」
疾風がうめくと、隼人がちらっと隣の部屋から首を出す。しかし、飯綱が何でもないと言うと、労りの一つもなくさっさと奥へ入っていった。




