それはそれとして興味があります
「お前がそこまで知る必要はない」
「ドクターがそう言うなら。でも、カナメが見たらどう言うだろうね」
「あー……えーと……」
リアムが何気なく言ったことに、ドクターが反応する。それは喜んでいる様子ではなかった。
「どうしたの?」
「ところでお前、親父さんと連絡は」
「最近は全然。ほら、国内でモンスターが多いから」
デバイス使いが総出で対応しているものの、国土全てをカバーするには人手が足りなすぎる。州軍だけでなく陸軍や海兵隊も手伝いに入っているため、このところ父はいつも基地に詰めていた。反対に自分は寝てばかりだから、あえて連絡はとっていなかったのだ。
「孝行息子が仇になったか」
「一体どういうことさ」
「サンダーボルトは日本に帰ったよ」
リアムの思考が、いきなり真っ白になった。
「そんなブロブフィッシュみたいな顔をするでない。ずっとというわけじゃなさそうだからな」
それを聞いて、ようやくリアムの世界に色が戻ってくる。
「ことの次第を説明してください。あとドクター、例えが分かりにくいです」
「ええい、さかのぼって儂のジョークにケチをつけおって。言っておくが、そう難しい話ではないぞ」
ドクターが語った内容は、本人の言う通り単純なものだった。
日本のデバイス使いには、政府に反抗しないよう制御装置がついていた。それが先の事件の時に発動してしまい、要は意識を失ったのだ。
「誰が悪いわけでもなかった。しかし大統領は、当初このことを知らなくてな」
肝心な時に役に立たないのでは意味がない、と彼女の身柄を送り返すことを決めてしまったのだという。
「リアム、今度はワラスボのような顔に」
「続きをどうぞ」
「……まあ、すぐに彼女は復活して、大統領も考えを改めたが。そのことがサンダーボルトの耳に入ってしまってな」
恐れられることはあっても、不要だと言われたことはほとんどない天才。この仕打ちがどれだけ彼女のプライドに障ったかを想像して、リアムは震え上がった。
「で、すねて日本に帰ってしまったわけだ。ただ、彼女の弟が説得を続けているらしい」
「僕のために」
「『だんだんこっちでもて余してきたから引き取ってくれ』だそうで──今度はコウモリダコに似てきたな」
そのツッコミもう飽きました……と言うか言うまいかリアムが迷っていると、不意に部屋の扉が開いた。
「ハロー」
「元気か?」
「お見舞いに来たわよ」
「……これは何?」
デバイス使いチームが、連れ立ってやってきた。抱き枕に対して不信感のこもった視線が飛ぶが、リアムは見なかったことにする。
「ありがとう」
見舞いの花やら菓子やらを受け取ってから、リアムは聞いてみた。
「みんな、よく集まれたね。今、忙しいんだろ」
「そう、一時間もしたらまた空港に集合だよ。ただ、様子はどうかと思ってね」
「一番気にしてたのはタイロンだけどね、ふふ」
「こらっ」
にこにこと笑うモニカの横で、タイロンがあわてる。彼とチームを組んでいる時にリアムが怪我をしたものだから、未だに気を病んでいるのだろう。真面目なタイロンらしかった。
「気にしないでって言ったじゃない。軍人なんだから、怪我するのも仕事のうちだよ」
リアムが手を振ってやると、ようやくタイロンは白い歯を見せた。マリアナも彼の肩をたたく。
「そうよ。ちょっと左手見てみなさい」
彼女が指差す先には、「これ、柄違いでオーダーできる?」とドクターに問いかけるディランがいた。
「あんな感じでも生きてるのよ」
「少し心が楽になった」
「……そのついでに抱き枕からディランを離してほしい」
「任せろ」
印刷物であっても、彼女に他の男がくっついているのは気にくわない。
「横暴だぞ」
「ここはリアムの部屋なの。家主の意見が最優先よ」
ディランがおとなしくなったところで、「そうそう」といいながら、モニカが手をはたいた。
「リアム、ハロウィンってあいてる?」
「今のところ大丈夫だけど、まだ足は完治してないよ」
リアムが言うと、モニカは大きな目をさらに開いた。
「まあ。車椅子くらい用意してあげるわよ。大事な日じゃないの」
「大事?」
二人は空中で見つめあう。背後でディランがくくっと低く笑った。
「トミカ、リヤムはずっと寝てたんだよ。さすがにその言い方じゃ伝わらないね」
「あら、忘れてたわ。ごめんなさい」
リアムは苦笑した。ハロウィンはお祭りの日だが、みんな子供でもないのに浮かれている。今年は何かがあるのだろうか。
「今年は暗いニュースが多いから、盛大にやるのかい?」
「まあ、なんて冷たい人。カナメがその日に帰ってくるっていうのに」
「えっ」
いきなり新情報にぶち当たって、リアムは目を白黒させる。ドクターもひゅっと口笛を吹いた。




