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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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最後の罠

「図星つかれて悔しいか。さっきより攻撃が単調になってんぞ」


 かなめは触手の一本を、下から右肘で抱えこむ。そして天魔雄あまのさくの肉を焼きながら、左手で自分の右手首をつかんだ。


 腕でがっちり触手を固定したことを確認し、足を大きく踏み出した。


「おらあっ!」


 根を失って不安定になっていた天魔雄の体を、要は思いきり前方に投げ飛ばす。もちろん手を離す前に、電撃もおまけでつけておいた。


「ぐぎゃ……グルル……」


 海に沈んだ天魔雄が、再度上がってきた。ダメージを受けると、天魔雄は獣の本性をさらけ出す。要の攻撃からその都度立ち直ってはいるものの、彼の傷は決して浅くなかった。


「やっぱり中身はガキだなあ。年相応に赤ちゃん言葉でも話してれば、可愛いげがあるぞ」


 要がからかう。しかし天魔雄は予想よりはるかに早く、体を作り直してきた。


「しつこいな、蟻のくせに」

「調子に乗るな。僕を他のやつらと同格に見てると、後悔するぞ」

「するわけねえだろ、バァカ。お前はモブでその他大勢だ、あたしと並ぼうなんて万年早いわ」


 天魔雄はこれに反論する。しかし彼がしゃべればしゃべるほど、要にとっては愉快だった。


「だってお前、()()()()()()()()


 自分が笑い死にする前に、要はずばりと言ってのけた。


「……怖い? 僕が?」

「どうしてそう思ったかなんて野暮なことは聞いてくれるなよ。理屈の部分は弟任せで、あたしはさっぱりなんだから」


 要はにやついた。今度は自分が、天魔雄を見下ろしている。


「ただわかる。さっきのやりあいも、お前は全く楽しんでなかった。だからあたしを仲間に引き入れて、勝負自体をやり過ごそうとした」


 要なら、強くてめったに会えないような敵と遭遇したとしても、取り込もうとは思わない。まずは一回ぶちのめしてから考える。──だってそうしないと、勝負する楽しみがなくなってしまうではないか。


「違う」

「反論は無意味。あたしがこうだと決めたら、他人がどう言おうがそれは覆らない。女王様ってのはそういう生き物だ」


 己の判断のみを絶対の拠り所とし、したいように振るまい、持てる力を意のままに用いる。そして周りは目を見張りつつ、その結果を受け入れていく。それが要の進んできた道だった。


「気に入らねえ。別の生き方をすること自体は勝手にしやがれとしか言えねえが、お前は『あたしと同じ』だと宣言した。──それだけで、面を見るのも嫌になる」


 要は背筋を伸ばし、拳を握った。


 間違いなく、この攻防で勝負が決まる。長年磨いてきた勘が、はっきり告げていた。


「来いよ、クソガキ。本物の女王陛下が、お前にとどめを刺してやる」

「……ここまでコケにされたのは、生まれて初めてだよ。王は僕だ、跪け下僕!!」


 天魔雄の全身から、黒い霧が噴き出した。それは素早く要の全身を取り囲み、窒息させようと顔にまとわりつく。


 しかし細かな粒子は要の肌に付着した次の瞬間、さっと弾けて空中へ消えていった。


「考えが甘えんだよ。雷は、黒雲を突き抜けて地上まで行くんだぜ」


 次々と、青白い雷光が黒煙の間を走り抜ける。その度に煙が消え、辺りが明るくなっていった。


「くそっ、何故消えない!?」


 天魔雄は取り乱し、触手で要を叩き潰そうとした。


 四方から、大型車両に匹敵する肉の塊が襲いかかってくる。のたうつ触手の重量で、海面は大きく引き裂かれた。


「……ギャーギャーうるせえ、店で寝転がってるガキかよてめえは」


 要は体をひねる。左足を軸にして、後ろ足──右に、ありったけの力をこめた。


 〝そう、前の足より後ろを使うんだ〟


 昔、それこそ耳にたこができるくらい叩き込まれた格闘の基礎。その教え通りに、要の足が動いた。


 足が触手をかすめると同時に、雷が天魔雄の体内を走り回る。内部から焼き尽くされた怪物の体が、自重を支えきれず崩れた。天魔雄が、後方に吹き飛ばされる。


「さ、とどめといくか!」


 獣の吠え声が響く海を、要は悠々と渡っていく。光弾は離れることなく女王の後を追い、照らされた海は青く輝いた。


 〝もっと派手なことがしてえんだけど〟


 昔の自分はよくぼやいていた。しかしマックスは、かたくなに基礎をやらせ続けたのだ。


 〝今が一番大事なんだ〟


「ははっ、全くあの頑固親父は」


 苦笑を漏らす要に、天魔雄はさらに苛立ったようだ。突然自分の体を切り落とし、それを次々海に向かって投じ始める。


 天魔雄の体は、海水の中へ沈んでいく。するとすぐに、海が真っ赤に染まった。急激な変化についていけなかった生物の死体が、次々に浮かび上がってくる。


「ははは、恨め恨め、下等生物! 己の運の悪さをな!」


 天魔雄が大量の死骸を見て、嬉しそうに手をたたく。死骸は互いに絡まって鎖となり、飛び上がって要の全身にからみついた。


「どうだ、動き回れまい。今、貴様の足を奪ってやる」


 死骸たちは白目をむいたまま、要の足に食らいつく。すでに命を失った者たちは雷を受けても、繰り返し再生してきた。


「あー、これ面倒なやつだ。海に落ちても、毒で死ぬだろうしな」


 要が面白くなさそうにつぶやく。


「察しが良いね」


 形勢が逆転したと悟った天魔雄が、眼球をしきりに回転させる。もはや、美少年の面影はどこにもない。


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