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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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八つ当たりと邂逅

「まだ敵は健在です!」


 だが、これだけ撃っても緑の盾が消えない。しかも、砲台が味方艦に向けて大きく口を開き始めた。


「二佐、退避を!」

「この図体の艦が、今から動き出しても間に合わん」

「……二佐。逃げずとも、大丈夫さ」


 覚悟を決めて椅子に座り込んだあおいに向かって、門別もんべつが言う。


「崩れる時ってのは、案外あっけねえ。私らはいつも、それを待ってるのさ」


 彼女の言葉が終わると同時に、敵砲台に変化が生じた。


「盾が消えました!」


 ついに砲台が防御を解いた。盾を失い、弾の雨にさらされている。


「行け、門別。カタをつけろ」


 弾がなくなるまで、あと一分もない。葵は声をあげた。


 門別から返事がない。今までわずかにあった、彼女の生活音も消え失せた。


「二佐……」

「放っとけ。──死神が本気になったら、誰もその姿を見ることはできない」


 葵がそう言った次の瞬間、一際大きな光が砲台めがけて飛びこんだ。


 誰もがまばたきを忘れて、画像を見つめる。敵砲台の口が、外れるように開ききった。そこから大量の光が溢れてくる。


 だが、それは味方艦に向かわず、砲台の喉元で何度も跳ねる。明らかに攻撃でなく、自爆の動きだった。


 葵は握りしめた手を、ようやく緩める。肺の中に空気が流れこんでくるのが分かった。


 敵砲台は、さらに崩れていく。爆発はさらなる爆発を呼び、乗数的に進行していった。もはや、元の姿を保つこともできない。


 ついに足の一本が、途中から折れ曲がった。続いて他の足も崩れ落ちる。


 砲台が胴体だけになると同時に、中心から砕け散った。それが終わると、ようやく画面から光が消える。


 あとにはわずかな砲台の根元と、周りに散らばった弾痕だけが残っていた。


「……やった」


 誰かの声が響く。それが呼び水になって、歓声があがった。


 しかし今度も、葵はむっつり黙ってモニターをにらんでいる。そして無線機をとった。


「おい、当主様」

「はいはーい」


 子供が遊園地で遊んでいる時の声で、かなめが答える。


「どんな感じだ、今」

「怪物がずーっと出てくるんだなあ。いっそこれ持って帰って」

「やめろ」


 やはりこの姉に、人間の神経を要求してはいけなかった。


「奴の本体は、近いか」

「やーけに焦ってどーした」

「新型の砲台が出た。今までの奴と違って、速射砲にもある程度対応してくる」


 艦を余計にとられるのも困るが、もっとタチが悪いのは弾切れである。補給艦はいても、物資は有限なのだ。


「長引いたら困るのか」

「そういうことだ」

「──それならもう大丈夫だ。奴の顔が見えてきた」


 葵は肩の力を抜く。それならもう、天魔雄あまのさくも砲台を量産する余裕はない。


「良かった。じゃ、切る」


 ぞ、まで言う前に、要の方から通信を切られた。



☆☆☆



 奴等の連絡手段は封じた。目も耳も失い、抵抗する術などなにもなくなったはずだった。


 それでも天魔雄は、認めざるを得ない。逆転のための策が、全て失敗に終わったことを。


(何故だ)


 自分の解釈が間違っていたのだろうか。生成物に欠陥があったのだろうか。


(──否)


 違う。そんなことはありえない。王のやることは、全て正しいのだ。


(間違ったとしたら、あいつらしかいない)


 天魔雄は憎しみを募らせた。それを察知した思考体たちが、一斉に騒ぎ出す。しかし、所詮体の全てを天魔雄に依存している彼らが逃げ切れるはずがなかった。


 天魔雄はそんな思考体たちに、あえて実体を与えてやる。丸い胴体に目と口はついているものの、それを支える足は糸のように細い。移動できないように作った体だ。


 怯える彼らに向かって、天魔雄は口を開いた。


「お前らが間違った」

「決してそんなことは!」


 思考体たちは、いかに自分たちが正しいかをまくしたてた。しかし、天魔雄はそれを聞いてなどいない。


「いいや、間違いだ。──俺がそう決めたのだからな」


 王とは神である。黒であっても、王が白だと思えば白くなる。他の者に許されているのは、伏してそれを受け入れることのみだ。


「そんな」

「もう貴様らに用はない」


 天魔雄の体が、ようやく地面に根を張り始めた。間もなくこの世界の生物は、全て思うままになる。


 分析する必要など微塵もない。全て押し潰した上で、新しく作り直せば済むのだから。そんな時に、自分にあれこれ介入してくる思考体など、邪魔なだけだ。


「ひいっ」


 思考体たちは、他の存在を探して乗り移ろうとする。しかし天魔雄は結界を張り、彼らを完全に閉じ込めた。


「た、助け……」

 彼らは慈悲を乞うたり、か細い手足で結界に挑んだりした。しかし全ては、天魔雄の掌の上である。


 天魔雄は巨大な手指をゆっくり伸ばし、彼らをつかんだ。思考体たちは握りつぶされ、空中の塵となって消えていく。


(これでいい)


 天魔雄はすでに、母の気配がこの世から消えたことに気付いていた。


(母はいなくなった)


 もう、自分は誰にも頼らない。ただ向かってくる者を圧倒し、間違いを犯したと思い知らせてやるだけだ。


「!」


 その時、天魔雄の体に鈍い痛みが走った。生まれて初めて知る感覚に、顔をしかめる。


(馬鹿な、あれだけ放った分身がいなくなったというのか)


 探しても、彼らの反応はきれいに消え失せている。そのかわり、目の前に雷光をまとった女が立っていた。


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