除菌、完了
「他の仕事があるから、広範囲は無理じゃがな。できる嫁でよかったよかった」
「貴様……」
すでに対策がしてあったということは、三千院は最初からこの形に持ち込むと決めていたのだ。そこまで読まれていたのか、と天逆毎は歯がみする。
「人はすぐ死ぬからなあ……積み重ねて、積み重ねて、分析して、分析して」
「それしかないのだろう」
「お前はそうとった。儂は『それができる』と思った。さあ、最後に笑ったのはどっちかな」
答えは出ている。しかし、大人しく認めてやる気も無かった。
三千院が拳を振り上げる。それに楯突くように、天逆毎は大きく口を開けた。
☆☆☆
「……葵。DTS内、全てのウイルスの駆除が終わった」
響がようやくそう言った。はじめに機能を制限してから、四十一分。少してこずったようだが、それでも見事に彼女はやってのけた。
「すまん。助かった」
「……じゃ、後はしっかり」
響は消えるような声を残して、ログアウトしていった。逆に葵は、できるだけ大きく叫ぶ。
「システム修復完了。全機関、再起動だ!」
「了解」
「了解」
士官たちの顔が明るくなる。次々とモニターに光が点り、司令室はいつもの姿を取り戻した。
「敵砲台への自動ロックオン、再開します」
「これで全員、少しは休めるな」
葵は息をつく。誰も弱音を吐くことはなかったが、負担になっていたのは間違いない。今からは、本来の任務だけに集中させられる。
「二佐、遮断中にたまっていたデータが一気に送られてきてますが」
「見せてくれ」
敵の位置データ、艦の配置。それに加えて、本国からの情報。様々な味方からの戦況報告に、葵は目を通す。
「あ」
情報の波に埋もれていた葵は、特定の文字列に気がついて手を止めた。
「……二佐?」
ぴくりとも動かなくなった葵に、部下たちが近づいてくる。それでも葵が反応しないので、皆が好き勝手に身体に触ってきた。
(甘やかし過ぎたかな)
今後風紀を引き締めることを心に誓いつつ、葵は追ってくる手を払いのけた。
「二佐」
「生きてる」
「死んでたまるか」
葵は一同をにらんでから、おもむろに言った。
「──天逆毎が死んだ。ジジイが勝ったぞ」
それを聞いた室内が、死んだように静まりかえる。しかしじわじわと、全員の顔に笑みが広がっていった。
感情が臨界点を超えた時、喜びがあふれ出す。あちこちで、小さく拳を握る士官の姿が見えた。不動なのは、葵だけだ。
「落ち着け。まだ勝ったわけじゃない」
士官たちの興奮が引いていく。気まずそうに目を見合わせる彼らに向かって、葵は声をかけた。
「ただ、大きな一歩だ。これで目の前のあいつを潰せば、勝ちになる。やるぞ」
「はい。最後まで、よろしくお願いします」
次々と同様の声があがる。全員が再びまとまった時、門別からの報告が呑気な雰囲気を切り裂いた。
「二佐あ、士気が上がったところ申し訳ありませんけど。奴に動きがありました」
葵は直ちに対応する。
「レーダー起動」
「敵情報解析、すでに完了しています」
「新砲台、本艦からの距離、約二十キロ」
「ロックオンしろ。デバイス使いとの打ち合わせはこっちでやる」
部下たちに砲を任せ、葵は無線機に向き合った。
「いるか、『白い死神』。相手の位置は?」
「捕捉済み」
「わかるのがすごいな。二十キロ先だぞ」
数多の敵を銃撃で葬り去った、人類史上に残る名狙撃手。冬戦争の英雄の名を冠したデバイスを持つ、狙撃手唯一のSクラス。
門別 鶫。その腕は前評判通りどころか、それを遥かに上回っている。
「いけるか」
「なんも問題なし。急いでください、もう時間がないです」
葵はちらっと部下の方を見た。いつでもいけます、と返事がある。
「行くぞ。目標捕捉、砲撃始め」
「新砲台に対するリモート完成」
「砲台の画像データ、転送されてきました」
画像を見た葵は、わずかに目を細める。
「……形状が違う」
今までの砲台よりさらに大きく、頭が長い。しかも全身に、細かい眼球が張り付いていた。
(この戦いの最中に、進化した)
おそらくあの砲台は、全てにおいて今までのものを上回る。威力も、発射速度も……そして防御システムも。
「射程内に目標が存在する砲は、全て攻撃に参加させろ。絶対に甘く見るな」
「了解」
「了解!」
「ひゅうが、しまかぜ準備完了」
「くらま、あしがらも完了しました」
「ちょうかい、たかなみ完了」
「あたご、しらねも準備できました」
全八隻の砲が、新砲台に向けられる。一分間に四十発撃てると仮定して、その八倍で三二〇発。
(これで相手の盾を上回れるか……勝負だ)
葵は知らず知らずのうちに、拳を握っていた。
「門別。頼むぞ」
「おう。遠くから来たんだ、少しはいいふりこかせてくれや」
門別もそれなりに緊張しているのか、地元言葉が出ている。しかし本番ではやってくれるだろうと、彼女を信じるしかなかった。
「ひゅうが、しまかぜ。撃ち方、始め」
葵の指示と同時に、砲が動き始める。切れ目のない攻撃が、敵に襲いかかった。
「二佐……」
「分かってる。やはり、今までより上だ」
敵砲台は、二隻分の攻撃を緑色の盾で防いでいる。それを見た葵が言った。
「残り六隻も援護に入れ」
「了解!」
最初の艦が弾薬を撃ち尽くす前に、他の艦も援護に入る。これで八隻による最大攻撃が実現した。




