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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
664/675

除菌、完了

「他の仕事があるから、広範囲は無理じゃがな。できる嫁でよかったよかった」

「貴様……」


 すでに対策がしてあったということは、三千院さんぜんいんは最初からこの形に持ち込むと決めていたのだ。そこまで読まれていたのか、と天逆毎あまのざこは歯がみする。


「人はすぐ死ぬからなあ……積み重ねて、積み重ねて、分析して、分析して」

「それしかないのだろう」

「お前はそうとった。儂は『それができる』と思った。さあ、最後に笑ったのはどっちかな」


 答えは出ている。しかし、大人しく認めてやる気も無かった。


 三千院が拳を振り上げる。それに楯突くように、天逆毎は大きく口を開けた。



☆☆☆



「……あおい。DTS内、全てのウイルスの駆除が終わった」


 ひびきがようやくそう言った。はじめに機能を制限してから、四十一分。少してこずったようだが、それでも見事に彼女はやってのけた。


「すまん。助かった」

「……じゃ、後はしっかり」


 響は消えるような声を残して、ログアウトしていった。逆に葵は、できるだけ大きく叫ぶ。


「システム修復完了。全機関、再起動だ!」

「了解」

「了解」


 士官たちの顔が明るくなる。次々とモニターに光が点り、司令室はいつもの姿を取り戻した。


「敵砲台への自動ロックオン、再開します」

「これで全員、少しは休めるな」


 葵は息をつく。誰も弱音を吐くことはなかったが、負担になっていたのは間違いない。今からは、本来の任務だけに集中させられる。


「二佐、遮断中にたまっていたデータが一気に送られてきてますが」

「見せてくれ」


 敵の位置データ、艦の配置。それに加えて、本国からの情報。様々な味方からの戦況報告に、葵は目を通す。


「あ」


 情報の波に埋もれていた葵は、特定の文字列に気がついて手を止めた。


「……二佐?」


 ぴくりとも動かなくなった葵に、部下たちが近づいてくる。それでも葵が反応しないので、皆が好き勝手に身体に触ってきた。


(甘やかし過ぎたかな)


 今後風紀を引き締めることを心に誓いつつ、葵は追ってくる手を払いのけた。


「二佐」

「生きてる」

「死んでたまるか」


 葵は一同をにらんでから、おもむろに言った。


「──天逆毎が死んだ。ジジイが勝ったぞ」


 それを聞いた室内が、死んだように静まりかえる。しかしじわじわと、全員の顔に笑みが広がっていった。


 感情が臨界点を超えた時、喜びがあふれ出す。あちこちで、小さく拳を握る士官の姿が見えた。不動なのは、葵だけだ。


「落ち着け。まだ勝ったわけじゃない」


 士官たちの興奮が引いていく。気まずそうに目を見合わせる彼らに向かって、葵は声をかけた。


「ただ、大きな一歩だ。これで目の前のあいつを潰せば、勝ちになる。やるぞ」

「はい。最後まで、よろしくお願いします」


 次々と同様の声があがる。全員が再びまとまった時、門別もんべつからの報告が呑気な雰囲気を切り裂いた。


「二佐あ、士気が上がったところ申し訳ありませんけど。奴に動きがありました」


 葵は直ちに対応する。


「レーダー起動」

「敵情報解析、すでに完了しています」

「新砲台、本艦からの距離、約二十キロ」

「ロックオンしろ。デバイス使いとの打ち合わせはこっちでやる」


 部下たちに砲を任せ、葵は無線機に向き合った。


「いるか、『白い死神』。相手の位置は?」

「捕捉済み」

「わかるのがすごいな。二十キロ先だぞ」


 数多の敵を銃撃で葬り去った、人類史上に残る名狙撃手。冬戦争の英雄の名を冠したデバイスを持つ、狙撃手唯一のSクラス。


 門別もんべつ つぐみ。その腕は前評判通りどころか、それを遥かに上回っている。


「いけるか」

「なんも問題なし。急いでください、もう時間がないです」


 葵はちらっと部下の方を見た。いつでもいけます、と返事がある。


「行くぞ。目標捕捉、砲撃始め」

「新砲台に対するリモート完成」

「砲台の画像データ、転送されてきました」


 画像を見た葵は、わずかに目を細める。


「……形状が違う」


 今までの砲台よりさらに大きく、頭が長い。しかも全身に、細かい眼球が張り付いていた。


(この戦いの最中に、進化した)


 おそらくあの砲台は、全てにおいて今までのものを上回る。威力も、発射速度も……そして防御システムも。


「射程内に目標が存在する砲は、全て攻撃に参加させろ。絶対に甘く見るな」

「了解」

「了解!」

「ひゅうが、しまかぜ準備完了」

「くらま、あしがらも完了しました」

「ちょうかい、たかなみ完了」

「あたご、しらねも準備できました」


 全八隻の砲が、新砲台に向けられる。一分間に四十発撃てると仮定して、その八倍で三二〇発。


(これで相手の盾を上回れるか……勝負だ)


 葵は知らず知らずのうちに、拳を握っていた。


「門別。頼むぞ」

「おう。遠くから来たんだ、少しはいいふりこかせてくれや」


 門別もそれなりに緊張しているのか、地元言葉が出ている。しかし本番ではやってくれるだろうと、彼女を信じるしかなかった。


「ひゅうが、しまかぜ。撃ち方、始め」


 葵の指示と同時に、砲が動き始める。切れ目のない攻撃が、敵に襲いかかった。


「二佐……」

「分かってる。やはり、今までより上だ」


 敵砲台は、二隻分の攻撃を緑色の盾で防いでいる。それを見た葵が言った。


「残り六隻も援護に入れ」

「了解!」


 最初の艦が弾薬を撃ち尽くす前に、他の艦も援護に入る。これで八隻による最大攻撃が実現した。


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