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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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食らって食らって

「まだ生きてる!」

「弱ってはいるが、とどめは刺せなかったか」


 それでも体部を複数箇所やられた怪物たちは、海の中をたゆたうしかできない。頭を出したタイミングを狙おうと、タイロンが銃を構えた。


「なんだ、あれ……?」


 海面を見ていたリアムは、息をのんだ。海の中で怪物たちが入り乱れ、のたくっている。


 はじめは互いの状態を確認し合っているのかと思っていた。しかし、彼らにそんな甘い感情は存在しない。


()()()()……」


 彼らは手当たり次第、目に入った仲間の体をむさぼり食っていた。一番損害の大きかった個体からぼろぼろになり、肉塊へ変わっていく。


 食う方はその個体に価値がなくなると、新しく貪る生け贄を探す──眼下で起こっているのは、その繰り返しだった。


「何だ、これは……」


 狩りが趣味で、野生動物に慣れているタイロンも言葉を失っている。食うに困っているわけでもないのに、彼らはひたすら暴食を繰り返した。


「リアム、俺の見間違いならいいんだが」


 タイロンが低い声でうめいた。


「奴ら、大きくなってないか?」


 彼に指摘されて、リアムは初めて気付いた。確かにさっきと高度は変わっていないのに、怪物たちが大きく見える。


「まさか、共食いをしたから……」


 その仮説が正しいことは、すでに立証された。八から四、四から二と減っていくにつれて、怪物はより大きく、色も鮮やかになっていく。


 そしてとうとう、残ったのは一匹だけになった。


「なんてデカさだ」


 全ての同胞を食らい尽くした怪物は、今までの十倍以上の大きさに成長していた。そして体力も元に戻ったらしく、水しぶきをあげながら海中を暴れ回る。


「ちっ、復活しやがった」


 タイロンが舌打ちをする。リアムも眉をひそめた。


「困ったのは、それだけじゃないよ」


 怪物は完全に海に潜っている。これではタイロンの銃が使い物にならない。


「タイロン、とりあえず君は応援を──」

「リアム、左だっ!」


 切羽詰まったタイロンの声がする。リアムはとっさに後ろへ退いたが、それでは不十分だった。


(相手が、大きすぎる!)


 さっきまでの怪物なら避け切れた。しかし巨大化した後の敵は、胴体の太さが桁違いだ。


「ぐああっ!」


 リアムの足に、怪物の胴がもろにぶつかる。激痛が走ると同時に、足の飛行装置が音を立てて砕け散った。


 目の前が真っ暗になる。リアムはそのまま、海面に向かって落ちていった。



 ☆☆☆



 敵の数が少なくなったので、自然と隊列に隙間ができる。若菜わかなたちはその間をこじあけて、敵の背後に回り込もうとしていた。


「いやー、目の敵にされるでしょうね」

「僕は目立つからさ」

「……別に、兄さんだから狙ってくるわけじゃないと思うけど」


 若菜についているデバイス使いたちが、軽口をたたく。


「古参のあなたたちは怖くないでしょ」


 桜井さくらいに、霧島きりしま兄妹。あおいと一緒に何度も作戦に参加しており、神戸支部の中でも頼れる面子だ。


「それを言われると弱いなあ」

「分かったら、覚悟決めてちょうだい。──来るわよ」


 敵の塊が、遠目に見える。しかしそれをはっきりとらえるより先に、色とりどりの物体が降ってきた。


「ヘスティア」


 ちらっと上を見た桜井が、事もなげにつぶやいた。空中に出現した火柱が、降ってきた物体を焼き払う。


「何だったんだい?」


 兄が妹に聞いた。


「蛇よ。赤いのと青いの」

「きっと毒持ちだろうな」


 桜井が言う。若菜もそれに同意した。


「触らずに突破するのが一番ね。みんな、構えて」


 若菜が言うと、霧島兄妹が左へ移動した。桜井は若菜と組み、右を固める。


「配置につきました? あ、指宿いぶすきですよー」

「よく聞こえるわ」

「このままだとあと三分で敵と接触ですよう」

「了解。はじめましょ」


 若菜は愛銃を構えた。本物の機関銃なら台が必要だが、デバイスならその心配はない。引き金を絞ると、待ち構えていたように弾が吐き出される。この弾のばらまきこそが、機関銃の最大の利点だ。


「さて、調整完了」


 弾の中には、曳光えいこう弾を混ぜてある。弾から光や煙が出るので、肉眼ではとらえにくい弾道や着弾点が判別できる。霧島兄妹もこれを見て、最終調整をしているはずだ。


「被弾域、重ねます」

「了解」


 霧島兄妹の金銀の矢と、若菜の弾丸が次々に敵に突き刺さった。複数方向からの弾幕が重なると、より弾の密度が高い空間を作り出すことができる。このエリアに敵が入れば、通常より仕留められる確率が上がるのだ。


蛇骨婆じゃこつばばがあらかた片付いた」


 赤と青の蛇を投げてきた、厄介な相手は大体潰すことができた。しかしその間にも、敵との距離は縮まり続けている。


「あらら」


 銃手と弓手は、敵から適度な距離を保つのが基本だ。近づけば、攻撃力より守りの甘さの方が強くなる。


 隙を見つけた、と言わんばかりに妖怪たちが勢いづく。長い髪を振り乱した亡魂が、その青白い手を伸ばしてきた。


 しかし若菜たちは、この展開を予想している。自動操縦にしていた車を捨て、飛行装置の出力を上げた。若菜たちの身体は、敵の目前で急上昇する。


「後は任せた」


 ぴたりと背後についていた長谷川がうなずいた。

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