役に、立ったぞ
モニターから、表示が消える。最低限の通信機能は残ったが、艦隊は大事な『眼』を失うことになった。
「砲台〇一、十六再生まであとわずか。くらま、あしがら、やまゆき、やまぎり。各艦発射準備」
「了解。ポイント特定は不鮮明になりますが──デバイス使いは目標を補足しています。必要なのは目眩ましですから、多少のずれは気にせずやります」
「……頼もしい」
現場も、自分たちのやるべきことをしっかりと把握している。葵はうなずいた。
「了解。発射用意」
「発射用意完了」
「目標との距離、維持しています」
「撃ち方始め──撃ぇっ!」
レーダーがないため、着弾したかはデバイス使いの報告がないと確定できない。司令部の中が静まりかえった。
「仕留めたよ。次もよろしく」
ようやく報告があった。士官たちが胸をなで下ろす。
(これが続くのか。昔はこんな戦ばかりだったとしたら、息が詰まるな)
そんなことを考えながらも、葵は次の砲台に意識を向ける。攻撃のローテーションは、すでに頭の中で組み上がっていた。
「次、砲台〇三、〇七。準備」
「了解」
「狙撃班も、所定の位置で待機中」
「撃てっ」
第二陣も、無事に攻撃を終えた。
「目標に着弾したよ。この調子ならまだいけそう」
龍が明るい声で言う。葵はうなずいた。同じペースで、あと四十五分。
「次、〇八と十四」
目標を指示する。その時、門別から通信が入った。
「砲台が増えたぞ」
「なに?」
「デバイスが反応してる。生意気にも、私の艦を標的にしてるさ」
「なるほど……これが狙いか」
通信を遅くし対応できなくした上で、新砲台による一発逆転を狙う。計画としては十分にありそうだった。
「すぐ攻撃してきそうか?」
「いやあ、もうしばらくは。しかし、ずっと黙ってちゃくれなそうだ」
「了解した」
引き続き門別に監視を頼み、葵は他のデバイス使いにも連絡をとる。幸い他のエリアでは、新砲台の出現はなかった。
「砲台に備えて、計画を練り直す」
各砲台の再生までの予測時間、艦の補給・発射までにかかる時間。それを組み直して、新砲台を攻撃する時間をひねり出す。
「とわだ。じんつう、いそゆき組に補給開始」
「きりしま、さみだれ、うみぎり。〇二と〇三に向けて発射用意」
「〇四、着弾確認。次は十を落とす」
何度も繰り返すうちに、徐々にリズムができあがっていく。一定のパターンが決まると、艦にもデバイス使いにも余裕が生まれてきた。
(よし)
楽になってきたのは、葵も同じだ。淡々と口を動かしつつ、少し余計なことを思い出す。
『面白味がない』
『そんなことができて、一体何になるんだ?』
『これからは情報はいくらでも検索できる。計算力なんて役に立たない』
部屋の隅っこで資料を読み漁り計算式を重ねる葵に対して、口さがない大人や先輩たちはよくこう言っていた。
(お前ら全員、首の骨折って死ね)
言い返す時間がもったいないので、葵は心の中で呪いの言葉を吐きまくってうさ晴らしをした。
(戦場に行って機械が使えなくなったら、誰かに譲ってもらうつもりか)
そんなことをしていては間に合わない。全ての情報を頭に入れて噛み砕いた状態、かつ対応策を限界まで用意してはじめて、不測の事態に対応できるのだ。
誰にも認められない。
誉められもしない。
それでも続けてきたことが、今になってようやく生きてきた。
(どうだ、役に立ったぞ)
まだ顔を覚えている大人たちに向かって、葵はうそぶく。
(ざまあみろ)
進行していく砲撃。それは徐々に、敵の戦力をはぎ取っていく。その様子を見たアメリカの士官がつぶやくのが聞こえた。
「たった十八の子供がこれをやったのか。いい土産話になるな」
その近くにいた男が、笑いながら答える。
「嘘つきだと言われるぞ」
するとはじめの士官が言った。
「いいさ。何が正しいかは、俺が知っている」
☆☆☆
「……敵発見せず」
「僕も同じだよ。思ってたより、数が少ないね」
狙撃能力を持たないデバイス使いたちは、各艦の護衛を命じられていた。今のところ所定の位置からずれることもなく、リアムたちは事前に通告されたルートを巡回している。
しかし、二人とも全く気が抜けない。本来三人組でユニットを形成するのに、一人が怪我で離脱してしまったからだ。
「増員がないのはこたえるな」
「国内でかなり人手が必要みたいだからね……仕方ないよ」
「今はまだいい。これが続けば、離脱者は一人や二人じゃ済まんぞ」
「確かにね」
「日本の方がデバイス使いが多いっていうじゃないか。助っ人は頼めないのか」
タイロンの話を聞いて、リアムは手をうった。
「今はあっちも大変だろうけど、その仕組みはいいね。上官に提案してみたら」
「そうするか。ただ、日本側にいる『仮面の男』がうんと言うかだな」
「誰、それ」
リアムが聞くと、タイロンは目を見開いた。
「知らんのか。合同練習にいたと親父が言ってたが」
「演習……?」
正直ずっと要の側にくっついていたので、会った人間の数は限られている。
それでもそんな重要人物なら、一度は顔を合わせているはずなのだが──。
「あ」




