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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
652/675

忍び寄る蟲

 眼球の横から、突起が頭を出した。様々な金属をつなげた機械で、いりくんだ構造になっている。


「以前倒した船にあった部品です。もちろん、食いつくした後に再現した複製ですが」

「よくできたな」

「あのまま無にしてしまうのは惜しいと思いましたので。手間はかかりましたが、色々と面白かったですよ」


 思考体たちは、とりつく対象を選ばない。実体を持っているものであれば、そこへ入り込んで解析する。完全に対象を理解すれば、天魔雄あまのさくの肉体の一部を使ってそれを再現することもできるのだ。


「これは通信装置です。情報を目に見えない波に乗せて放ち、同じ装置で今度はそれを受け取って解析する。もちろん読み取られないよう、妨害機能もついています」

「読めたのか?」

「ええ。信号の一種ですから、必ず規則というものがあります。それがわかれば、後はずるずると」

「うまく使えば、奴等の足枷になるのだな?」

「間違いなく」

「よし、ならそれをよこせ」

「かしこまりました」


 目玉は返事をすると、すぐに天魔雄の中に溶け込んだ。彼の提供した情報を元に、天魔雄は通信機器を量産する。


「待っていろ、生意気な奴等め」


 声は向こうには届かない。しかし天魔雄は、延々笑い続けた。



☆☆☆




「……遅い」


 あおいの頭の中に、疑念がわき起こる。イージス艦に、異変が起こったのではないかと。


「二佐?」

「レーダーからのデータが、遅れている」


 電波を飛ばすと、なにか物に当たった場合反射して返ってくる。これを利用したのが軍事用レーダーだ。返ってきた波のデータは、無線で届いた後に管制とのデータ交換を経てターミナルに蓄積される。葵たちはそこに端末でアクセスして、閲覧し対策を練るのだ。


 近代戦では不可欠な作業であり、全ての艦がこのシステムに依存している。そこに異常が起きているのを、放ってはおけない。


「平均して一秒から二秒、遅れている。何か原因があるはずだ」

「分かりました。まずはアンテナに異常がないか確認させます」


 調査の結果が出るまでの間に、葵はアメリカ側に同じ報告をする。少将も事態を重く見て、すぐに対応すると答えた。


「二佐。整備部からの報告ですが……アンテナ各部に、異常はみられません」


 葵は心の中でため息をついた。物理的な故障の方が、気が楽だったのに。


「異常なし、全てだな」

「各アンテナ、空中線、ECM。いずれも異常ありません」

「そうか」


 事態は最悪の方向へ進んでいた。全ての艦で、同じ症状がみられるようになったのである。しかも、ずれは時間を追うごとにひどくなっていった。


「信じられんが、ウイルス様のものが侵入したとしか考えられんな」


 葵がつぶやくと、部下たちから一斉に抗議の声があがった。


「化け物がそこまで?」

「そもそも、こっちがどうやって武器を動かしているか知らないでしょう」

「そうです。奴がこの世界に生まれてから、まだたった数日ですよ」

「しかしその数日の間に、大量のサンプルを手に入れている。そうじゃないか?」


 葵が言うと、部下たちが顔を見合わせる。


「バークはじめ、他十数隻が攻撃を繰り返した。解析するには十分だっただろう」


 天魔雄の精神年齢はそう低くない。遊び相手とやりあいつつ、対策を練るくらいはしたに違いなかった。


「でも、プログラムの中にどうやって侵入したんでしょう」

「それは今の段階ではわからない。とりあえず、姉貴のウイルス駆除プログラムを試してみるしかないな」


 日本側の電子機器全てに、ひびきがウイルス・バグの駆除システムを送り込んでいる。それを起動して、様子をみることにした。その間に、葵は少将に連絡を取る。


「おお、まだ生きてるか。本物だろうな?」

「ご心配なく。こちらはアンチウイルスプログラムで様子を見ていますが、そちらはどうですか」

「こちらはまだ異常ない」

「ん」


 葵は声をあげた。天魔雄が参考にしたのはアメリカ艦のはずだ。無傷なのは意外だった。


「まあ、そっちはうちのシステムを参考にしてるからな。基本構造が解析できれば、かえって侵入しやすいかもしれん。予算の差でな」


 ぐうの音も出ない。二つ陣営があるなら、守りの薄い方から攻めるのが戦の定石である。


「とにかくこっちは心配するな。ジャミングや衛星データ妨害をうけた場合の訓練もしてる。崩れたりはせん」

「了解。三千院さんぜんいん一佐が本体を片付けるまで、隊列を維持してください」

「わかった。野蛮の国のお姫様に、よろしく言っておいてくれ」


 うまいことを言う、と葵が感心している間に通信が切れた。葵はコンソールに張り付いている技官に顔を向ける。


「どうだ」

「通信速度……やや回復しましたが、通常には戻りません」


 駆除は成功しているが、殺しきるまでには至っていない。響もこの状況を知っていて、気をもんでいるはずだ。


「今のところ致命的な遅れにはなってませんが……心配ですね」


 部下がこぼす。葵もそれに同意した。


「もともとこの作戦は、相手に撃たせないことが前提だからな」


 艦の数には限りがある。天魔雄の砲台がボコボコ増えたら、とてもじゃないが追い付かない。そのために、レーダーで相手の様子を見ていたのに。


「予定の行動に遅延が出ないよう、作業を徹底させます」

「……そうだな。今のうちに補給を済ませておけ。ロープや給油ラインを切られないように注意しろよ」

「分かりました」


 艦への補給は未だに原始的なシステムで行われていた。二つの船の間にロープを通し、コンテナに入れた物品をやり取りする。石油の場合は、ロープのかわりに給油パイプを通すことでこれを行う。


 怪物たちからすれば、動きの止まった船たちは狙い目である。葵は持ち場の決まっていないデバイス使いたちに、補給中の監視を申し伝えた。


 さらにそれから時が経つ。しかし、響のプログラムが動いているにも関わらず、沈黙の時間は長引くばかりだった。



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