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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
646/675

彼の苛立ち

 かなめは心の中でつぶやく。そして大声で怒鳴った。


「お前ら、撃つなよ! あれは囮だ!」


 艦長たちが息をのむ音がする。要はそれを聞きながら、四方八方に雷を放った。


 大体は外れだったが、数発手応えがあった。黒板をひっかくような声が聞こえ、その後電波の流れが正常に戻る。


「まだこんなにいやがったか」


 海上に再び、闇が戻ってきた。そこに、最初に見た怪物と同じ個体が集合している。その数、三十八。


「お前らも人が悪いよなあ。ぺらぺらの分身作らねえでさっさと出てこいよ」


 要はまだ空中を漂っていた、紙状の物体をつまみ上げる。それはうっすらピンクに色づいていた。


 生物の中には、自分の体を切り取って敵の注意を引くものがいる。目の前の怪物も、なりは大きいがやっていることは同じだ。


 彼らの場合は、発光するとともに外皮を脱ぎ捨てる。それが本体だと思っている敵を、裏手から襲うのだ。


「残念だったなあ、相手があたしで」


 襲いかかってくる怪物たちに蹴りを入れながら、要はうそぶいた。


 要は雷使いだ。しかも、強力な。自然と、目は強い光に慣れている。


「ほら、どうした。もっと新しい手はねえのか」


 要は怪物を煽ってみる。しかし彼らは隠し球を持っていないらしく、ただ要に向かって直進するばかりだった。


「ちっ」


 要は舌打ちをする。なりが大きいだけの相手に興味はなかった。


(ちょっとは楽しめると思ったのに)


 失望が要の胸の中に広がる。


「……じゃ、さよならだな。最後くらい、せいぜい派手に散れよ」


 要が指をはじく。青い稲光が次々に発生した。細い雷がより集まって、やがて一本の大きな柱になる。それを要は、無造作に放り投げた。


 再び夜の海が、白に染まる。音をたてながら、雷は好き勝手に海上を暴れ回った。


 耳をつんざくような音、とよく人は表現する。しかし要にとっては、生まれた時からの相棒だ。


(そんなに不快かねえ、雷)


 割り切れないものを感じているうちに、出した雷は溶けるように消えていった。


「おい、サンダーボルト。どうした」

「んにゃ、なんでも」


 艦長たちに返事をしてから、要は周囲の気配を探る。すでに群れは全滅しており、新たな敵もいなかった。


「進んでいいぞ。もうあの化け物はいない」


 要がゴーサインを出すと、艦隊がゆっくりと動き始める。前方にうっすらと、不吉な黒雲が見えてきた。


「あれか」


 本体は隠れているが、あの中には今までと比べものにならないくらい強大な奴がいるのだ。


「わくわくしてくるなあ」

「そんなのお前だけだ」


 艦長たちからすぐにツッコミが入るが、要は気にしない。


「大丈夫だって。泥船に乗ったつもりでいればいいからよ」

「それではすぐ沈むのでは?」

「え?」


 正しくは何と言ったろうか。要は空中でひとり、考え込んだ。



☆☆☆



 天魔雄あまのさくは敵が近づいていることを感じ取っていた。


 自分が根を張り、養分を得るのを邪魔している誰かがいる。それは胸の中に虫がいるように不快なことだった。


『母さん』


 呼びかけても、頼りになる母からの返事はない。一体どうしたのだろう。


 〝お前の体は、まだ十分完成したとはいえないからね。ここを動くんじゃないよ〟


 走り出したい。しかし母にこう言われていたことを思い出し、ぐっとこらえる。


(母の足手まといにはなりたくない)


 その思いが、天魔雄を発奮させる。


(今来ているのは、人間だけ。落ち着いて対処すれば、どうにでもなるはずだ)


 はじめは不意をつかれてしまったが、次は大丈夫。


 最も早く再生してきた砲台三門に、天魔雄は攻撃を命じた。


「今度はこちらが、奴らの息の根を止める番だ。必ず始末しろ」


 砲台たちは直ちに攻撃態勢に入る。しかし、彼らが首を伸ばしきったところで、再びあの雷がやってきた。


「ああっ!」

 防御のための盾は、確かに発動していた。しかし何故か、この雷はそれをも貫いてしまう。


(何だ、こいつは)


 天魔雄の背中を、冷たいものが走り抜ける。その間にも、砲台たちは再び沈黙へと追いやられていた。


「くそっ。反対側の四台は、稼働済みだな」


 体に寄生している思考体たちから、諾の返事があった。天魔雄はようやく笑みを浮かべる。


(あんな妙な使い手が、大量にいるとは考えにくい)


 連射してやれば、あちらも恐怖を感じるだろう。天魔雄は自信をもって、砲撃を命じた。


 今度は間違いなく、光が敵に向かって放たれる。圧倒的な熱量を前に、誰もがひれ伏す──はずだった。


 侵入者たちの動きが止まる。しかし、彼らはしばらくたつと、再び動き出したのだ。


「なんだ、あれは」


 天魔雄には見えた。突然空中に巨大な鏡が出現し、光線をはね返すさまが。


「知らない」


 こんなものが存在するなんて、母は教えてくれなかった。自分は全ての生物の頂点に立つ王である存在だとしか聞かされていない。


 動揺する天魔雄をよそに、思考体たちは次々と冷酷な事実を突きつけてくる。


「東方敵艦隊、進行中」

「同じく西方敵艦隊、進行中。間もなく砲台正面へ布陣」

「東方艦隊、さらに前進」


 天魔雄は低くうなった。腹の底から沸いてくるこの激しい感情を、いったいなんと呼べばいいのだろう。


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