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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
645/675

天の雷

「姉貴」

「おう。初めが肝心だ……派手にいこうぜ」


 モニタが白く光る。かなめの周囲に、鹿頭の巨人が現れた。彼は水晶柱を思わせる剣先に乗り、吠える。鋭い雷の矢が空を埋め尽くした。


建御雷神タケミカヅチノカミ


 武神にして剣神。雷を身にまとう、国造りの功労者。強力すぎて要がその名を呼ぶことはほぼない、伝説上の存在。


 それがこの土壇場に来て、ついに姿を現した。


「遠慮はいらねえ。やっちまえ!」


 矢が一斉に放たれた。夜空が白に染められ、また一瞬で黒に沈む。


(……さあ、どうなる)


 偵察機もうかつには近づけない。成功したかは、要に聞くしかなかった。


あおい

「はいよ、当主様」

「潰したぞ。全部だ」

「その言葉、信じる。全員の命、預けたぞ」

「嘘は言わねえ。ただし、ここまでうまくいったのは初回だからだ。結界が甘かった」


 それは葵にも分かっていた。


「今後は潰せて正面だけだ。そっちは婆さんに任せる」

「はいよー」


 ゆかりが元気のいい声をあげた。こちらも準備は万全のようだ。


 行こう。今しかない。


「──全艦、前進開始」


 大きく息を吸ってから、葵は命じた。



☆☆☆



 要は砲台を潰した後、駆逐艦たちの先に立って前進していた。


 しかし数百キロ進むとなると、こまめにどこかの艦で飛行装置のバッテリーを交換しなければならない。


「面倒くせえ」


 後退する時に、思わず本音が漏れる。それに素早く、艦長たちが反応した。


「だから大人しく甲板にいろと言ったんだ」

「心配しなくても、乗ってればちゃんと俺たちが運んでやるよ」


 しかし要はそれを断る。


「やだよ。数時間じっとしてろなんて、何の拷問だ」


 とにかく動き続けていないと、自分は死んでしまう。そのことは他の誰よりもよく分かっていた。


「それに」


 要は言葉を切った。前方に、敵の気配がする。


 幸い、装置の交換はすでに済んでいた。要は甲板を蹴って、飛び上がる。上空に達した時には、艦長たちも異変に気づいていた。


「レーダー探知。国籍不明のX、当艦に接近」

「航空機からの画像を受理しました。モニターに転送します」


 その後は、要にはさっぱり理解できない専門用語がつらつらと続く。要はそれを右から左へ聞き流した。


 覚える必要はない。前に敵がいる。それが全てだ。


「Xは巨大生物と確認」


 レーダーは正確に作動している。が、それより肉眼で見る方が速かった。


 まるで人工物のような、奇妙な怪物だった。曲がったゴムチューブのような体はピンクに色づき、内部が透けて見える。怪物の腸だろうか、長い器官が体内で忙しなくうごめいていた。


 チューブ状の体の最上部にはレースのようなひだがあり、そのちょっと下に大きな穴がある。おそらく、あれが口だろう。


「別世界からっつっても、こんなもんか」


 正直あまり強そうには見えない。拍子抜けした要は、鼻を鳴らした。しかし乗組員たちは、巨大生物を前に対応を迫られている。


「目標、引き続き当艦に接近中。停止しますか」


 それは無しだな。心の中で、要はつぶやく。


 この海域はすでに、化け物たちの縄張りだ。足を止めてしまえば、その時点で飲み込まれる。


「……いや、前進だ」


 艦長は断言した。


「そうこなくっちゃ」


 要はさらに、怪物との距離をつめる。


「目標接近。魚雷・ミサイルともに射程圏内に入りました。撃ちますか?」


 天魔雄あまのさくには無理でも、あの怪物になら通じるかもしれない。試してみる価値はあった。


 だが各艦の艦長たちは、笑ってその提案を取り下げる。


「やめておこうか」

「本来はそうするべきなのだがね」

「女王様の機嫌を損ねたくない」

「はい、全員合格な」


 十数年の付き合いだ、実によくわかっていらっしゃる。小声で彼らを称えてから、要は飛んだ。


 怪物は口を開け、要の出方をうかがっている。


(止まってくれてんのか。なら遠慮なく)


 普通ならここで罠の存在を疑うところだが、要はそのままつっこんだ。雷球をたて続けに数発、怪物に向かって放つ。


 それは全て、巨体に命中した。怪物の表皮がはがれて、海の中に落ちていく。


(あっけねえが……参ってる様子じゃねえな)


 要は苦笑いして、さらに攻撃を加えようとした。しかしその前に、怪物が動く。


 透明な体中を通っている内臓が、規則正しいリズムでうねり始める。その次の瞬間、辺りが白い光に包まれた。


(いや、光だけじゃねえ)


 普段から電波の流れに敏感な要には、すぐにわかった。この場にあるありとあらゆる電波が、派手にひっかき回されている。


(あー、こりゃ艦は困るわ)


 まず電波利用のレーダーが使い物にならない。そしてこの光では、画像による情報収集も困難だ。


(手のこんだことを)


 ここまでしておいて、何もなしでは済ませてくれまい。必ず、向こうから仕掛けてくる。


 ようやく光が少しましになった時、要の前に黒い影が現れた。しかも、一つではない。


「正体不明の敵影、目視にて確認。距離、およそ三三〇〇フィート」

「砲の使用準備はできています」


 艦からもこの影が見えているようだ。数が多いから、要でも危ないと思っているかもしれない。


(そこそこ面白いかもしれねえな……あれが全部、本物だったら)


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