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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
635/675

狸合戦、決着

「あの砲台も、生物。一定期間をおけば復帰するが、高熱を発した後はしばらく動けない」


 人外とはいえ、艦や戦闘機を落とすほどの熱量を発するというのは負担が大きいのだろう。その証拠に、放出後の砲台は原型をとどめていなかった。


 データをさかのぼって計算させてみたところ、砲台が完全に機能を取り戻すまでには数十分の猶予があった。それだけ時間があれば、艦を前進させられる。


「全ての船を、何時間にもわたって防御し続けるとなるとデバイス使いの負担が大きすぎますが……猶予時間があるとなれば話は別だ。たまに来る相手の砲撃さえ受け止められれば、死の海を航行できる」


 あおいは矢継ぎ早に主張する。しかし、まだ相手のガードは固いままだった。


「ああ。そうだったな。こちらもそれは考えていた」

「なのに何故お忘れで?」

「不可能だから、計算から省いた。デバイス使いとはいえ、人間だ。防ぎきれるわけがない。最新鋭の駆逐艦を沈める砲撃だぞ」

「姉くらいの使い手なら、十分可能です」


 葵が言うと、再びヘンリーの声に嘲りが混じった。


「流石、カミカゼの国だな。砲台三十六門を、本当にさばききれると思うのかね」

「一人なら無理でしょうね。なんせ詰めの甘い姉ですから」


 ヘンリーの傍から「がはは」とかなめの笑う声が聞こえてきた。本人にも自覚はあるらしい。


「他にいるのか?」

「もう一人、姉に匹敵する人材がいます。西側の砲台十八門は、全て彼女が引き受ける。注意するのが正面だけでよければ、結果はかなり違ってきます」

「本当にそんなやつが実在するのか? どの演習でも見た覚えがないが」

「隠していたのです。余力を多く残した者が、最終的な勝者となるのですから。前の大戦で、あなたの国がそれを立証なさったのでは?」

「……うぬ」


 ヘンリーは歯軋りをした。そして、少し考える時間をくれと言う。


「それはダメだ」


 今までとはうってかわって、葵はきつい物言いに切り替える。


「もう時間がない。いくら技術が進歩したとはいえ、艦を敵五百キロのところまで進ませるのに半日はかかる。十六日になったら、人類はもうおしまいだ。敵は万全になり、打つ手はなくなる」

「なんだと」

「今決めるしかないんだ、第五十七代アメリカ大統領ヘンリー」


 格上の相手を呼び捨てにした。相手の荒い呼吸音だけが、受話器越しに聞こえてくる。


「そちらに新しい画像を送った。最初にバリーが相対した時と、今の砲台との比較だ。これを見ろ」


 画像さえ見れば、言葉の説明は不要である。明らかに現在の方が、砲台が大きくなっているからだ。


「射程が伸びるか、熱量が増えるか。目指しているのはその両方かもしれないな」


 敵は着実に戦力を増強している。伏していれば、とりあえず生き延びることはできる。ただ、それはほんのわずかな間でしかない。


「大統領。あくまで祖国優先の姿勢はこの上ないもの。しかし正しくても、立派でも、敵の意図を読み取れない男は死んでしまう。──俺はそういう奴を、つい最近見た」


 彼と自分の生死を分けたのは、わずかな疑念の有無でしかなかった。今でも葵は、そう思っている。


「なあ、そろそろあんたも腹をくくらないか。今踏みしめている大地を切り開いた偉大な祖先たちは、わざわざ化け物にくれてやるために汗水流して働いたのか」


 彼らは行儀よくなどなかった。原住民から見てみれば、葵のように迷惑な侵入者でしかなかっただろう。だからといってその思い全てが間違っていたわけではない。


「自分が生きるため、そして子孫のため。それに必要ならば、己の手でどんな荒野も切り開いた。そんなご先祖があんたを見たら、何と声をかけるだろうな」


 あくまで試されているのは葵で、決定権があるのはヘンリー。会話が始まった時から、その関係は全く変わっていない。こんな口調など狂気の沙汰と、誰もが言うに違いない。


 しかし葵は、最後の最後は真っ向勝負と決めていた。どうせ苦手なものを取り繕ってみたところで、先は見えている。


「答えろ、ヘンリー。国を滅ぼした男で終わりたいか。それとも次の世代へ渡した男になりたいか」


 終わった。沈黙が流れる。葵が用意した全てのカードは、すでに表を向いていた。


(……さあ、どう出るか)


 祈りはしないが、待つための時間は必要だった。葵は音を出さないように注意しつつ、指で机をたたく。


 百と八。叩いた数がちょうど煩悩の数と一致したところで、向こうから声が聞こえてくる。


 怒りでも、呆れでもない。それは、笑いだった。


「くっくっ……ははは」


 日本語なら、爆笑と表現するのがふさわしいだろう。大音量で発声し続けられるのは、アピール合戦の選挙を勝ち抜いてきた証でもあった。


「いや、笑った笑った。人生で一番かもしれんな。日本人もジョークがうまくなった」

「古いのから死んでいくからな。感性が新しくなるのは当然だ」

「昔は真面目に電化製品を売っていたのになあ」

「それだけじゃ食えなくなったんでな」

「投資を受ける気は?」


 ヘンリーが言った。彼の横で、要がくくっと低く笑う。


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