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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
630/675

いずれ別れる魂としても

「おい、サンダーボルト」


 士官が困った顔で声をかけてくる。よほどあおいに根掘り葉掘り聞かれたのか、彼は電話を引き継ぐと逃げるように去っていった。


「ほいほい」

「……なにしてた?」

「必要なことだ」


 それ以上話したくはなかった。個人的なことだし、どうせ日本では流れまい。


 しかし、葵は報告を迫ってくる。仕方なく、かなめはひどくかいつまんだ話をした。


「中将にね」


 幸い、葵はすぐに話をのみこんだ。


「まあ、悔いがないなら結構だ。しかし、よく踏み切ったな」


 自分にも他人にも厳しい弟が、珍しく褒め言葉を口にする。


「別に、そんなに難しいこっちゃねーだろ」

「相手は自分と同じように思っていないかもしれない。迷惑かもしれない。こういう風には、考えなかったのか」


 葵が奇妙な振る舞いを連発する。要は目を丸くする。


「全然」

「本当に?」

「だって、んなことやってみなきゃわかんねえだろう。判断するのは向こうなんだからよ」


 自分がああだこうだと思ったところで、所詮それは頭のなかで作ったものでしかない。


「いいじゃねえの。向こうが『なんだこいつ』って思ったとしたら、それまでの関係だった。くよくよ悩む時間が無駄だろ」


 要が告げると、葵はやけにその言葉を噛み締めていた。


「……そうだな。まさか同じ結論に達するとは思わなかったが、これも血か」

「どうした、お前。気味悪いぞ」

「何でもない」


 葵はしばらく黙っていたが、やがて話し出した。


「なら話を変えるぞ。これから俺は、アメリカ大統領を脅してくる」


 不穏な単語が飛び出した。要は低く笑う。


「お前まで、あたしみたいなことをするのか」

「似てきたんだろ」


 弟は相変わらず淡々とかわす。


「日本に帰るのは少し先だ。脅しが終わるまでそのまま西海岸で待機してくれ」

「成功するのか?」

「しなかったら、俺たちはみんな漏れなく死んでるよ」


 葵がぼそっと言う。そこには過剰な希望も絶望もない、ただ事実があるだけだ。


「さよか。じゃあ、うまくいくようにしろ。当主命令だ」


 滅多に使うことのない当主の地位を振りかざして、要は通話を終わりにした。



☆☆☆




 目覚め、河原に群がる敵にとどめを刺してしまってから、いわおゆかりはまっすぐに最寄りの軍支部を目指した。


 すぐに士官へ話が通る。体を洗って防寒用の服をまとうと、二人は会議室へ直行した。


「お待ちしておりました、三千院さんぜんいん様」

「今のところ、持ちこたえとるようじゃな」

「おかげさまで」


 壮年の士官は、丁寧に頭を下げる。紫は腕捲りせんばかりの勢いで、彼に聞いた。


「で、あたしたちは何をすればいいの? 市内に行くならすぐ」

「お二人が来てくだされば本当に一騎当千となりましょうが……実は、三千院三佐から伝言がありまして」

「葵じゃな」

「そうです。今からすぐ、自分の指定する船に乗って欲しいと」

「船!?」

「こんな時に、国を出ろというのかのう」


 二人はそろって目を丸くする。まさか、葵が自分達の身を案じてやったのだろうか。


「……んなわけないわな」

「右に同意」


 巌がつぶやく。紫もうなずいた。


「ええ。紫様に乗っていただくのは護衛艦『いずも』。目的地は──」


 巌は聞いた情報にやや驚いたものの、黙ってそれを受け入れる。そして、気になった点を指摘した。


「紫は、と言ったな。じゃ、わしは?」


 聞いた作戦では、巌の能力は大して役に立たない。葵がそんな無駄をするとは思えなかった。


「殺しきれていない敵がいるでしょう」


 士官の一言で、ようやく巌はぴんときた。


()()()()()()()()、ってことか」

「ええ」

「よし、引き受けた」


 巌が胸を張る。すると、紫が服の端を引いた。


「……また別れるね」

「そういう巡り合わせらしいのう、わしら」

「今度は、すぐ会えるよね?」

「ああ」


 巌が手を握ってやると、紫はようやく笑顔になった。


「そしたら、たかのんと三人で遊ぼうね。今度はどこがいいかな」


 愛妻の反応に目を細めていた巌だったが、不意に変わる士官の表情に気づいてしまった。


(……自分の目のよさが恨めしいのは、こういう時じゃな)


 彼の気遣いを尊重して、このままなかったことにすべきだろうか。全てが終わってから聞いたとしても、事実が変わることはない。


(だが、もしあいつがいたとしたら)


 紫に嘘をつくことを選んだだろうか。親友に、彼女が伝えたかったことはなんだろうか。


「紫」

「ん?」

「……たかのんはな、もうこの世におらんよ」

「!」

「なぜそれを……」


 士官が口を滑らせた。彼は、ばつが悪そうに肩をすくめる。紫はそれを見て、何もかもを悟ったようだ。


「そっか」

「申し訳ありません。まつり様とお二人の関係は、皆がよく知っておりまして。落ち着いてからお話した方がいいだろうと……」


 紫は気持ちの整理がつかないのか、宙の一点を見つめている。巌は彼女が動き出すのを待った。


「そっか。ねえ」


 いきなり紫から話しかけられた士官は、あからさまに戸惑う。


「な、なんでしょう」

「たかのん、どうして亡くなったの?」

「それは……」

「教えて。本当のことを、全部」


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