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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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言いたかった言葉

「よし、暴れていいぞ」


 雷がクトゥヴアの隅々まで入ったのを確認して、かなめが口を開く。すると、今まで光るだけだった球があちらこちらで爆発し始めた。


「ぎゃあッ」


 体を強制的にこそげ取られ、クトゥヴアがうめく。要はその様子を見て、冷ややかに言った。


「そろそろてめえの面も見飽きた。消えろ」


 要が拳を握ると、クトゥヴアの中心に陣取っていた雷球が、目に見えて大きくなっていった。


「やめろ、ええい、やめろ──ッ!!」


 クトゥヴアが叫ぶ。しかし要はそれを完全に無視して、握っていた手を開いた。


 その動きに呼応して、光がはじける。放出された力に耐えきれず、クトゥヴアの体が真っ二つに割れた。


「お……おおおおおっ!!」


 最後に長く延びる断末魔を残して、クトゥヴアは細かい火の粉になる。そして、完全に姿を消した。


「ふいー」


 まだクトゥヴアに対して警戒を続ける周囲。それに反して、要は雑な手つきで絡まった髪をほぐした。


(さて……次は何をすっかな)


 有無を言わさずヘリに押し込まれてしまったので、この後の予定などなにもない。


(まあ、また何か言ってくるだろ)


 要が心のなかでつぶやくと、それを見透かしたようにヘリから無線が入る。秘匿回線に国際電話が入っているから応答しろ、と指示があった。


「へいへい……」


 要はおとなしくそれに従い、指定された建物に入った。国際電話の時点で、相手は大体予想がつく。要は受話器を受けとると、いきなり声を発した。


「おう」

「元気そうで何よりだ」

「お前もな、あおい


 少し息はあがっているが、弟の調子はいつも通りだ。


「今、西海岸か」

「たぶんな」


 戦う前に何か言われた気もしたが、もう忘れた。そう告げると、弟が押し殺した声で「誰でもいいから士官とかわれ」と言う。要はこれ幸いと、周囲にいた男たちに受話器を押し付けた。


 手ぶらになった要は外に出る。辺りはまだ、張り詰めた雰囲気のままだった。


 運搬される負傷者、ひっきりなしに行き交う軍事車両、やかましい無線の声。一つの事件が終わったことを喜ぶことなく、ただ次を目指す人々。


(ああ、昔と同じだ)


 桜祭りの日、テロの後のワシントン。場所は違えど、雰囲気は同じだ。あえて違うところを見つけるとしたら──


(あの二人がいない、か)


 手を繋いで歩いていた、大小二つの後ろ姿。今も中将は、その時のことを覚えているだろうか。話がしてみたいと思った。


(今さらかもな)


 何せ、繋がりを断ち切ったのは要の方である。お前なんかもう知るかと言われる可能性も多々あった。


(でも、やってみなきゃなあ)


 要の中で、この上なくあっさりと結論が導きだされた。所詮人生百年少々、恥をかいてもその程度の期間である。


「お」


 歩いているうちに、要はちょうどいいものを見つけた。熱心に現場にカメラを向けている、テレビ局のクルーである。


「よう」

「ぎゃあ」


 レンズの前に要が顔をつっこむと、カメラマンは震え上がった。彼が固まっているのをいいことに、要はしっかりとカメラの前を占領する。


「なあ、これ今も声入ってんの?」

「あ、ああ」

「ほー。じゃ、これでいいや」

「何が!? どいてくれよ」

「…………」

「どうぞ存分にお使いください」


 邪魔者を排除してから、要はひとつ咳払いをした。


「あー、テステス。本日は晴天なり」


 戦いの後だが、声の出方に問題はなかった。


「海兵隊第一師団所属、マックス・ヴァンダービルド中将。生きてるか? もしこれを見た知り合いがいたら、録画して本人に見せてくれ」


 中将に届くかは賭けだった。それでも要は、サイコロを振る。


 葵からの呼び出しということは、日本国内が本当に大変だということだ。この奇妙な研修も、おそらくもうすぐ終わる。最後の機会を逃したくなかった。


「この戦いを最後に、しばらくあたしは国を離れる。日本がごたついてっから、研修生としちゃもう戻ってこられないだろ」


 要の脳裏に、十数年分の記憶が欠片状に甦る。


「いいことばかりじゃなかった。帰ってやろうかと思ったこともある。ガキの頃のあたしにとっちゃ、この国は何もかもバカでかいだけでなんの思い入れもないところだった」


 なのに、あの日。空港で声をかけてきた親子が運命を変えた。要はこの国に絡めとられたのだ。


「ガキの頃だったら、今ここで終わりだったろうな。あたしが化け物を逃がしたけじめはつけた。後はテレビ見ながらコーラ飲んで、ざまあみろ意地の悪い米軍どもめって笑ってたかもしれん」


 自分が身内以外に意外と冷酷になれることは、よく知っている。大袈裟に言っているわけではない。


「……でも、もう無理だ」


 画面上でしか知らなかったら、遠い国のどこかの誰かだったら、見過ごせた。しかし今は違う。


「ここは、もう一つの家がある国だ。家族がいる国だ」


 こんな思いを抱いているのは、自分だけなのかもしれない。それでも要は、口に出す。


「せいぜい、ここが滅ばないように頑張ってみるさ。んで、すぐには無理でもまた帰ってくる。……そうだな、クリスマスあたりか」


 日本と違って、アメリカではクリスマスは家族で過ごす日である。区切りとしてはちょうどよかった。


「その時には、色々話をしよう。それまで死ぬなよ、()()。じゃあな」


 言いたいことを吐き出してしまってから、要はにやっと笑う。それがカメラに映ったのを確認し、ようやく要はテレビクルーを解放してやった。


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