この世の理
「面白い奴なんだろうな?」
要が茶化す。すると、ヘリの中の兵士たちが真顔になった。
「あれが『奴』と言えるのかどうか……」
「人じゃねえのか」
「断じて」
「それなら結構。早く見せろ」
小型モニターいっぱいに、炎の塊が映し出される。要はその姿に、見覚えがあった。
「はっはっは、随分情けない姿になりやがって。今度は逃がさねえぞ」
笑う要を、気味悪そうな目で兵士たちが見つめていた。
☆☆☆
「巨人が倒れるぞー!!」
滝蔵がその声を聞いたのは、ちょうど最後の毒液を吐き出したところだった。
「くっそ、あれが最後の一体だってのに」
「正直、俺らじゃもう手も足も……」
「ああ、分かってるよ。女子供を連れて貴船の方へ行けっ」
いざという時のために残しておいた煙幕を、ありったけ使う。天狗とガマたちは団子になって、非戦闘員が待つ村へと駆け戻った。
「親分」
「じいさまたちっ、お帰り」
「話は後だ、奥へ行け!」
再会のあいさつもそこそこに、動ける者から山の向こうへ走らせていく。親や身内が生き残っている子供は、真っ先にいなくなった。
「よし、お前らは俺に乗れ」
残った子供達を、滝蔵は体にのせていく。しかしその中に一匹だけ、じっとその場に踏ん張っている者がいた。
「早く乗らねえとおいてくぞ!?」
滝蔵が声を荒げても、子供は目をつり上げるばかりだった。そしてようやく言いたいことがまとまった、とばかりに口を開く。
「僕、やだ」
「ああ!?」
「外じゃ、いいことなんて何もなかったもん」
その言葉を聞いて、他の子供たちも一斉にうつむく。
(子供を捨てる藪はあれど……ってかい)
妖怪とて、いい奴らばかりではない。そして自然界は弱肉強食の世界である。一番弱い存在が割りを食うことは、決して珍しいことではなかった。
「それに、僕たち何も悪いことしてないよ。どうして出ていかなきゃならないの」
滝蔵はそれを聞いて、口をつぐむ。子供はますます勢いづいて、唾を飛ばしながらまくしたてた。
「ねえ、なんで!?」
「……小僧。名前は」
「け、桂」
「そうか」
滝蔵はうんうん、と大きくうなずいてから大きく目を開いた。
「甘ったれんなクソ餓鬼がっ」
気迫が木々を揺らし、辛うじて立っていた建築物をまとめて倒壊させる。周囲の天狗たちが、呆然と滝蔵を見つめていた。
「いいか桂。お前たちがここを離れなきゃならねえ理由は一つ。弱いからだ。今登ってきてる奴らを、まとめてぶっ飛ばせる力がねえからだ」
「ち、ちょっと親分」
「あんまりあけすけに言っちゃいけませんって」
「相手は子供なんだし」
子分たちが滝蔵をいさめる。しかし、滝蔵は桂の顔すれすれまで、自分の体を近づけた。
「俺の主張が間違いだってんなら、実力で押し退けてみろ。そしたら素直に言うこと聞いてやらあ」
「じっ、自分が説得できないからって卑怯だぞ」
桂はわめく。しかし滝蔵は彼の正面を巨体でふさいだまま、微動だにしなかった。
「う……わあああっ」
逃げ場を失った桂は、声をあげながら滝蔵に突進してくる。しかし、あまりにも体格差がありすぎた。
「ぐべっ」
走ってきた時より速く、桂が吹っ飛んでいく。滝蔵はそれを、腕組みしながらねめつけていた。
「なんだそりゃ。相撲のつもりか?」
「わああっ」
桂はやけになって、何回も同じ動きを繰り返す。しかし、結果は一回目と全く同じだった。
「……そーろそろ、わかったか。世の中ってのは、強者の都合で動いてんだよ」
滝蔵はへたりこんだ桂をつまみ上げる。
「弱え奴がわめいたところで、誰も本気にゃしねえ。勝手にくたばってくれりゃ、穀潰しが減って助かるくらいのもんだ」
滝蔵は桂の顔を見た。さっきボロ負けしたくせに、目が死んでいない。こういう子供は、でかくなる。
「だが、それだけじゃ生きててつまんねえ。踏まれて蹴られて馬鹿にされて、その中から這い上がってくる奴がいるから面白えんだ」
桂がはっと息をのんだ。それを見て滝蔵は笑う。
「今回はお前の敗けだ。しかし、生き残りゃ次がある。その時は俺に勝って、お前のしたいように生きていけ」
どこまでも、何からも自由。望みを叶えるために必要な強さを。そして、それを身に付けた子供を、次の世へ。
(結局、なんの手伝いにもならなかったが……鬼一、これで許してくれるか)
滝蔵は桂の返事を聞かないまま、彼の体を放り投げた。桂は背中に無事着地する。両手を使って、滝蔵の背中にしっかりしがみついてきた。
「行くぞ。三枚目にゃ、逃げる姿がお似合いだ」
☆☆☆
振り返った琴は、思わず叫んだ。夕子は床に捨てられた岡埜の死体を見て、顔面蒼白になっている。
「その者はもうだめです、どうか奥へ!」
琴は必死に呼びかける。幸い、夕子はすぐに通路の奥へ消えていった。
「……ほう、あの女が大将首か」
(しまった!)
今の会話を、鵺が聞き逃すはずがなかった。舌なめずりする鵺の顔を見て、琴の顔から血の気が引く。
「青天目サン、危ない!」




