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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
609/675

誰の責任?

「ちっくしょ……」


 額からしたたってくる汗をぬぐいながら、残間ざんまはうめいた。敵は相変わらず押し寄せてくるのに、自分の体は思うように動かない。


 いつもなら一発で片付くはずの相手が、数発攻撃をいれても沈まなくなった。部屋の中央めがけて、敵がジリジリと前進していく。


「なんだよ。なんでなんだよ」


 回らなくなった頭は、何度問いかけてもまともな答えを返してなどくれない。残間は仕方なく、敵に向かってわめいた。


「残間三尉、下がってください! 応援を呼びましょう」


 高いところから、気楽な奴らが叫んでいる。


「うるせえ!」


 残間は歯を食いしばった。こいつらの言うことだけは聞きたくない。


「俺はやるんだよ」


 だって、今までできていたんだから。


「俺がやるんだっ!」


 力をこめて、拳を握る。次の瞬間、残間の目の前が真っ暗になった。


 それと同時に、分身が全て消える。敵がここぞとばかりに、どっと押し寄せてきた。


「うわああああっ!!」


 本能的な恐怖にかられ、残間は背を向けて逃げ出した。どこでもいい、とにかく敵のいないところへ。


 しばらく止まっていた銃撃が再開される。今はそれが、無性にありがたかった。そのおかげか、残間はやっと物陰に滑り込むことができた。


 しかし、妖怪たちにとってそれが面白いはずがない。彼らは一様に顔をしかめ、上階を眺めた。


「あ」


 これから起こることが、残間にも想像がついた。無駄だと分かっているのに、反射的に手を伸ばす。


 爆発音がして、煙があがった。まもなく、赤い炎がちろちろと壁をなめ始める。標的はもちろん残間ではなく、階上の一般兵だった。


 スプリンクラーが作動し、火はすぐに消し止められた。しかし、そこから誰も顔を出さない。


「ははは……」


 死んだ。これほどまでに、あっけなく。それが信じられなくて、残間は乾いた笑いを漏らす。


(これは、俺のせい、なのかな)


 自分を逃がそうとして、一般兵が撃った。だから妖怪は反撃した。その間、残間は何もできなかった。


『だから言ったじゃない』

『父さんと母さんの言うとおりにしていれば、何も問題なかったのに』


 忘れたはずの呟きが、過去が追いかけてくる。今でも過保護な両親が近くにいるような気がして、残間は頭を抱えた。


 敵がすぐ傍までやってくる。残間はできるだけ丸く、小さくなった。気休めだとわかっていても、やらずにいられない。


「ま、こうなると思ってまシタ」


 背後から、声が聞こえる。残間は弾かれたように顔を上げた。



☆☆☆



 月見里やまなしは目の前の敵をにらんだ。まず手持ちの投げナイフを放ち、厄介な蜂たちを黙らせる。


「テュール、もっと」


 月見里の合図で、小型ナイフが肩の周りに浮き上がってくる。円形にびっしり並んだそれは、月見里が軽く指を動かすだけで飛んでいった。


 鋭い刃は、一発で蜂の羽と胴体を切り離す。移動手段を失った蜂たちは床にぶつかり、耳障りな音をたてた。


 今度は狐たちが、月見里に向かってきた。


(一気に三体)


 さばけると判断した月見里は、まず一番近い個体からの攻撃をよける。そして次にやってきた狐の目をめがけてナイフを突き出した。


「ギャウッ」


 目潰しは成功し、一時的に敵の構えが崩れる。月見里はそいつを、再度攻撃してきた狐に向かって押し倒す。二体がもつれて倒れた隙に、残った一体をナイフで串刺しにする。


「マズ、ひとつ」


 残った二体が、よろめきながらこちらに向かってくる。月見里は目潰しをした敵の首筋を蹴って地に沈め、さらにもう一体の横面を殴る。動かなくなったところで、両方にナイフでとどめをさした。


(片付いター)


 月見里は息をつく。後は一緒に来た銃型デバイス使いに任せればいい。


「悪いデスネ」

「お互い様だろ。ちょっと休め」

「アリガトー」


 仲間のお陰で、少し余裕ができた。ぐるりと首を回してから、残間を見つめる。


 さっきまでの威勢の良さは欠片も残っていない。ただ亀のように手足をできるだけ縮め、その場にうずくまっている。ご自慢の分身も、一体残らず姿を消していた。


「お馬鹿サン。そろそろ立ちなサイ」


 月見里はできるだけ嫌みっぽく言い放つ。すると、残間はこちらをにらんできた。


「言いたいコトがあるなら聞きマショウ」

「……お前のせいだ」

「What?」


 月見里は思わず、地を出してしまった。対して、残間は堰を切ったようにわめき始める。


「人が死んだ」

「ああ、高台。なくなってますネ。あそこの人デスカ」

「お前がモタモタしてなきゃ、あいつら死なずにすんだんだぞ。一体何してたんだよっ」


 次の瞬間、乾いた音をたてて月見里のナイフが壁につき刺さった。位置は残間の耳横三ミリ。


「オー、スミマセン」

「…………」


 完全に言葉を失っている残間に向かって、月見里はさらに言い放つ。


「今度はちゃんと当ててあげマスから。ドーゾ、安らかに眠ってくだサイ」

「人殺しかっ」

「その言葉はノシつけてお返しシマス。自分の所行をしれっと人のせいにシテくれやがりマシたが……それなら、君がどう戦ったか聞きましょうカ」


 残間からの反論はない。月見里はつま先で地面を蹴った。


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