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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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そして全てが振り出しに

「な……なぜ、同じ刀が二つも」


 胡蝶こちょうがうろたえる。みやこは両手に刀を構えて言った。


「これはおかしなことを言う。妖でも獣でも、生き物には多産というものがある。デバイスも同じよ」


 大阪の双子は遺伝子が同じゆえに、一つのデバイスを二人で使えた。だが都は逆に、双子のデバイスを一人で使う。


「宮本武蔵──その名の理由はただ有名だからではない。双刀を有する存在の暗示よ。天狐であっても不足なし、存分に相手してやろう」


 都がすごむ。気迫に押された胡蝶が、ジリジリと後ろへ下がった。そして、意外なことを言い出す。


「わかったよ。あんたも大したもんじゃないか。ここは手を引く」

「ほう」


 都はただでさえ丸い目を、さらに丸くした。流石千年を生きる化け狐、自分が不利だと分かると、あっさり手の平を返す術も持っているらしい。


「瑠璃のつきも返そうじゃないか、そうすればあんたもさっさと家に帰って休めるってもんでしょ」


 都はこの提案を聞き、ふむとうなずく。


「確かにうちは居心地がよいのう。立派な屋敷に、広い庭。食べ物も寝るところも山とある。こんなに恵まれたところは、日の本中探し回ってもそうはあるまいよ」

「そうでしょう。どこか気品のある顔立ち、そこらの子供とは違うと思っていたのよ」

「それはどうもじゃ」


 都は照れもせずに言った。刀をすっと引き、切っ先を地面に向ける。


「よくよく見れば、お主もそう悪い面構えではないの。それに、大妖に貸しを作っておくというのも悪くない」


 都の顔が、徐々に柔らかくなっていく。そしてとうとう、完全に胡蝶に背を向けた。


「ああ、そうそう」


 都は後ろ向きのまま、顔をあげる。


「そこの地面はさっき斬ったゆえな。余計なことをすると──」


 都が終いまで言い終わらないうちに、胡蝶の足元が音をたてて崩れた。


「ぎゃっ」


 悲鳴をあげる胡蝶に対して、都は肩をすくめてみせる。


「落ちるぞ、と言うてやろうと思ったのにのう。この辺は蟻族と蛇族がおったゆえ、ただでさえ地中が穴だらけじゃからな」


 都はついでに「お主意外とおぼこいのう」と言い放ち、胡蝶を完全にキレさせた。


「都だってのう、話を聞いてよい相手と悪い相手の区別くらいつくわ」


 家族、使用人、周囲の人々。幸いなことに都は、人の好意にくるまれるようにして生きてきた。しかし、外の世界が全てそうでないことくらい、とっくに知っている。


「恵まれておる。今回だってどうしても嫌じゃと言えば、家の奥深く引きこもることもできたかもな」


 だが、都は決めた。誰に強制されるでもなく、自分の意思で。


「それなら、何故!?」

「与えられることを当然と思うとな、人は腐るのよ」


 都はこれ以上ないほど恵まれた。しかしそれは、自分の力で勝ち取ったのではない。


 たまたま運が良かった。それで勝ち組ぶって、後のことは知らないと言うような恩知らずにはなりたくない。


「さあ、もう駆け引きはなしじゃ。とっとと来い、その腐った性根ごと斬ってくれる」


 今度こそ、決着がつく。


「おい、都」


 口が自由になった退紅が、後方から叫ぶ。


「皆の仇を取ってくれ」


 それを聞いた都が笑う。


「心得た」


 都は二刀を構える。胡蝶がやおら突っ込んできた。鋭い爪をかわしきり、両手を大きく上げる。


 二本の刀が交差したところで、一気にそれを胡蝶の前足へたたきつけた。


 その衝撃で、すでに傷ついていた刀身は欠けて散る。しかし、引き換えに胡蝶の前足を切り落としていた。大技を決めた都が、ふっと息をつく。


「都、油断するな!」


 退紅が声をあげた。その直後、両前足を失った胡蝶が頭から飛びかかってくる。下半身の力を余すこと無く利用した、必殺の一撃だった。


「……必殺技、のう。気張りすぎると失敗するぞ」


 都はそう言いながら、欠けた刀だけで胡蝶の横っ面をはり倒す。そして無事な刀を、胡蝶の堂胴体に突き刺した。


「はっ!」


 気合いとともに、刀が真横に滑る。『斬り』に特化した日本刀の刃は、胡蝶を横に裂いた。


 飛び散る臓物と体液。その中に、人間らしさを残した肉片があった。都はそれを斬る。青い光が強く瞬き、すぐに見えなくなった。


「……務めは、引き継ぎまする」


 命を落とした官と、瑠璃の坏に向かって都は一礼する。後には、胡蝶の死体だけが残された。


「ありがとうな」


 退紅が珍しく、自分から都の肩に乗ってきた。


「うむ。ひと区切りじゃ」


 都は手を伸ばして、退紅の全身をなでくり回した。おお、夢にまで見たもふもふ尻尾が手中に。


 都が相好を崩しこの世の春を味わっていると、不意に無線が入った。


「こちら三千院分隊。都、聞こえてるか」


 通話口から聞こえたぶっきらぼうな声に、都は応える。どうやら、また忙しくなりそうだ。


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