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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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左右も良いけど上下もね

 実はこの作戦が始まった時から、三千院さんぜんいんの双子は別々に行動していた。天逆毎あまのざこが三千院家を盗聴していることを承知の上で、それを逆手にとったのだ。


 二人ともあおいとヘリに乗ったと見せかけて、実は最初からりょうだけがこっそりこの付近で待機していたのだ。りゅうは二人分しゃべることになったが、元々口数が多いので負担にはならない。


 彼は身を伏せ、ずっと待っていた。胡蝶こちょうが気配を感じ取れる範囲の外から、胸元を射抜ける一瞬の機会を。そして見事にやりとげたのだ。


「読みが当たったのう、にーに」


 誰に聞かせるのでもなく、みやこがつぶやく。


 もちろん、三千院を盗聴している奇妙な生物を片っ端から始末してしまうこともできた。しかし兄──葵は、断固としてこれを拒否する。


「逆に利用して、天逆毎を罠にかける……か」


 酒呑童子しゅてんどうじ茨城童子いばらきどうじ牛鬼うしおにはすでに死んでいる。となれば、瑠璃の坏を持っている胡蝶と天逆毎を分断することができるはずだ。


 彼女たちは伏兵がいないことまで知っているから、涼に気付かず都と戦を始める。一対一と見せかけて相手が油断したところで、相手の動きを止めるのである。


(全く。蜂に見つかれば、涼にいにと部下の命はかなり危なかったのじゃぞ)


 葵はそれを知りつつ、淡々と決断した。極端な人だ、と都は思う。


(無策で送り出すわけではないがの)


 都は胡蝶が動けないのを確認してから、刀を拾い上げる。そこにはしっかり、葵のデバイスから出た糸が巻き付いていた。


「葵兄も面白いことをする」


 都はほくそ笑みながら、わずかに残っていた糸を指先でなでた。


「こんな話は……知らんかのう。二つのデバイス能力を束ねられる男がおると」


 それが葵である。今回、彼は都と河井かわいという男のデバイスをくっつけた。


 兄が面白そうに──表情はそのままであったが──言うのを、都はよく覚えている。


『C、Bクラスの最大の弱点は持続力のなさ。使い方次第で化ける能力を持っている奴は、いくらでもいる』


 その時の葵は、都に語ると言うよりは自分に言い聞かせているようだった。


 Bクラスからのスタート。野心を持った兄にとって、それが不本意だったことは容易く想像できる。


(しかし、乗り越えた)


 葵と河井。BクラスとCクラス。この二つのデバイスがなければ、あの猛攻撃をしのぐことは不可能だった。全ての攻撃をやり過ごす河合の能力を、一時的に都へかけたのだ。


「何を……余裕ぶって……いるの」


 胡蝶の声が聞こえてきた。都は彼女を見る。驚いたことに、氷塊に大きな亀裂が入っている。最初は縦一文字、そしてみるみる左右にも広がり、その中から胡蝶が姿を現した。今の彼女は人の形をとどめていない。四本の尾を持つ、金色の化け狐だ。


「ほう、とうとう化ける力もなくなったか。その調子でようやるの」


 目の前の白狐に向かって、都は軽口をとばす。胡蝶の目が、端からもはっきり分かるほどつり上がった。


「ぬかせ!! これが我の真なる姿、貴様などひと噛みでくびり殺してやる」

「その割に狐火も出さぬの。さっきの氷がよほどこたえたとみえる」


 痛いところをつかれたのか、一瞬だけ胡蝶の口が止まった。しかし、彼女はすぐに甲高い声で笑い出す。


「私がこたえているなら、貴様は死に体ではないの。その刀、一度でも切りあったら砕け散るわよ」


 都は刀身に目をやる。確かに、狐火をうけてかなり傷んでいた。河井のデバイスも、刀身まではかばいきれなかったらしい。


 その時、隙をついて胡蝶が仕掛けてきた。しかし、都は笑ってとびのく。焦った胡蝶の攻撃は単調で、さっきより遥かにかわしやすくなっていた。


「この刀は、確かに一度がいいところ──しかし」


 都は地面に降り立ち、三度同じ間隔で足を踏み鳴らした。派手な足音を聞きつけて、足元の地面が盛り上がる。すぐに土を吹き飛ばして、小さな狐が顔を出した。彼はしっかりと、日本刀の鞘を咥えている。


 都はそれを受けとる。手が触れるやいなや、鞘の形が変わる。瞬く間に、銀色に輝く日本刀が姿を現した。


「なにっ」


 流れるような動きで前足を切り裂かれ、胡蝶がうめく。


「……こ、この出来損ないが、一体今までどこにいたのっ」


 胡蝶に対して、狐は舌を出しながら答える。


「出来損ないじゃねえ、管狐の退紅あらぞめだ」


 胡蝶が、残った前足を振り下ろした。しかし、それは空しく地面を揺るがしただけである。


「管狐は筒上のものならどこにでも入りこむ。刀の鞘も管だからのう」


 双子デバイスの片方は柄、もう片方は鞘の意匠であった。都が持たなければ、柄も鞘も刀身がつかず、攻撃能力はない。


 蛇たちが作った地下穴の中で、退紅はその鞘と一緒にじっと待っていた。気配を覚られぬよう管の中で、息を殺して。


 そして都の合図があったところで、デバイスをくわえて飛び出してくる。これが、胡蝶の裏をかくための計略だった。


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