表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
605/675

ハイテクの巫女

 ほんのわずか前までは、なんの苦もなくできたはずのこと。それが、何故。胡蝶こちょうの頭に、いくつもの疑問符が浮かんだ。


 ぴしぴし、と音をたてて足元から何かがせり上がってくる。それを見て、胡蝶は小さく声をあげた。


「氷……?」


 熱風と炎があれだけ吹き抜けた直後に。


 ありえない。一体何故。


 答えの出ない問いを、胡蝶はくり返す。頼みの狐火も、全身が凍りついたこの状況では助けにならなかった。


「うむ、よきかなよきかな」


 うめく胡蝶をよそに、鼻唄でも歌いそうな様子で歩いてくる者がいる。それは、さっき完全に叩きのめしたはずのみやこだった。


「そ……の……姿は」


 生きていることは想定内だ。しかし、始めに相対した時と寸分違わぬ都を見て、胡蝶は唸る。


(人を焼くには、十分な量の熱線だったはず)


 それなのに、何故この女は傷一つ負っていないのか。


 わからない。

 ただ、わからない。


「よい感じに混乱しておる。お主が困っておるのは、こんなところではないかのう。ひとつ。その全身を縛っておる氷はどこからきたか。ふたつ。何故私がぴんぴんしておるのか。……どうじゃ、図星か」


 すでに氷は、胡蝶の口元までせり上がっている。答えたくとも、言葉が出なかった。



☆☆☆



(……維持装置が凍ってる?)


 天逆毎あまのざこはいぶかった。元々そういうものなのか、デバイスで凍らせたのか。しかしあくまで表面的なもので、機能には関係が無かった。


(本丸を先に落とす)


 そう決めた天逆毎は腰を落とし、長く息を吐く。肺腑が空になるまで吐ききると、交代に新鮮な空気が入ってきた。


「はっ!」


 短い気合いの声と共に、正拳を結界に向かってたたきこむ。


 一拍おいて、ぴしりと小さなひびが入った。卵を平たい卓にぶつけたようなほころびは、みるみる大きくなっていく。


 そして亀裂が地表近くまで達した時、とうとう結界に大穴があいた。


(よし)


 自らの拳の威力が落ちていないことを確認し、天逆毎は少し気を良くした。そして、鳥籠内部へ入りこむ。あてはないが、天逆毎は自らの嗅覚を頼ることにした。


(あっちに何か、面白いものがありそうだ)


 足の向くまま、籠の中央で咲き誇る蓮の花へ近づいた。


 遠くで見た時も、人にしてはよく作ったと感心したものだが、近くに寄ると一層細工の見事さが際だつ。花びらの一枚一枚に金の縁取りがあり、光る色も単色ではない。青が基本色だが、時々緑がかったり紫味を帯びたりと芸が細かかった。


 天逆毎は蓮の真正面に立つ。すると、ひとりでに蓮が二つに割れていく。


「入れと?」


 このまま花もろとも吹き飛ばしてやってもいいが、心臓部をやり損ねる危険がある。興味本位も半分手伝って、天逆毎は歩を進めた。


 蓮の内部は螺旋状の階段になっており、どんどんそれを昇らされる。


(短気を起こさずにいてよかった)


 面白いことになりそうだ、と舌なめずりすると同時に階段が終わった。その先の扉が、無音で開く。


(誘っているのか)


 すると、この先に『巫女』がいるのだろうか。霊脈の守護者を食って力をつけるのも悪くなさそうだ。


 意気揚々と扉をくぐった天逆毎だったが、そこにあったのは無数の金属柱だった。


(いや、ただの柱じゃない)


 楽器だ。あめりかとやらに行った時に、ちらりとだが見たことがある。神への祈りの場によく備え付けられているが、いつも演奏者の姿はそこにない。


(もっとあちらでよく見ておけばよかったか)


 これが霊脈維持装置の要であることは間違いない。そして、操り手は鷹司たかつかさの巫女だ。きっと彼女はこの楽器の演奏者として、離れた場所にいるのだろう。装置の破壊とともに、彼女も見つけ出しておかなければ、面倒なことになる。


(怪しいところを、片っ端からあたってみるか)


 天逆毎は小さく肩をすくめ、もう一度巨大な楽器を見つめた。その時、ふと背中に悪寒が走る。


(──ここは、危ない)


 本能が、うるさいくらいに警報を鳴らす。


 どこでもいい、天井をつき破ってとりあえず外に。


 天逆毎がそう思った時、両肩をがっちりとつかまれた。それをやってのけたのは、人間でも妖怪でもない。大きな楽器から伸びてきた無数の管が、形を変えてしっかりと天逆毎の体にしがみついていた。



☆☆☆



「よし、かかった」

 誰も聞く者はないと分かっていても、夕子ゆうこはそうつぶやかずにいられない。知らず知らずの間に、呼吸が速くなっていた。


 夕子がいるのは、酒蔵の廊下にある隠し扉──そのさらに先にある、小部屋である。そこは空調を除けば、大人一人がようやく入れるくらいの狭い場所だった。


 腰掛けている夕子の目の前には、三連の鍵盤が並んでいる。それは全て手で操作するもので、足元にはもう一つ鍵盤がある。


 夕子はこれで、離れた所から巨大なオルガンを操っているのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ