やってきた増援
彼らは明津たちのような訓練は受けていない。一般市民だが、仕事への責任感から文句も言わずに動いているのだ。休んでもらった方がいい。
「どうぞ、休憩してください。先は長いですよ」
明津が言うと、駅員は首を横に振った。
「い、いえ。体力はまだ余ってるんですよ。ただ……寒いなあって」
「寒い?」
今は夏だ。バッテリーの消耗を抑えるため、冷房もギリギリまで温度を上げている。
「そんなはずは……」
言いかけて、明津は口をつぐんだ。冷風が自分の顔を撫でたからだ。しかも、風は外の方から吹いている。その奇妙さに、明津たちは動揺した。
「どうなってるんだ」
「今は真夏だぞ」
「特殊車両が撒いてるのか?」
「まさか。ガスの無駄遣いだ」
仮説を考えようにも状況が無茶すぎて、一同は首をひねる。その間にも、外気はどんどん冷たくなっていった。明津たちは上着を羽織って作業を続ける。
「──そういえば、前回の襲撃からやけに間があいてますね」
ぼそっと若い隊員がつぶやく。全員から一斉ににらまれて、彼は目を白黒させた。
「単に事実を述べただけです。これは感想じゃなくて情報共有ですって」
「まあ、確かにいつまでもその話をしないわけにはいかんな」
蜂たちはすでに入り口を見つけているわけだから、第二波があってもよかった。なのに相手の動きは、ずいぶんのんびりしている。
「他の駅を狙いに行ったんでしょうか?」
「ありうるな。連絡はとれるか?」
「やってみます」
情報班が手をあげた。彼らはしばらく無線の前に張り付く。
「……他の駅全てに問い合わせましたが、この一時間どこも襲撃はないと」
「どこも? 妙だな」
「シャッターを突破できることは覚えたろうにな。うちでの失敗がこたえたならいいが」
明津は顎を撫でながら言った。はっきり結論の出ない違和感が、もやもやと腹にたまる。
「こちら本部。増援部隊が半径一キロ圏内まで到達しました。間もなくそちらに合流します」
「了解」
「──それと、今の状況について説明を。もう、異変には気づいているでしょうから」
この言葉に続き、本部職員は淡々と外の変化について語る。それは完全に、明津の想像を越えていた。
「夏が、冬に……」
「不可能だ、という言葉はしまってくださいよ。三千院と鷹司のやったことですから。結果的にそうなった、というところだけ受け止めてください」
「わかりました」
まだ頭の中は混乱していたが、明津はそれを押し殺す。
「冷気ガスが有効なのが示すとおり、あの蜂は低温下では著しく活動性が低下します。これで増援部隊も、安全に接近できるでしょう。ただし、一般市民や職員の健康には注意を払ってください」
「了解」
通信が切れると同時に、他の呼び出しがかかる。
「第三十六普通科連隊から参りました。第三中隊長の和久と申します」
「お待ちしてました。当駅近くの地理は把握されてますね?」
「無論です」
「なら話は早い。五番口から入ってください。合図してくだされば、シャッターを解放します」
「了解」
明津は隊員に声をかける。
「五番入り口へ連絡を」
部下たちが動く。程なくして、数十人の増援隊員がぞろぞろと現れた。
「始めまして。和久です」
「よろしく」
引き締まった体格の男が先に握手を求めた。皮が硬い手を、明津は握り返す。
「他の方々は?」
中隊といえば数百人規模の部隊だ。やって来た人数があまりに少ないので、明津は聞いてみた。
「物資の積み降ろしをしています。立てこもりには、色々と入り用ですから」
和久の言葉を裏付けるように、後から続々と増援が入ってくる。彼らが持ち込んだコンテナで、改札前が一杯になった。
「外の様子はどうですか」
「冷気がきついので、蜂たちは軒並みひっくり返ってますよ。いい気味だ」
動けなくなった蜂たちは、隊員がきっちりとどめをさしたと言う。それを聞いて、明津は少し肩の荷がおりた。
「ありがとうございます。冷却ガスには限りがありますので、助かります」
明津が言うと、和久は細い目を一層細くした。
「ああ、ガスはあまり頼りにしないほうがいいと思いますよ」
「実際よく効きましたが?」
和久はその反論を聞いて、首を横に振った。
「断言は出来ませんが、その兵装はただの荷物になる可能性があります」
そう言った彼の顔は真剣そのもので、明津は思わず息をのんでいた。
「よく聞いてください。もしこれから蜂たちが攻め入ってきたら、必ず私たちが前に出ます。決して、貴方たちは隊列に加わらないこと」
あんまりな発言に、明津の部下たちが次々と嫌そうな顔をした。遠回しに足手まといだと言われているに等しい。
「お言葉ですが、我々の隊も決して練度は低くありません」
「いえ、そこを疑っているわけではないのです。差としては、事前の準備があるかないか。それだけの話」
和久の言っている意味が、いまいち理解できない。明津はさらに説明を求めようとしたが、和久は断った。
「すみませんが、隊列の確認がまだですので」
にべもないとはこのことである。到底納得できなかったが、ここで喧嘩してもつまらぬと明津はこらえた。




