追いつけ追いつけ
人間たちがやられれば、その分こちらへ奴らの目が行きやすくなる。時間の問題だと思っていたが、予想より遥かに早かった。
(弱い者イジメしか能の無い連中め)
滝蔵は舌打ちをしながら、天狗を使いに走らせた。若い者は疾風が連れて行ってしまったので、年寄りまで総動員である。
まず仁王門が固く閉められた。そしてさらにその上から、煮えたぎった油が一斉に注がれる。
水と違って、一旦へばりついた油はそう簡単にとれない。蜂たちが油まみれになっている間に、天狗たちは火を放った。
燃え上がる蜂たちを見て、天狗は無邪気に手をたたく。しかし滝蔵は次の指示を出した。
「つっかいをしっかりかけて、山の方へ行け。仕掛けを作動させるのを忘れるな」
伝令が飛び立ってから、子分たちがしきりに話しかけてくる。
「ねえ、親分。もうちょっと門のところで頑張ってもよかったんじゃない」
「そうだよ。勝ってたのに」
「のに」
「お前らちったあ考えろよ。あんな手が使えるのは、最初の一回だけだぜ」
いくら上から油を浴びせたところで、蜂が山門を超えてしまえば終いである。今までの手際の良さを考慮すると、甘く見ない方がよかった。
「あっちが本気出してから逃げたって遅えんだよ。どいつもこいつも、へろへろしか飛べねえんだ」
せめて人間たちのように、情報連絡が密にできるブツがあれば状況が変わってくるのだが。
(ま、自分で意地張った結果だ。受け入れるしかあるめえ)
滝蔵は頭を振って、気持ちを切り替える。再び山門に目をやると、仲間の死体を乗り越えて、蜂たちが今まさに門を突破したところだった。
「よし、俺らも行くぞ。双福苑で上がってくる奴らと合流する。でっかい杉のあるとこだ、分かるな」
「ういーす」
滝蔵が言うと、子ガマたちは一目散に坂道を駆け上がっていった。最後尾をのしのしと上がっていく滝蔵の目に、小さな社が飛びこんでくる。
(神も仏も信じちゃいねえが)
滝蔵は社に体の正面を向け、一礼した。
(鬼一……みんなを頼むぞ)
滝蔵は派手な柏手をうった後、さらに社に向かって礼を繰り返した。
☆☆☆
天狗たちの襲撃で、攻撃ヘリ一機が使い物にならなくなった。合計四機の部隊となって、葵たちはひたすら『鳥籠』を目指す。
機体の周囲には、天狗たちが独自に陣を組んで飛んでいた。
「奴ら、まだ来ませんな」
天狗たちが口々に言う。無線をつけると言った時は散々渋ったくせに、慣れてしまうとあっさりしたものだ。
「来ない方がいいよお……」
河合が半泣きになって、口を尖らせる。その横に座っている龍もうなずいた。
「うん、僕もそう思う」
「同じく」
「女子と一緒ならどんと来い、なんだけど。ここはむさいおじさんとお兄さんしかいないからねえ」
「あ、そういう問題……」
さっき、唯一の女子である都が降りてしまったからか。葵は嘆息し、悲しそうな顔をしている河合の肩をたたく。
「龍、あんまりいじめてやるな。こっちも弱ってるんだから」
「ふぁーい」
気のない様子で、龍が答える。同性に対しては、善意の押し売りはしないらしい。
(全く、わがままな)
自分のことは完全に棚にあげて、葵がため息をつく。その時、外の天狗たちが騒ぎだした。
「向こうから来るぞお!」
「了解。一旦、ヘリの後方へ回れ」
ヘリのレーダーが、接近する敵影をとらえ始める。
「数百……いえ、まだ増えます。千を超える敵集団が、まっすぐこっちに向かっています!」
「あと一分で接触予定」
葵はすぐに腹を決めた。
「全攻撃機、機銃で敵の接近を阻め」
完全に囲まれたら、ヘリは落とされてしまう。時間との勝負だった。
「敵、射程に入りました」
「全機撃てっ」
葵の合図と同時に、ヘリ横の機銃が一斉に火を吹く。乾いた発砲音と煙があがった。驚いたのか、敵集団は雲の合間に消えていく。
「こら、もっとしっかり狙わんか」
「あ、もう止まった」
「ぬるい、ぬるいぞ」
気の大きくなった一部の天狗が勝手なことを言う。
「……疾風。部下がこっちの意図を解釈してないぞ」
口やかましい天狗たちに呆れて、葵はつぶやく。命令はできないので、あくまで絡め手の嫌味だ。
「お前ら。まだここは道中だぞ。全部弾を使うわけにはいかねえだろうが。静かにしてろ」
疾風が言うと、はしゃいでいた天狗は静かになる。これでいいか、と彼がつぶやいた。
「ああ。何しろ毎分七五〇発撃てるからな。考えなしに使いまくればすぐなくなる」
「そ、そういうことだ」
「で、もう一つの狙いは?」
「え?」
「教えただろうが、阿呆」
感情のない声で責められて、疾風がうろたえる。
「この妖怪、大和さんに似てるよねえ」
疾風がうろたえるのを聞きながら、龍がつぶやく。しかしその予想は間違いだ。大和は二つ教えたら、二つとも忘れる。
「もう一つは、あの弾じゃ敵を殺せないからだ。あくまでできるのは時間稼ぎ」
「人間ならそれくらい、カガクとやらでなんとかしろよ」
「金がいる。埋蔵金でも見つけてくれるのか」
葵が言うと、疾風は鼻を鳴らした。
「俺たちはそういう力はねえよ、かわりにな」
疾風の声に、はっきり雑音が混じる。葵はモニターに目をやった。
「こうやるんだ!」




