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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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立て、唄え凱歌を

 あくまで敵を作らない姿勢が妙に支持されたのか、内戦の責任取りにちょうどいいと思われたのか……とにかく、総理の椅子まで上り詰めたのだ。


「その途端、こんなことになってしまったがね」


 夏目なつめは力なく笑う。


「案の定、外では顔も知らない誰かが、手ぐすね引いて待っている。もう私には、それに抵抗する力はない」


 琥太郎こたろうが連れてくるはずだった、有識者。その者が周りを説得してくれれば、とわずかな希望をかけていたのだという。


「しかしそれもなくなった。天が私を見放したんだ」


 とうとう夏目は、頭を抱えて考える人になってしまった。龍之介りゅうのすけは首をかしげる。


「ふへーん」

「お前、今までの話を聞いてなかったのか……」


 琥太郎が、もう怒る気力も失せたといった顔でこちらを見つめる。龍之介は口を尖らせた。


「だって、それの何が大変か分からねえもん」

「分かった。お前の脳細胞がきれいに死んでるのはよ──く分かったから、口をつぐめ」

「騒いでる奴ら? マスコミだっけか、何の権力も地位も持ってねーじゃん。ただのサラリーマン、一般市民なの」


 龍之介がそう言うと、琥太郎と夏目はそろって目を丸くした。


「選挙を受けて選ばれたのはあんた。今、大事な命令を出せるのもあんた。だったら、好きにすればいいんじゃねえの」


 龍之介が両手を広げる。逆に、夏目は亀のように縮こまった。


「できるものか。権力を私に預けた国民が私を批判する。立ち向かうことを決めただけなのに、私が戦を好むように言いつのる。見え透いた流れだ」

「そうかねえ。おっさん、世論調査とか本気にしてるクチ?」


 龍之介はあっけらかんと言った。


「みんな真面目に答えてないって。いきなり電話かかってきたって、仕事してない暇人以外は『邪魔だな』っつって適当にあしらうわ」


 少なくとも俺はそう。ということはみんなもそう。龍之介は単純に考える。


「大事なのは選挙なの。そこで選ばれたら、何年かは好きにやんなよ。国会に名前が出るってのはそういうことだろ」


 権力を持てば、常に決断がつきまとう。道のどちらかを選んでも、利益と不利益が生じる。そこでどちらかを選べるものだけが、権力の座にいる資格を有する。


「俺はね、親父と違ってあんたにどうこうして下さいとは言いませんよ。その知識もないし」


 所詮、自分は誰かにぶら下がっていないと生きていけない『煽り屋』だ。天職はきっと詐欺師だろう。しかし、それでも矜持がある。この力は、人を力づけるためにだけ使うのだ。


 目の前の男が再起するきっかけになるのなら。


 今ここで戦ってやろう、語り続けてやろう。


「ただ、決めてくれ。部屋の隅っこに座って、惨めに泣いてるだけじゃなく。国民もそう思ってる」


 結果など分からない。この国は、世界は、敗北するのかもしれない。しかしそれが、風評に負けて決断すら放棄し、流れ着いたあげくのことではあってほしくなかった。


(だって、なあ。お前は最後まで戦うんだろう、たける。その場は、残しといてやるよ)


 同期の桜、その気の強そうな顔を思い浮かべながら、龍之介は心の中でつぶやいた。


 それと同時に、夏目が立ち上がる。その目には、さっきまでなかった光が宿っていた。


「──そうだな。もう、私は座ってしまったんだものな」


 そして総理は、琥太郎に向かって呼びかけた。


「残っている閣僚を集めてくれ。君が言ったようになるかはわからんが、情報を検討して早急に決定する」

「はいっ」


 礼をする琥太郎に向かって、総理は笑った。


「いい息子さんをお持ちだ。大事にしたまえよ、次官」


 そして彼は自分の手でバリケードを押しのけると、部屋から出て行った。


 伸びた背筋を見て、龍之介は思わず、


「やりゃできんじゃん、おっさん」


 とつぶやいた。その後琥太郎から死ぬほど怒鳴られた。




☆☆☆




 一時間後。戦後長らくなき物とみなされていた戒厳令が発令。京都・大阪・兵庫の三県は、軍の統制下に入った。




☆☆☆



 絹子きぬこと一緒のチームになったのは、東雲しののめの姪っ子だった。奇妙に肩が斜めになっているところが、叔母と共通している。一族の掟だろうか。


「よろしく」

「うす」


 姪っ子は『いろは』というかわいらしい名前に反して、ドスのきいた声で答えた。ほとんど任侠ものの世界である。


「すまんなあ、いろは。夏休みでこっちに来とったのに」

「今の日本はどこも鉄火場。覚悟はしている」


 今にも撃ち合いを始めそうな声で、いろはが答える。叔母まで若干怯えていた。


「まあ、よろしゅう頼むわ。十四の割にはしっかりした子やさかい、迷惑はかけんと思うけど」


 というわけで、二人は連れだって飛んでいるのである。戦歴データはすでに交換済みで、互いの実力は把握していた。


「あれか」

「ええ」


 絹子といろははぴったりくっついて、川の近くを飛んでいる。ナビ役のデバイス使いはさらに後方の配置のため、頼れるのは互いだけだ。


 タテエボシは探さなくてもすぐに見つかった。巨体のメリットを最大に生かし、大きなヒレで砲や魚雷を砕きにかかっている。


「先に行きます」

「分かりましたわ。後ろを固めます」


 二人とも現場は慣れている。伝達はそれだけで十分だった。いろはが迷い無く滑降し、タテエボシの横手に回り込む。


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