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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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不安ですくむは心も同じ

「本部から通信?」


 海岸付近を防衛していた大阪支部は、その知らせに一瞬色めき立った。


「デバイス使いが復活したのかもしれませんよ」


 絹子きぬこの横にいた柴犬しばいぬが笑顔を見せる。しかし絹子は、疑いの表情を崩さなかった。


「んなめでたい知らせなワケあるかい、このカスが」


 絹子に代わって答えたのは、すっかりふてくされた淀屋よどやである。これに柴犬は無表情で答えた。


「なんや、えらい不満そうやの」

「考えてみてください。ゆかり様に話しかけたら、いわお様が返事してきたときの気持ちを」

「おう。おんどれの考えはよう分かった」


 そう言いながら手元の文鎮を握ろうとする淀屋に、バラの蔓が巻き付く。


「いだだっ」

「その辺にしておきなさいな。柴犬、あなたも意地が悪くてよ」

「すみませんでした」

「全く……とにかく、みんなで通信を聞きましょう」


 絹子が慣れた手つきで回線を開くと、のっぺりとした声が聞こえてきた。あおいだ。


「こちら総合司令部。そちらの状況を教えてほしい」


 やなこった、と淀屋が舌を出す。しかし柴犬が無言で彼を引きずっていった。こういう時に車椅子は便利だ。


「市民は避難完了し、大規模戦闘無し。怪我人もいませんわ」


 ただ、と絹子はため息をつく。


「京都が危ないという情報がネット経由で広まって……関東へ逃げようとした人たちが殺到して、一時期交通機関が混乱しました」

「今は?」

「全ての駅、港、道路、空港に検問所を設置。今は必要の無い移動を止めている状態ですわ」


 ここから逃れたいという気持ちは、絹子にだって分からなくはない。しかし関東の主要都市も、大阪の人口をまかなうほどの余裕はない。移動させていると、必要な物資の輸送が滞るだけだ。


「よくやってくれた」

「現在、敵の主力は海からくる妖怪たちですわ。これを侵入させないため、全力を尽くしております」


 人工島付近はすでに戦場となっていて、デバイス使いが交代で詰めている。


「和歌山方面から、横手をつかれる可能性はないか」

「見張りを出してはいますが、今のところ大人しいものですわ」


 一年ほど前。人間側は和歌山の妖怪たちに、大きな貸しを作った。そのおかげか、彼らは沈黙を守っている。


「助けてくれてもよろしいのですけど」

「つい最近まで殺し合いをしていた相手だぞ」

「ふふ、分かってますわよ。──何かこちらでしておくことは他にありまして?」

御神楽みかぐらさんにつないでくれ」


 絹子は了承して、回線を切り替える。向こうとの通信が切れてから、淀屋がぽつっとつぶやいた。


「御神楽やと?」


 彼の懸念の原因は、絹子にも分かる。


 新が四人衆の中では筆頭ということになっている。しかし、彼は軍事的なことに対しては素人で、自らそれを公言してもいる。この状況で葵がわざわざ彼を指名するメリットはない。


 このことについて、淀屋と話し合ってみようか。絹子がそう思った時、けたたましく警報が鳴った。


「南港付近に大型種多数接近、増援頼みます」

「ほう。今ですら結構なデバイス使いがおるのに、泣き言か」

「柴犬」

「はい」

「むがっ」


 絹子は柴犬に命じて、淀屋の口を封じさせた。


「現場付近の画像を送ってちょうだい」


 すぐにモニタが切り替わる。見覚えのあるタテエボシばかりだが、その大きさが段違いだ。一番大きい個体は、数十メートルはあるだろう。


「ほおん」


 柴犬に押さえられている淀屋も、声をもらした。彼にも増援が必要だと分かったのだろう。


「あれだけ大きいと、魚雷も砲も効果が薄そうですわね。デバイス使いの追加投入もやむなしじゃありませんこと?」

「ええ案やな。そんな部隊がおったら、の話やけど」

「私と供回りが出れば済みますわ」


 絹子はまだ全く戦っていない。残りの体力は十分だった。しかし、それを聞いた淀屋はさっきよりうるさく騒ぎ始める。


「ふっほほほ……」

「もっと大物が来たら死ぬと? その心配はごもっともですけど、やや的はずれですわよ」


 淀屋になくて、絹子にあるものがひとつ存在する。デバイス使いとしての戦闘経験だ。


(あの立場なら補正もきくのでしょうが……ご本人が逃げ回っていらっしゃるから)


 訓練でもなんでも見学してみればいいのに、未だに淀屋が姿を見せたことはないという。かつてのライバルが作った装置を目の当たりにするのがよっぽど嫌らしい。


 彼の心中は図りかねたが、とにかく絹子はデバイスについてだけは淀屋より詳しい。


「私より心配しなくてはならないのは、現場隊員の疲労です」


 明確な規定はないが、クラスによって連続活動できる時間はだいたい決まっている。現場の人間なら体で覚えていることだった。


「Aクラスはともかく、補助でついているBクラスはそろそろ休ませないと。死なれてしまっては、元も子もありませんわよ」


 Bクラスといっても、現場経験のある人間は貴重だ。淀屋であっても、みすみす失いたくはないだろう。絹子はそれを見越した上で、強い言葉を重ねた。


「さよか」

「よろしいですわね?」

「今考えとんじゃスベタ」


 ここまでやっても、淀屋の反応は冴えない。絹子はいい加減苛々してきた。


「何を怖がってるんですの」

「な、なんや」


 淀屋は否定するが、彼の目が一瞬左右に動いた。絹子はそれを見逃さない。

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