表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
530/675

いい大人の罵り合い

 今度は、赤い光線が矢継ぎ早に飛んでくる。それはバリーの上を越え、はるか後方の海へと落下していった。


 しかし、外れたことを喜んでいる者は誰もいなかった。これは明らかに脅しだったからである。


「ならやってみろ。こちらは止めない」


 怪物が静かに告げる。勝ち誇った様子はまるでない。それがかえって不気味だった。


「……無事な僚艦は直ちに後転。クルーにも脱出の勧告を」

「どちらにしても、生き残る可能性は低いと思われますが」


 意見をのべた士官に向かって、司令官はにやりと笑った。


「確かに。だが、あんな奴の言いなりになるのとどっちがいい?」

「選ぶまでもないですね。では、直ちに」


 部下たちが忙しく立ち働く中、司令官はじっと傍らの手帳を見つめていた。そしてコンピュータの画面に浮かんだ数字をずらずらと書き連ねる。


 曲がった紙が手に当たった。いつもは忌々しく思いつつ手で直すのだが、今はどうでもよく感じる。


「司令官、ご自身はどうなさいますか」


 背後から問われた。ペンを走らせたまま、司令官は答える。


「俺は行かんぞ」

「生き残れば、次があります」

「別に自棄になってるわけじゃない。ここでやることがあるだけだ」


 そう言うと、司令官は椅子に深くかけ直す。そしてもう一度、目の前の怪物をじっくりと眺めた。


「さあ来い、化け物。アーレイ・バーク級が相手をしてやる」



☆☆☆



「太平洋と言っていたから、海軍管轄かな。そこに絞って情報を集めよう」


 よしやるぞ、と情報部の面々が腕まくりをする。その横であおいは、敵の画像を探すことにした。


(ひびき姉がいれば、簡単にすむのにな)


 いざという時に備え、初歩的なハッキングのこつは彼女から聞いている。しかし、軍事用衛星に侵入できるほどの腕はない。


(精度は落ちるが……確か気象衛星が、太平洋上を運行していたな。それに入るか)


 地球と同じ速度でしか回転しない静止衛星のため、伝達遅延を考慮しなければならない。しかも太平洋全てをカバーしているわけではなく、日本から離れすぎていればアウトだ。だが葵は、『モンスター』が映っている可能性に賭けた。


(日本駐留の海兵隊が、敵のことを知っていた)


 つまり、彼らにも待機命令が出ている。あまりにも日本・米国の領土から遠いなら、そうはなるまい。


「あった」


 葵の賭けは吉と出た。太平洋のほぼ中央、ミッドウェーの近く。雲と一緒に、巨大な物体が映っている。


「……なんだ、これは」


 とてつもなく巨大な塊だということはわかる。しかし雲に隠れて、詳細まではわからなかった。


「困ったな」


 葵がつぶやくと、部下たちが続々と集まってきた。


「わ、これ衛星画像だ」

「許可は?」

「そういうのは後からついてくる」

「要はハッキングですか。坊っちゃま、いよいよ悪の総帥じみてきましたね」


 勝手なことを言う彼らをにらみながらも、葵は悩んでいた。どう考えても、この状態で大統領に話をするのは無理だ。種の特定すらできないのである。


(やはり無理は承知で、東京から情報を集めるしかないか?)


 葵がそう思ったとき、また電話が鳴った。今度は、家族専用の通信回線である。知っているのは三千院さんぜんいん直系の家族と老使用人、御神楽みかぐら鷹司たかつかさくらいのものだ。


「はい。三千院葵」

「ヘンリー・クラークだ」


 葵の耳に、はっきりした英語の発音が飛び込んでくる。しかしそれより驚いたのは、名乗った氏名が現役大統領と同じということだ。


「手のこんだ偽物ですか」

「この状況でコメディを演じるほど暇じゃないわい」

「冗談でしたが、つまらなかったですか」


 電話の相手が、舌打ちをした。


「流石、サンダーボルトの身内だな。可愛げがない」

「そういうものは母親の胎内に置いてきました。この回線はやはり姉から?」

「私のアドレス帳を強奪して、汚い字で書き付けていった」

「お気の毒に。しかし、その姉も今はおとなしいものでしょう?」


 葵が言うと、ヘンリーが唸った。


「知っているのか。原因を」


 葵はかいつまんで事情を説明した。


「つまり、今のところ復活することはないということかね」

「こちらでも見当がつきません」

「君の姉はいつもいつも自分のしたいようにする、勝手極まりない女だった」

「身にしみてます」

「それでもうちに置いていたのは、いざという時の対応力を買っていたからだ。ここまではわかるな」

「イエッサー」

「……それが、この肝心なときに寝ているとは!! あの大食らいの役立たず!!」


 ヘンリーは、今にも血管がぶち切れそうな勢いで怒鳴り散らす。こっちだってなりたくてなったわけではないのだが、それを言うと話が進まなくなるので葵は黙っていた。


「──とにかく。今をもって彼女の受け入れは中止だ。もううちには金輪際関わらないでくれ。ああ、それと」


 これからが本番だ、と察した葵は軽く身構える。


「日本にいる米軍は全て待機とする。物資の提供はしてもいいが、人員を動かすわけにはいかん」

「ずいぶん出し惜しみしますね。カードローン上等、貯金なぞ知ったことかの超大国が。海軍の一件、やはりよほどのことらしい」


 葵はここで初めてかまをかける。ヘンリーが間をおいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ