表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
510/675

三千院都の憂鬱

 百年、二百年……見続けているうちに、天逆毎あまのざこは気付いた。


「同じ大きさの穴が、一定期間をおいて同じ場所に現れる。地震と同じく、周期性のある自然現象だと思いましたので、記憶しました」

「全部か!?」

「めぼしいものだけですよ。それでも、百を超えますが」


 疾風はやては天逆毎の能力に舌をまいた。


「そうやって覚えていったうちの一つが、これです。前に開いたのは、この国がまだ『江戸』を都としていた頃の話です」


 その時もつがいが来た。そして増殖し大騒ぎになった、と天逆毎は実に楽しそうに語った。


「あまりに犠牲者が多すぎたので、時の政府は飢饉ききんだということにしましたが」

「それだけの被害なのに、公開しなかったのか」


 呆れる疾風に向かって、天逆毎は笑う。


「幕府の権威失墜は禁忌。大きいとはいえ、たかが蜂ごときに大量の死者を出したとは言えなかったんでしょう」

「……なるほど」

「その時は、幸い蜂が途中から弱ってきた。幕府の討伐作戦が成功し、なんとか後世に汚名を残すことはなかった。しかし、今は事情が違う。……人間たちは、どこまで耐えられるでしょうね」


 天逆毎は、目元をつり上げて嫌らしい表情を作る。


「悲しい死をとげた父上も、喜ばれるでしょう。何せ、京から人間が消えるのですから」


 天逆毎が言う。疾風は胸にひっかかるものを感じながらも、うなずいた。



☆☆☆



 三千院都さんぜんいん みやこは、ここのところとても機嫌がよかった。


(にーには、変わったものをたくさん連れてきたのう)


 戦に勝って、敵を捕虜にしたのだという。大きい蛙から小さな狸まで、サイズも種族も様々だ。みな、はじめは都をしげしげ眺めるだけだったが、最近ようやく話もするようになった。


(……一体だけ、例外がおるが)


 都は手に持っている皿に目を落とした。ふわりと膨らんだ油揚げがのっている。通常のぺらぺらしたものではなく、豆腐のような厚みで角がしっかり立っている。色はまさに狐色、香ばしいタレがかかったそれは、おかずにしても絶品で……。


(いかん)


 明後日の方向に持っていかれそうな意識を、都は辛うじて繋ぎ止めた。


(これはあやつの分じゃ)


 もう一度自分に言い聞かせてから、都は歩みを速める。目指すは、客人用の離れだ。


 都の家はいわゆる洋風建築なのだが、どうしても畳がいいと言う客のために、和風の離れがいくつかある。その中でも一際ぽつんと離れた棟に、変わった客がいるのだ。


(あのように赤くて大きなカラス、どこにどうしておったのやら)


 客とは、天狗という巨大カラスであった。名は飯綱いづなというらしい。それ以上のことは、一切知らない。


(何せ、本人がしゃべれぬからの)


 飯綱は大怪我をしている。わずかに胸元が上下するくらいで、あとは全くの無反応だ。都は彼の眉間やくちばしを触って、ゆかりにたしなめられたことを思い出す。


(ご飯も食べず、ようもああして寝ていられるものじゃ)


 都は悲しくなったが、飯綱ほど大きいと少しの断食くらいで死にはしないそうだ。問題は彼にくっついている、ちびの方である。


「ちびー」


 ちっとも名前を教えてくれないので、都は勝手に彼(彼女?)をそう呼んでいる。一拍おいて、座敷の中から真っ白な狐が姿を現した。粉雪のような細い毛がふわふわと日をうけて光っていて、都は思わず手を伸ばす。


「ぐるる」


 低く唸られて、都は我に返った。


(この前もなでようとしたら拒否されたの)


 モフモフしたい欲はあれど、確実に痛い目を見るのがわかっていてやるのはただの阿呆である。


「ほれ、ご飯じゃ」


 少しずつ手なずけていくより他はない。面倒ではあるが、目の前で揺れるふさふさの尾のためなら、我慢しようではないか。


「くーん」


 強がっても、腹は減っているらしい。ひくひくと鼻を動かして、狐がやってきた。そしておもむろに、一口かじる。まずく感じていないのは、表情を見ればすぐにわかった。


(はじめは良いのじゃ……はじめは)


 都は顔を曇らせる。そして、悪い予想は当たった。


「……またか」

「ぐるるる」


 ため息をついた都に対して、「文句があるか」と言わんばかりに狐がうなる。


「一回り小さくしてもダメか」


 都の目の前には、きっちり半分だけ食べられた油揚げが残されていた。このところ、ずっとこの調子なのだ。


「まだ大きすぎるのか?」

「うう……」


 油揚げを徐々に小さくしていっても、狐は常に半分だけ残す。


 もったいない。もったいなさ過ぎる。食べ物を大事にせずにいられない都は、どうにもこの事態に納得がいかなかった。


「適量を教えてくれんかのう」


 顔を覗きこんでみたが、当の狐はつまらなさそうに吠え、家の中に入ってしまった。


「むー……」


 ここまでつれないと、都も腹が立ってくる。とりあえず頬を空気でぱんぱんにしてみた。


「どうした。可愛い顔が台無しじゃぞ」


 都の後ろから、大人の声が聞こえてきた。一番慣れたその響きに癒され、都は顔をほころばせる。


「じいじっ」


 器を置き、全力で巨体に飛びつく。太い腕は衝撃をものともせず、軽々と都を抱えあげた。


「わーい」

「元気かー」

「元気じゃー」


 挨拶を交わし、共にはしゃぎあう。巌の肩に乗ると、視界が開ける。都はすっと気が楽になった。


「のう、じいじ」


 都は祖父に今までのことを説明する。巌は黙って終いまでそれを聞いていた。


「な、解せぬじゃろ」

「……そうかの?」


 都は驚いた。巌は特に不思議でもないと言いたげに、にこにこしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ