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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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白い絶望が手招く

 あおいはコンクリートの上を必死に走る。地方基地と言えどもその敷地は広大で、後方の部隊と合流するまでしばらく時間がかかった。ひいひい言いながらも、河合かわいが葵の後をついてくる。


「見えました!」


 ようやく葵の視界に、敵部隊の赤い鳥たちが目に入る。その瞬間、真っ赤な物体がばらばらと二人の目の前に落ちてきた。


「きたか!」


 上空から焼けた石が、後から後から二人目掛けて落とされる。あらかじめ、自分と河合かわいに防御用として、アリアドネの糸を張っておいて正解だった。しかし直撃はしないが、二人は上空から落ちてくる燃え盛る石つぶてに阻まれて、完全に足止めされてしまった。かんかん、と地面をうつ石の音がやけにうるさい。


「お前の出番だぞ」


 葵は河合の肩をたたいた。緊張しているのか、河合が不必要なくらい何度も頷く。すがるように葵の腕をつかんでから、二、三度息を吸って、河合はようやく言葉を放った。


次郎吉じろきち!」


 河合が懐から取り出した煙管きせるが、ぱっと金色の輝きを放つ。しゅう、と煙管の先端から灰色の煙が出てきた。煙はあっという間に二人を取り囲み、まとわりついて離れなくなる。


「も、もう大丈夫です」

「よし、一気にいくぞ。走れるか」

「大丈夫です、いけますッ」


 さっきまで糸の中で縮こまっていたのが嘘のように、二人はぱっと駆けだした。つぶては相変わらず雨あられと降ってくる。が、それは葵の体をすうっとすり抜けていった。まるで、いきなり幽霊になってしまったかのようだ。


 頭上から、怒りのこもった鳥たちの鳴き声がする。そりゃそうだろう、彼らにしてみれば焼けた石に当たって死なない人間がいるなどと思ってもみなかっただろうから。葵は面白く思いながら走り続けた。


 全ては河合のデバイスのおかげだ。『次郎吉』は、その名を宿す大泥棒がごとく、物体をすり抜けることができる。こういう補助的な能力のデバイスは、地味だが実にありがたい。もちろん上空の鳥たちはそんなことを知らない。数で仕留めてくれるとばかりに、石くれは執拗に葵たちを追いかけてきた。


「執念自体は悪くないがな。早いとこ切り変えないと、戦場では死ぬぞ」


 葵は前方をちらっと見て言う。自信満々に胸を張り、霧島きりしまが弓を構えて待っていた。


「ふふ、いい的」


 色っぽく笑いながら霧島は弓を引き、矢を放つ。金色の光があっと言う間に空へ向かって飛んで行った。程なくして、頭上からばらばらと妖怪の死骸が降ってくる。


「無事か」

「おかげさまで」


 戦いが続く中、葵と霧島は短い挨拶を交わした。それが済むと霧島はまた弓をつがえ、獲物を捜している。


瀬島せじまは」

「負傷者の撤退に力を貸していますよ。最初は私の打ち損じや仕留め損ないを捜していたようですが」


 霧島はそこで言葉を切って、容赦ない一撃を放った。今度もまた、葵たちは鳥たちの死骸のシャワーを浴びるはめになる。


「私には必要ありませんから。狙った以上は必ず当てます」

「派手にやるな」


 葵がそう言うと、霧島はふふんと口元を吊り上げて笑った。その頼もしさに、傍らの河合がほっと息をつく。


「はい、もう一発」


 霧島の矢が飛んでいく。また死骸が落ちてくるか、と何気なく空を見上げた葵は強烈な違和感を感じた。


 鳥の赤からうってかわって、白い。

 なにかおかしい。


「河合! デバイス!」


 単語だけで指示を飛ばす。河合は何が何だかわからぬ様子だったが、とりあえず煙管をもう一度叩いた。


 次の瞬間、三人は上空から落ちてきた物体にぶつかった。べしゃり、と何かをたたきつける音がして、葵の目の前が暗くなる。次郎吉の発動が間一髪間に合ってよかった。


 煙をまといながら、落下物をすり抜けてみてようやく、葵たちを襲った妖怪の正体があらわになる。


 それは、巨大な骨だった。一本につながってはおらず、所々竹のようにいくつもの細かい節に分かれていた。大小雑多な骨がつながってガチャガチャと耳障りな音を立てる。


「ぎゃー、妖怪の手だあ!」


 河合が情けない声をあげた。逃げる暇もなく、獲物を取り逃がしたと気づいた骨が、がばと指を広げて蜘蛛のようにこちらに迫ってくる。もう一度次郎吉の能力を借り、三人は攻撃をかわす。骨がぶつかる時の衝撃もなにもかもそのまますり抜けてしまうため、体にダメージは全くない。


「すごい能力ですね」


 今度は霧島が、感謝をこめて河合を見つめた。


「が、いつまでもは続かん」


 葵はつぶやく。次郎吉の効果が切れないうちに、敵の正体を見極めようと葵は顔をあげた。頭をあげていくと、空中に浮かんだ巨大な目とちょうどかちあった。


 巨大すぎて、一瞬それが目だとは思えなかった。まるで巨大なたいまつが突然空中に現れたように、赤い光がぎらついている。その周りに白い骨が浮かんでいた。大きな頭蓋骨を、骨だけの体が支えている。骸骨がいこつの体高は葵たちの近くにある建物よりはるかに高い。向こうから見れば、自分たちなど小虫に等しい大きさだろう。


 葵は瀬島に通信を送り、一般兵の即時撤退を指示した。敵がここまで巨大だと、戦車を持ってきても叩きつぶされそうだ。歩兵など目も当てられない。


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