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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
黄金になる白
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海老の真名(食用不可)

「悪いがその辺にしておいてくれ。御神楽みかぐら家に嫁がこなくなっても困るんでな」

「あら、失礼」

「まあ、いい子もいっぱいいますから。ちゃんと選べばなんとかなりますって」


 指宿いぶすきが気休めを言ったが、和泉いずみは眉毛をハの字にしたまま、しばらく固まっていた。


「……気分転換に、妖怪のデータでも見ますか」


 あおいがダメ元で誘ってみると、和泉が乗ってきた。


「そやな。仕事しとった方が、気がまぎれるわ」


 ということで、和泉と二人でパソコンに向き合う。メールの添付ファイルを開くと、奇妙な生物が大写しになった。


「これは……」

「えっらいトゲトゲした海老やな。日本にこんなのおったか?」


 海老の体は硬そうな甲殻に覆われ、地上の移動に使うのか羽までついている。体の色はどす黒い赤で、空気に触れていた血のようだ。しかし頭部について、葛飾かつしかから但し書きがついている。


『時間経過により、頭部の色が青や黄に変わったと報告有り』


 メモはさらに、こう続いている。


『発声器官を備えていないため、色を用いて仲間とのコミュニケーションをとっていると考えられる』


 変な進化やな、と和泉がつぶやく。しかし、葵はもっと気になる一文を発見した。


『彼らが妖怪たちの死体を漁っている姿が目撃されている。いずれも大した時間をかけずに立ち去っていることから、捕食目的ではない模様』

「……死体を?」


 和泉も顔をしかめる。彼が不思議がるのも無理はなかった。妖怪たちの大半は仲間を敬い、死体は丁重に扱う。何故、死体に群がってすぐに立ち去ったのか。


「もしかしたら」


 葵の頭に、一つ考えが浮かぶ。和泉からマウスを受け取った葵は、写真の一部を拡大してみた。そこにあったものは、葵の想像を裏付けている。


「なんやこれ……ペンキ入れみたいな缶々やな」

「重要なのはその中身です」

「この白いのは……」

「たぶん脳味噌ですね。妖怪の」

「生か。まんまか」

「生です。まんまです」


 和泉はそれを聞いて喉元を押さえた。今日は彼にとって厄日のようである。


「んなモン集めてどうするつもりや。ゲテモノ食いか?」

「いや、食うためじゃないですね」


 葵はネットのサイトを立ち上げる。そこには、おどろおどろしい絵とともに、『クトゥルフの邪神たち』という文字が並んでいた。


「ああ、有名な話か。外宇宙から来た神がおるって創作やろ? アメリカでは人気あるらしいな」

「ただの物語では終わらなかったようです」


 葵はページを移動して、ある画像のところでクリックをやめる。そこには、写真の怪物とよく似たイラストがあった。


「ミ=ゴ? けったいな名前やな」

「もしくは『ユゴスからのもの』。基本的に自分たちのための採掘しかしない種族ですが、天逆毎あまのざこはうまく丸めこんだようですね」

「ホンマに何でもありな奴やな」


 和泉が舌打ちする。それに同意しながら、葵は先を読んだ。


「彼らの手先は非常に器用で、手術を頻繁に行う。そして、円筒状の容器の中に脳を入れて持ち運ぶ」

「死んだ脳で何を……」

「いえ。取られた脳は円筒の中に入っている限りは生きていて、会話させることすらできるようですよ。死体に近づいた理由もそれじゃないでしょうか」


 人間だと、心臓の鼓動が止まってからも脳が動いていた、という事例が報告されている。妖怪もそうだとするのなら。


「生きた脳さえ手に入れば、寝返りさせなくても作戦から陣地まで洗いざらい知ることが出来る。恐ろしい種族だ」

「最前線がこてんぱんにやられたのもそれでか。和歌山支部だけで、ホンマに大丈夫か」


 苦い顔をする和泉に、葵はひとつ提案してみた。


「和歌山支部に、共闘の申し出をしてくれませんか。もちろん総司令は葛飾一佐で」


 和泉はそれを聞いて、首をひねった。


「言うのは別にかまへんが、そっちからじゃなくてええんか。うちは和歌山に送っとる士官もおらんで」

「うちも知り合いは瀬島せじましかいませんよ。それに、大阪支部から頼むのが重要なんです」


 どういうことだ、と和泉が目で聞いてくる。


「介入は和歌山支部の面子を潰す行為です。葛飾一佐にとって面白いはずがない。そこで相手の同情をひくことと圧力をかけること、二つを同時に行う必要がある」


 指宿たちも前のめりの姿勢で、こっちを見つめてきた。葵はさらに説明を続ける。


「それができるのは大阪支部だけです。まず同情の方ですが、大阪は全国的に見てもデバイス使いが少ないですね」

「人口比率で言ったらワースト一位かもな」

「そこです。しかも、大阪は和歌山と隣同士」

「……妖怪が雪崩れこんだらこっちは困る、という方向に持ってけってことやな」


 和泉の瞳が素早く動いた。頭の中で算盤をはじき始めているのだろう。


「あえて本音をさらしてみた方が有効かもしれません」

「分かった。で、圧力の方は……」

「経済封鎖ですね。お隣からの建材や資材の供給が止まればたちまち困るはず」


 そもそも和歌山と大阪では経済規模がまるで違う。いかに葛飾一佐が頑張っても、上層部が折れるに違いない。この手は使いたくなかったが、やむを得ない。


「ふへー」


 じっと聞いていた指宿と小兎ことが気の抜けた声を発した。


「坊ちゃま、女のことを悪く言えませんねえ。実にいやらしい手です」

「始めから困ったら、お金の力でねじ伏せる気だったでしょう」

「悪いか。俺はずっとこうだ」


 葵は開き直った。女二人はそろって笑い転げる。その横で、和泉が静かに立ち上がった。


「じゃ、それでやってみよか」

「本当なら石油を止めるのが一番確実なんですけどね。それを握ってるのが淀屋よどやなもんで」

「期待するだけ無駄やな」


 和泉は乾いた笑いを漏らしてから、部屋を出て行った。


「さて、こっちも準備だ。AH型、OH型ヘリはじめ、動ける機体は全て整備しておけ」

「はいです。情報部も現地の地形データを解析中でっす。終わったら猫田ねこたさんがみんなに配ってくれますからね」

「デバイス使いの方は?」

「こっちも大丈夫そうだよ。神戸支部でみんな待機してる。御神楽くんだけ異常にテンション高くてキモいんだけど、何かあった?」

「あの猿め」


 殺気をたたえる葵を見て、小兎は自分から口をつぐんだ。


「まあ……坊ちゃま。今はできることをしましょう、ねっ」


 指宿に肩をたたかれる。葵は渋々ながらうなずいて、目の前の受話器を持ち上げた。

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