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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
黄金になる白
386/675

試合は終わった、勝負はこれから

「これで決まりましたね」

「よほどのことが起きねば、そうなるだろうな」


 上座で見守っている鬼一きいちたちはささやきあった。ヴィオレットにも意味がわかるらしく、残りの栄螺鬼さざえおにを数えながらうなずいている。


「残り六体中、はっきり日波ひなみさんに味方してくれそうなやつがいないもんね」

「逆に風波かざなみは確実に一体押さえている」

「このようにやられっ放しでは、残りの日和見たちも味方などしますまいよ」


 天狗たちがそう結論づけたところで、採決が始まった。思った通り、風波が推した春波はるなみが跡取りと決まった。


 和やかに笑みを浮かべる風波とは対照的に、日波は怒りで顔を真っ赤にしている。


「……一応は、終わりましたね」

「ああ。序章の終わりというところか」

「ふへー」


 ヴィオレットはここぞとばかりに、誰も食べなかった菓子をかき集めてから話に参加してきた。


「この会議が終わった後に、日波さんが何かしてくるかもってこと?」

「当たり。警戒は欠かせない」

「やたー」

「まあ、あの顔を見れば誰でも分かりますけどね」

飯綱いづなちゃんはかわいくないねえ」

「脇腹をつつかないでください」


 席を立った天狗一行は、栄螺鬼たちの前を横切って石段へ向かう。日波たちはすでに退出してしまっているため、ここにいるのは勝利を喜んでいるものばかりである。


「おお、これはこれは」


 風波が、鬼一を見て寄ってきた。


「お見事でした」

「なんの、お力添えのおかげです」


 風波は嬉しくて仕方無い様子で、しきりに体を揺する。


「いえいえ。もともと風波様の武勲あってのことでございましょう。そうでなければ、あれほど皆があっさり乗ってこなかったはず」


 飯綱が言うと、鬼一もうなずく。天狗たちが中立を装って風波に入れ知恵したのも、その実績を評価してのことだ。


 亡き達波の遺児を引っ張り出すことを提案したのも、実は鬼一である。何故そこまで、と言うものもいた。しかし今回の件に天逆毎がからんでいる以上、失敗は即、己の身に跳ね返ってくる。何としてもこの場でまとまってもらわねば、鬼一たちが困るのだ。


「では、私たちはこれで」


 ゆっくりしていけ、としつこく引き留める風波をようやく振り切って、鬼一たちは社を出た。夜はすでに深まっていて、動物たちも寝静まっている。


「さて、行くぞ」

「どこへ?」


 不思議がるヴィオレットを連れて、鬼一たちはあっちこっちへ見境なく飛ぶ。誰もついてきていないことが確認できてから、鬼一は山中の空き集落に降り立った。


 人間と妖怪が戦を始めた時、こういう山里は真っ先に標的となった。田舎の悲しさで救援もすぐには来ず、住民も死に絶えている。それゆえ、妖怪たちは自分たちの便利なようにここを使っていた。


「えー? 誰かと会うの?」

「それは会ってのお楽しみですよ。それよりその菓子、さっさと食べてしまいなさい」


 飯綱に言われて、ヴィオレットはそそくさと食べかけの菓子を口につめこんだ。帽子の中の鳥と一緒にもぐもぐやっている。


「みひゅ」


 身振り手振りで、ヴィオレットが訴えてくる。全く世話が焼ける、と言いながら飯綱が立ち上がった。


 その時、横手から水の入ったひしゃくが出た。ヴィオレットはそれをもらうと、よく確かめもせずぐいぐい飲み干す。そしてあっという間に空になったひしゃくを、闇に向かって突き出した。


 しなびた老人の手が闇から出てきて、それを受け取る。徐々に手だけでなく、全身が見えてきた。細身かつ、着物姿の老人。そのまま後ろから見れば、はげ頭のただの人間にしか見えないだろう。


 しかし、正面に回ってみると、彼が妖怪であることがよくわかる。額の中央に、大きな目玉が一つあるのだ。


「鬼一、よく来たな。このかわいらしい子は新入りか」

「坊、ご無沙汰しています。はい、彼女は最近異国から来まして」

「やほー」

「こら、失礼な」


 ヴィオレットがはしゃいでも、一つ目の坊主は特に気を悪くした様子もなく、にこにこと手を振っている。


「急に呼び出して悪いな」

「なんの。しばらく前から紀伊も騒がしくての。おちおち寝てもおれんわ」


 坊主はそう言って、じっと鬼一を見つめる。ああ、とつぶやいてから鬼一は話し出した。


「栄螺鬼の件だがな。予定通り春波が跡取りになった。……だが、日波はあれで素直に引き下がるようなタマじゃない」

「一旦言い出したら聞かんからなあ。必ず後日、武力に訴えようとするじゃろう。お前さんの口利きは忘れてな」

「やはり、そうでしたか。天逆毎あまのざこが言い出した話だ、そんなことじゃないかと思ってましたよ」


 飯綱が肩をすくめた。実は今回の話、受けた時から『絶対に裏がある』と話し合っていたのだ。


 鬼一と飯綱が予想した筋書きはこうだ。まず、栄螺鬼のどうでもいい跡継ぎ決めの仲裁を頼む。しかし、その場は収まっても後日必ず戦闘になるだろう。


「その責任を、体よくうちに押しつけて討伐のきっかけを作る……となるのでは、とは言っていたのです」


 鬼一が言うと、飯綱がさらに補足する。


「要は、何でもいいからつぶしたいんですよ。栄螺鬼はそのための体のいい言い訳です」


 言うことを聞かない天狗族の力を削ぎ、さらに鬼一や飯綱の首を取るきっかけを作る。それまで天逆毎は一切動かないだろう。そのことがかえって気味が悪かった。


「手は打ってあるのか?」


 坊主がぎろりと大きな目でこちらをにらむ。


「ああ。風波の方には、日波の監視を強めるよう言い含めてある」

「武将としては風波の方が上ですから、油断さえしなければ大丈夫だとは思いますが……まだ安心はできません」


 そこまで聞くと、坊主が鬼一に近づいてきた。


「手回しはしておるようじゃが、それでもなお儂に声をかけたのはなぜじゃ」


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