空な分だけよく入る
「……飯綱の差し金か。あいつみてえなのは二体もいらねえんだよ」
「その飯綱さまから、『自分がいないと若はちっとも頭を使わないので』とおおせつかっております」
やはり全ての元凶はあいつだった。疾風は密かにあの赤髪を呪う。
「今日はもう一回使ったからいいだろ」
「……とか言ってすぐにサボろうとするので、その時はヴィオレット様に子守歌を歌っていただくことに」
「あの破壊音波だけは勘弁してくれ! 考えりゃいいんだろ!?」
疾風はやぶれかぶれになって怒鳴った。そして改めて、地上をにらみつける。
土蜘蛛たちの統率が完璧なわけではない。なにせ、地中からばらばらに出てきたのだ。そして、彼らは特に動きが速いわけでもない。
疾風が悩む間にも、戦は進む。土蜘蛛が腕を伸ばし、歩兵の頭をかじり取りはじめた。その歩兵が足だけになっても、疾風の考えはまとまらない。ついに、長に向かって白旗をあげた。
「おやおや。まあ、若にしては長いこと考えておられたから、よしとしましょう」
長は笑った。やはり、飯綱に教えてもらうより点が甘くて、気が楽だ。
「考えてはみたが、土蜘蛛たちがそんなに優れているとは思えねえ」
「そうですよ。彼らが聞いたら不愉快に思うでしょうが、土蜘蛛はそんなに強い妖ではありません。中の下、くらいですかな」
疾風が多少気を遣ってはぐらかしたものを、長は情け容赦なく言い換える。下に聞こえていないか、疾風はひやひやした。
「ですが、中の下くらいというのも、そう捨てたものではないのですよ。自分の力が四十しかなくても、相手が十ならばたやすく勝てます」
疾風に言いながら、長は地上を指さした。
「よく見てごらんなさい。相手は何も考えずに来ている。四方八方に分散、しかも少人数。こんなに囲みやすい敵はいません」
確かに、長の言う通りだった。攻める範囲が広すぎるゆえに、隣の班との連携がとれない。
しかも、一班あたり十人くらいしかいないため、班内だけで全てを補うこともできない。完全に打つ手がない状態だった。
「相手が欲をかきすぎましたな。一気に攻め込めるのは、相手に対して数が多く、なおかつ開けた場所にいる時のみです。砦の恐ろしさを甘く見ると、後が怖い」
長の言うことに、疾風はいちいちうなずいた。納得すると同時に、『みんなこんなことを考えながら戦ってたのか』と、驚く気持ちもわいてくる。
その間に、地上では大勢が決まっていた。歩兵が退却していくのを、土蜘蛛たちが追い回している。
「……深入りはまずいって言ってたよな。止めるか」
「いや、彼らの指揮はあちらの長に任せましょう。適当なところで引き返すと思います。それより、行きますよ」
「どこへだ」
「大事なことをしに、です。一旦はしのぎましたが、まだ敵は諦めていませんから」
「お、おお」
返事はしてみたものの、疾風はなにをしたらいいのかわからない。また頭を悩ませながら、長の後を追った。
長が狙いを定めたのは、今までとは比べものにならないくらい、少人数の部隊だった。彼らも忙しく動いてはいるものの、さっきの歩兵たちほど威圧感がない。
「もしかして、あいつらを潰すのか?」
「ええ、そうですよ」
涼しい顔をして言う長とは反対に、疾風は口をへの字に曲げた。
「あんまり手応えなさそうだな」
「おや、若は見る目がありませんなあ」
それだけ言って、長は口をつぐむ。また自分で考えろ、ということだろう。
疾風は舌打ちをして、眼下の人間たちをじっと観察した。よく見ると、彼らは包帯や薬箱を抱えていたり、ひたすら機械と会話している。
「後方支援の隊か」
「はいよくできました」
「医者や連絡役を潰せってことか。しかし、そんなんで大軍がどうにかなるもんなのか」
「〝そんなん〟ですと?」
疾風は軽い気持ちで言ったのだが、長は全身の羽を逆立てた。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
「お……おい」
「これは私たちの責任でもありますが。鬼一さまがおいでになるゆえに、大丈夫であるとあぐらをかいてしまった」
「急にどうした?」
うろたえる疾風の胸ぐらを、長ががっきとつかんだ。
「若。戦において一番労力が必要なのは、後方支援なのですよ。千いたら、最低でも七百は後方に回さねば勝てません。これだけはその鳥頭にたたきこんでおきなさいっ」
「う……うす」
お前も鳥だろうが。その一言が言えずに、疾風は完全に勢い負けしていた。長は手を離し、ふんと鼻を鳴らす。
「その点、こたびの軍はてんでなっておりませんなあ。万に近い兵を動かしていながら、後方支援はどう多く見積もっても二千にみたぬ。これでは、この隊が壊滅した後が思いやられます。大軍であればあるほど、きちんと連絡がとれなければ、まとまって行動できませんから」
解説する長の横顔を見ながら、疾風は血が沸いてくるのを感じていた。
「つまり、あいつらを殺せりゃ、本隊が慌てふためくのか」
「さようです。敵を分割することが楽しくなってきたら、立派な烏天狗へ近づいたということ。さ、参りましょうか」
長が刀を抜いた。疾風もそれにならう。相手に逃げる隙を与えないよう、一斉に飛びかかった。




