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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
呪いと祝福の霊都
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黄金の上で泣く君は

「おかしいとは思わなかったか? 二つの店で、二つとも一等なんて。今までのお前に、そんなことが一回でもあったか」


 はるかはぐっと返事に詰まった。確かに、今まではお世辞にもくじ運がよいとは言えなかった。覚えている限りでは、三等以上が当たったことなどない。


「……なんなの、君は?」

「ようやくそれを聞いたか。俺は金霊かなだま。俺がついていさえすれば、金になることがお前をめがけて飛んでくる。生まれたときから、そうなってんだ」

「都合の良い妖怪だね」

「昔は本当に金銀財宝が家の窓から飛び込んだらしいぜ。今はそうするとあれこれ迷惑らしいな」

「確実に警察沙汰」

「ってことで、持ち主が結果的に潤う行為ならなんでもありになったみたいだな」

「そう。今日のことはありがとう」

「今日だけなんてケチくせえこた言わねえ。お前が死ぬまで、ずっと一緒にいてやるよ」


 十円玉は楽しそうにしゃべり、遥の胸へ移動した。


「いやあ、お前は実に運がいい。こんな幸運めったにねえぜ。これからは金に困ることもない、誰にだって馬鹿にされない」


 遥は無視して布団をかぶったが、十円玉は喜々として話し続ける。


「お前、こんなでけえ家に住んでる割には、子供の小遣い程度の金しかねえだろ。素直になれよ」


 三千院さんぜんいん家では、自分の才能で稼いだ金は自由に使っていいことになっている。しかし、親からもらう小遣いの額は普通の家の子とさして変わりない。コネを利用するのはいいが、自分で稼いでもない大金を持つとろくな事は無い、というのが両親と祖父の共通認識だ。


 遥自身もそれでいい、と思っていたし、別に物欲が強いわけでもない。しかし、今、遥の中に新たな欲が芽生えつつあった。


(お金だけでも稼げるようになったら、少しはみんなに見直してもらえるのかな?)


 これまで遥は、何一つ成し遂げてこなかった。今までがひどかった分、少しくらいいい目を見てみたい。この十円玉のことは、黙っていれば誰にもわからないだろう。


(とりあえず、今回の出版の話を進めてみよう。全ては、それからだ)


 遥がそう決めた時、部屋の中に医者が入ってきた。彼はしかめっつらしい顔をして、気分はどうかと聞いてくる。


「はい、調子いいですよ」


 嘘でも誇張でもなく、本心から遥はそう言った。



☆☆☆




 それから遥は何度か、丸顔の男と会った。出版への話はとんとん拍子に進み、無事に脱稿となった。そして、とうとう発売日を迎えることとなる。


 遥は出版が決まったことを、家族の誰にも言わなかった。失敗したら、なかったことにするためだ。祖父やトヨあたりはうすうす察していただろうが、遥が言わない限り漏らす人たちではない。


 学校にいる間も、本のことばかりが気になっていた。十円玉はのんきにかまえているが、遥はそうのんびりしてもいられない。


 ようやく授業が終わると、遥は学校から近い大型書店に駆け込んだ。中には本がうなるほど置いてあるが、一番売れる確率が高くて目立つのは、やはり平台と呼ばれる、少し低めの台だ。


 けっこう有名な出版社から出ているし、発売日くらいは目立つところに置いてくれているかもしれない。遥は店内の平台を見て回った。


 しかし、はじめは軽かった遥の足取りが徐々に重くなっていく。平台どころか、本屋の中に遥の本が見当たらないのだ。再度発売日を確認したが、間違ってはいない。


(他の同時発売になった本はちゃんと並んでるんだし、まさか土壇場で中止なんてことは……)


 遥が青ざめたとき、ポケットに入れていたスマホが震えた。


「は、はい?」


 あたふたと電話に出た遥の耳に、うわずった編集者の声が聞こえてきた。


「先生、やりましたね」

「はあ、ありがとうございます。……で、何がですか?」

「嫌だなあ、本のことですよ。すごい売れ行きで、ありとあらゆる大型書店から発注が入ってます。平台に置いた途端なくなった、なんて店もあるようで」


 そこまで言われて、遥は平台をもう一度見た。すると、一カ所だけ不自然にスペースがあいている。


(もしかして、僕の本があそこにあったの? まさか)


 まだ信じ切れない遥は黙っていたが、電話の向こうの編集者は止まらない。


「即重版をかけますが、この分だとすぐにそれもはけてしまうでしょう。先生、電子版に抵抗はないですよね? ならいいんです、すぐに準備を……」


 ますます熱を帯びてくる編集者の声を、遥はただ呆然として聞いていた。



☆☆☆



 それから、もう七年。遥が成人しても、著作の売れ行きはとどまるところを知らない。一冊出せば確実に十万部は超え、はじめの本は映画にまでなった。


 遥に入る金は膨大なものになり、兄弟の中で稼ぎ頭だったひびきを抜き去った。「一体あの子はどうなるのかしら」という目を向けていた使用人たちも、しきりに褒めてくれるようになり、遥を取り巻く環境は明るくなった。


 しかし、それに反して、遥自身の気持ちは暗く沈んでいくばかりだった。原因ははっきりしている。


 デビューしてから他の作家と仲良くなると、彼らの本をもらったり買ったりすることが多くなった。元々本好きだった遥は喜んで読んでいたが、しだいに嫌になってきた。彼らの本の方が、単純に面白かったからだ。


 しかし、当たり前と言えば当たり前だった。遥が売れたのは、自分の力ではないのだから。


 結果さえよければ良い、と金霊は言う。一番売れているのはお前だ、それが何よりの評価なのだと。


 一時はそう思い込もうとしたが、遥にはどうしてもできなくなった。ついに耐えきれなくなって、「こんな力なんかいらない」と巌に助けを求めた。その結果が、今回の京都行きである。


「残念だったな、俺を厄介払いできなくて」


 肩の上でまた金霊がケラケラ笑う。舌打ちをしながら、遥は空を見上げた。


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