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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
呪いと祝福の霊都
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幸運が雪崩をうつ時へ

「よく見つけたな、お兄ちゃん」


 銅貨からいきなりしゃがれた老人の声が聞こえてきて、はるかは思わず口を開けた。怖くなって、十円玉を取り落とす。


「おや、つれない。でも、あんたの匂いはもう覚えたぜ」


 声がまた聞こえてきた。しかし今度は下からではなく、遥の肩のあたりからだ。


 急いでそちらを見ると、遥の右肩の上で十円玉がくるくると回り続けている。不思議なことに、手で払っても払っても落ちなかった。


「無駄無駄、なんせもうお前さんと俺とは一心同体ってやつなんだから」


 楽しそうに十円玉がのたまう。これはもしかして、とんでもないことになったかもしれない。遥は焦ったが、自分ではどうすることもできなかった。


 うるさい十円玉の声に耳をふさぎながら、家へ帰る。誰かに相談しないと、明日からもこの声につきまとわれるのだ。


「おや、お帰りなさい。そんなに血相変えてどうされたんですか」


 玄関先で散らばった落ち葉を掃いていた、一丞いちじょう二丞にじょうが遥に気づいた。


「……今、僕の肩の上に何かついてる?」


 遥が聞くと、二人は同じ動きでのぞきこんできた。そしてすぐに答える。


「いえ、なんにも?」

「綺麗なもんですよ」


 相変わらず、遥の耳には十円玉の話す声が聞こえてきている。もう一度肩をみると、やっぱり同じ所にいた。しかし、一丞二丞には全くそれが見えも聞こえもしないようだ。


 その後もたくさんの使用人や家族に会ったが、誰一人奇妙な十円玉に気づくものはいなかった。結局そのせいで誰にも言い出せず、遥は悶々と夜を過ごす羽目になる。


 明らかな変化は、翌日になってやってきた。


 その日は朝から十円玉の声が聞こえなかったので、遥の気分も少し落ち着いていた。学校帰りに本を買いに行ってみると、店員からくじを引くようにすすめられる。


 自慢にもならないが、遥はこういうくじの類いには一切当たった事が無い。しかし、目の前に抽選箱を差し出されたので、一応ひいてみた。くじを差し出すと、目の前の店員が明るい声をあげる。


「あ、おめでとうございます! 一等の図書券一万円分、ご当選です~」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。戸惑う遥に向かって、店員がリボンのかかった封筒を差し出してくる。背後からやってくる羨望の視線を感じながら、遥は封筒を鞄にしまった。


(びっくりした。でも、たまにはこんなこともあるよね)


 せっかく一万円が手に入ったので、前から欲しかった類語辞典を買うことにした。遥は違う書店を見つけ、そこに入る。


 するとそこでも、くじをやっていた。また同じような紙箱が出され、遥は手をつっこむ。つまみ出した三角の紙を開くと、その中は金色に塗られていた。


「おめでとうございます! 一等の温泉ペアチケット、ご当選!」


 にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべる店員とは対照的に、遥の顔は完全にひきつっていた。


 おかしい。何かがおかしい。絶対に、あの奇妙な十円玉のせいだ。


 しかし、誰に異変を訴えることもできない。せめてあの妙な十円玉がみんなに見えていればいいのだが、あいつは遥にしか姿を見せないようだ。


 それ以上買い物をする気にもなれず、おぼつかない足取りで家に帰る。今日はトヨが出迎えてくれた。


「あら遥坊ちゃま、お帰りなさいまし。今日はお腹は大丈夫でした?」

「うん、大丈夫。このチケット、あげるよ。くじで当たったんだけど、僕は学校があるから」

「あら、よろしいんですか? それではありがたくちょうだいします」


 トヨは遥が差し出したチケットを丁寧に懐にしまう。それから、「あ、そうそう」と言いながら手を打った。


「遥坊ちゃまにお客様がいらっしゃってましたよ」


 それを聞いた遥は首をかしげた。


「客? 誰とも約束した覚えはないけど」

「なんでも、編集者だとか……」


 まさか、という思いが遥の心の中をかけ巡る。新人賞は箸にも棒にもかからなかったのに、一体なんの用だろう。


 はやる気持ちをおさえ、遥は客人がいる部屋のドアをノックした。部屋に入ると、ソファに座っていた男が立ち上がる。


「初めまして」

「は、はい……」


 戸惑う遥をよそに、人の良さそうな丸顔の男が口を開いた。


「こんにちは。いきなり押しかけてしまってすみませんでした」

「い、いえ。それは構いませんが。一体どうして?」

「実は、うちはインターネットのサイトも巡回しているんです。君のサイトがすごい勢いで閲覧が伸びているのを見ました。よければ、こちらで出版する方向で契約をしたいと思いまして」


 今度こそ本当に、遥はめまいを起こして倒れ込んだ。



☆☆☆



 次に遥が気がついた時には、自分の部屋のベッドに寝かされていた。目を大きく開けると、遥の横にいたメイドがあたふたと部屋を出て行く。おおかた医者でも呼びに行ったのだろう。


 遥は床の中で息をついた。自分がいきなり倒れたのを見て、一体あの客はどうしたのだろう。


「あのオッサンなら帰ったぜ」


 また肩のあたりで、嫌らしい声がした。十円玉が遥の上で、のんきにあぐらをかいている。


「心配しなくたってまた来るさ」

「なんでそんなことが君にわかるの」


 腹が立ったので、遥はつっけんどんに言い返した。しかし十円玉の方もひるまない。


「わかるさ。あのオッサンは俺が呼んでやったんだからな」

「嘘。今日だって、誰も君のことなんか見えてなかったじゃない。なのになんで人が呼べるのさ」

「そりゃ俺がそういう存在だから、としか言いようがねえ」

「は?」


 十円玉は遥の問いに答える気はないらしく、「それはそうと」と急に話を変えた。


「なんだよ、ちったあ嬉しそうにしろよ。くじだって俺が当ててやったのに」

「何だって?」


 十円玉に言われたことが信じられなくて、遥は聞き返す。



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