表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
呪いと祝福の霊都
339/675

末っ子三人、作法を学ぶ

「ほう」


 時刻はすでに、夜の十一時を回っていた。鷹司たかつかさの家で、あおいはようやくあがってきた戦況報告を呼んでいる。読み終わったところで、軽くうなった。


「にいに、うれしいのか、かなしいのかどっちじゃ」


 双子はもう眠っている。しかし、起きてしまったみやこが、しきりに服のすそを引っ張ってくる。

 葵は表情も動かないし、声にも出さないから苛々したのだろう。六歳児でも、味方が勝ったか負けたかは気になるらしい。


「……嬉しくも悲しくもないな」


 葵はぼきぼきと指の関節を鳴らしながら答えた。手元をうろうろしていた神虫しんちゅうが、ぱっと飛び立つ。室内で無駄話をしていたいわおたけるの声が、ぴたっと止んだ。


「では、どうしたというのじゃ」


 肝の太い六歳児だけが、山盛りの八つ橋をつまみながら聞いてきた。


「自分でも近年にないほど、怒っている」


 報告書を机に規則正しく叩きつけながら、葵は唇をかんだ。


一丞いちじょう二丞にじょう九丞くじょうに連絡を頼む。それと本部を動かす。さかき事務次官に連絡を。奴らが泣いて後悔するほど、徹底的にしめ上げてやる」

「は、はい」

「かしこまりました」


 一丞・二丞が走り去った。猛とはるかは顔を見合わせ、巌と都は「怒っとるのう」「のう」と会話を交わし合う。

 その横で、じっと葵は腕を組む。自分ではかなり厳しくしたと思っている。しかし、後にもっと激烈な処理をすることになるとは、この時の葵には予測できなかった。



 ☆☆☆



 葵たちが京都に行くと決まったのは、数日前の昼下がりのことだった。そのための準備が、急いで進められる。末っ子たちは浮き立ち、自分たちなりに何かしようとしていた。


「では、たのしいきょうとりょこうについてせつめいをはじめる」

「質問、おやつはいくらまでですか!」

「ううむ、むずかしい」

「……もっとまじめにやったほうがいいと思うけど」

「りょうにいに、これはこのうえなくかんじんなところじゃ」


 十人も兄弟がいると、上と下ではだいぶ年齢差がある。葵は十六になったが、下の三人はまだ十一と六歳だ。なにやら集まってわちゃわちゃ話しているだけで、微笑ましい。

 葵が熱中している子供たちの背中をしばらく見ていると、末っ子が唐突に立ち上がった。丸まっちい背中を伸ばし。とことこと葵に歩み寄ってくる。


「にいに、これでよろしゅうたのむ」


 末っ子の都の手には、A4サイズの学習帳が握られていた。差し出されたそれを葵がめくってみると、ひらがなでびっしり菓子の名前が書き連ねてある。大福とチョコレートはよっぽど大事なのか、二回重複していた。丁寧にそれを読んでから、葵は口を開く。


「……用意はしてもらえると思うが、遊びに行くんじゃないぞ。京都支部からの応援要請だぞ。わかってるな」

「うむ」


 末っ子の返事はとてもいい。が、そのすぐ後に「うめこんぶをわすれた」と言って葵の手からノートを奪っていったところを見ると、いまいち理解が浅いようだ。両親が年をとってからできた三人は、甘やかされて育ったせいでどうにものほほんとしている。


「あのな」

「準備はできたかの」


 葵がたしなめようと口を開いたとき、洋室の扉が開いた。そこから亀のように、のろのろと巨大な老人の首が出てくる。


「じいじ」


 めざとく老人を見つけた都が、巨体めがけて走り寄った。


「おやつがきまった」

「そうかそうか」


 相好を崩す老人――祖父の巌――に向かって、葵は殺気を放った。お前はなんのために来た、と無言の圧力をかけてやる。巌は都に見えないように、ぺろっと舌を出した。


「あ、ごりらのまーちをわすれておった」

「都、それはじいじが書いとくから、明日のお作法をもっぺん見せとくれ」

「もうなんどもやったではないか」

「じいじ見たいー」

「しかたないのう」


 なんとか、巌は末っ子が納得するところまでうまいこと持って行った。

 今回招いてくれた鷹司の大ばばさまは、礼儀にうるさいと聞いた。子供といえども、最低限の所作ができないと、かみつかれる恐れがある。一つ安堵のため息をついてから、葵は双子の方に目をやる。


「で、そっちはどうだ」

「できてるよ」

「僕もできた」

「なんなら試してもいいよ」


 りゅうりょう、双子たちはそろって胸を張る。葵は、ならやってみろと声をかけた。二人はきれいなお辞儀に始まり、入室の所作、部屋に入ってからの座布団への座り方など、一通りそつなくこなした。葵はかなり点を厳しめに見ていたが、それでも合格といってよかった。


「よし、できてる」


 葵は双子の頭をなでてやる。二人ともおとなしくなでられていたが、葵が手を離すときにはそろって口を尖らせていた。


「どうした」

「……同じなでられるなら、きれいなお姉さんの方が嬉しいなって思った」

「右に同じ」

「ませやがって」


 葵が言い返しても、双子は悪びれない。


「男はみんなそうだもん。な、涼」

「うん。お姉さんたちは優しい」


 よくしゃべる方、兄の龍が主張すると、弟の涼もうなずいた。この兄弟、女好きなのはもちろんだが、普段から女性たちによくモテている。子供だからかわいがられているという類いの話ではなく、魔性的に異性を引きつけるのだ。受けた告白の数は、二人合わせると軽く百回を越える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ