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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
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闇を呼ぶ亀裂

「若、ちょうど真上にきています!」


 周りの天狗たちが疾風はやてに声をかける。確かに、目標地点真上だ。頭に血が上っているようだったが、ちゃんと計算はしたということか。かなめは感心しながら、あおいに連絡をとった。


「葵、落ちるぞ」

「了解。各員待避!!」


 葵が指示をだしたところで、疾風が魃を串刺しにしたまま、地上に向かって落下していく。目指すは一点。


 砂漠の真ん中に、急拵ごしらえの貯水池ができていた。一気に疾風とばつが、その中に飛び込む。水しぶきが高くあがり、要からもよく見えた。


「地上、設営プールへ目標落下!!」


 要は疾風の後を追った。天狗たちも後からついてくる。プールの中では、魃を押さえ込んだまま、疾風が頭まで水につかっていた。ぶくぶくと息をはく疾風の表情は、要からみてもだいぶ苦しそうだった。


 しかし、健闘のかいあって魃の動きがだんだん鈍くなる。疾風が最後に大きく息を吐ききったところで、ようやく魃が動かなくなった。


「げほ、ごほ、だああっ!!」


 もう呼吸が限界だったのだろう、疾風が魃を放り投げて水面から顔を出す。ぜえぜえと肩で息をしながら、ようやくプールを抜け出した。


「よう濡れ鼠」

「うるせえ……」


 そこでまた疾風がせき込んだ。小さい妖怪たちが駆け寄って一斉に背中をさするのがかわいらしい。要もようやく地上へ降り立った。


「用が済んだらさっさと帰れよ」


 葵がすたすた歩いてきて、仏頂面のまま言い放つ。


「けっ、言われなくても」


 翼の水滴を払いながら、疾風が立ち上がった。その背中に向かって、葵がまた声をかける。


「今回のこと、バカ正直に周りの妖怪に漏らすなよ」

「何のことだ」


 いまいちよくわかっていない様子で、疾風が振り返る。葵がため息をついた。


「別におまえ等のことを聖人よろしく語るつもりはねえぞ」

「美化も卑下もいらん。幸い、魃は死んだ。見張り役についていた妖怪も追い払ってある。俺たちと共闘したことはいっさいしゃべるな。そこの子供たちにも徹底させろ」

「……どういうことだ」

天逆毎あまのざこに、今回のことは知られない方がいい。あいつの目指しているものと、おまえらが目指しているものはきっと違う」

「それはとんだ総大将だな。俺たちはとんだバカってことになるが」


 疾風の嫌みを受け流し、葵は乱れた髪を整えながら淡々と言う。


「あくまで天逆毎を盲信するなら、望むような結果にはならんかもしれんぞ」

「……やはりおまえ等は、よくわからん」


 疾風はそれ以上、葵の話を聞く気はないようだった。刀についた脂をぬぐうと、一斉に大きな翼をはためかせて空の向こうへ消えていく。せっかく忠告してやったのになあ、と言いながら葵は首をかしげた。


「素直に聞くような連中じゃねーぞ」


 要がからから笑いながら言っても、心底納得できていないようだ。葵にとっては、現時点での自分と周りの人間の利益が何より大事で、妖怪たちのように過去のしがらみを気にしたりはしない。


 葵がもし疾風の立場なら、真っ先に裏でゴソゴソやり始めるだろう。だから、基本的に義理を優先する疾風の気持ちは分からない。自分が合理性の固まりなのも大変だな、と要は肩をすくめながら葵の愚痴をやりすごした。


 魃が死んだ今、事態はすでに後始末の段階へうつっていた。兵士たちは各休養をとったり、上官の指示をあおいでいる。放っておかれた葵の部下たちが、後ろでぽつねんとしているのが見えた。


 要は軽く葵の肩を叩く。


「行ってやれば?」

「……ああ」


 そこまでしても、てきぱきした弟には珍しくぼんやりした様子で考え込んでいる。


「一体どうした?」

「いや、天逆毎の動きが気になってな……今頃じっとしているとも思えない。奴の子飼いの胡蝶とやらも、結局姿を見せなかったしな」

「ああ、そう言えばやけにあっさり逃げてったな……」

「ほかに用事があったのかもしれん。俺たちの相手より大事な何かがな」

「案外アメリカあたりにいたりして」


 要が水を口にしながらふざけて言うと、びりっと葵の雰囲気が堅くなった。


「冗談だよ」

「冗談に聞こえん。それに、奴ならそれくらいはやりかねんしな」

「いくら大妖怪とはいえ、コネも何もないアメリカでなにしようってんだよ」

「みやげさえあれば、話自体はいくらでもできる。結局人間は自分たちがよければいいと目先の餌に飛びつきやすいもんだ」


 そう言いながら、葵はきびすを返す。少し休めと止めたが、歩きとは思えないほどの速さで葵は要の視界から消えていった。取り残された要はぼんやりと空をみながら、遠く離れた第二の祖国のことを思った。


 あの大国がそこまで愚かだとは思いたくないが、現実は甘くないこともよく知っていた。できることなら、自分の力が事態解決に役立つようにと、要は珍しく祈った。



☆☆☆



 一国の大統領ともなれば、スケジュールは冗談抜きで分刻みで埋まっている。一日の勤務を終え、大統領ヘンリー・コルゲートがようやく床についたときにはすでに午前一時をまわっていた。


 今日も隙なく公務をこなし、体も頭もすでに限界まで使っていた。いつも通り完璧にベッドメイクされた寝床の中に入ると、ヘンリーはすぐに眠くなってきた。


 眠気に任せて目を閉じると、ぼんやりホワイトハウスの廊下が浮かび上がった。ああ、これは夢だとヘンリーは自覚する。夢の中でも仕事か、と軽く愚痴を言いながらも、彼の意識はいったんとぎれていく。


 ヘンリーが次に気がついたときには、きちんとスーツを着て廊下を歩いていた。夢だと分かっていても、ちゃんと護衛や閣僚までいるのがおもしろい。適当にしていればいずれ目が覚めるだろう。ヘンリーがずんずん早歩きをしていると、その靴先がぽんと何か小さなものを蹴り飛ばした。


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