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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
305/675

おいでませ海兵隊(マリーン)

「間に合って良かった。君がカナメかね?」

「ああ」


 大柄な男たちがずらりとかなめの前に並ぶ。一体ここはどうなってしまったのかとざわつく市民をよそに、男達は話し始めた。


「帰ってしまう前で本当に良かった」

「これから大事な話がある」

 

 ここで軍人たちに向かって、すばるが口を開いた。


「陸軍の方ですか? すみませんが、今回のお話はなかったことに。あまりよいお出迎えではなかったので」


 昴の口調はいつもより厳しい。ああ、あの禿げの仲間かよ、と要も顔をしかめた。しかし、男たちはそろって首を横に振る。


「いや、陸軍所属ではない。さっきのことは誠に申し訳なかった。我等は海兵隊から来た。貴君の力、我々に貸していただくわけにはいかないだろうか」

「海兵隊?海軍とどう違うんだ」


 要が聞くと、待ってましたと言わんばかりに男達が身を乗り出してきた。


「よくぞ聞いてくれた。海兵隊とはもっぱら切込を得意とし、国外での任務を主に受け持つ遠征上陸部隊だ。規模は小さいが、戦車・水陸両用車・航空機を自前で持ち、隊員たちは精鋭中の精鋭。歴代大統領の信頼も厚いぞ」


 別に大統領なんぞに要は興味がなかったが、精鋭部隊という一言には心が動いた。要の表情の変化を読み取ったように、ごつい男達が身を乗り出してくる。


「国外での重要任務も多数こなす。君の将来には大きく役立つことだろう」

「しかし、契約したのは陸軍とですからねえ。部署の垣根を踏み荒らすのは、そちらでもよろしくないのでは?」


 話を横で聞いていた昴が顔をしかめた。


「大丈夫。いつもやりとりはあるから」

「いや結構露骨にもめたことありますよね」

「何のことかね。それに、この男は海兵隊の中尉だよ。彼を見てもらえば、どういう気風の組織かは一目瞭然だと思うがね」


 軍人たちが、急に大男をさした。要はじろじろと男のいかつい体をにらみつける。いきなり話に巻き込まれた彼はぴくりと眉を動かしたが、それ以上の動揺は表にださなかった。


「ふーん」


 要は数秒考えた。そして、こくんと首を縦に振る。


「じゃあよろしく」

「では手続きにうつりましょう。こちらへ」

「ああ、また日本に帰ったらややこしい……」


 昴ががっくりと肩を落としたが、要が言い出したら聞かないのもよく分かっている。結局昴は、長いため息を一つついてとぼとぼと歩きだした。


「ヴァンダービルト中尉、詳細は後ほど伝える。今は息子を連れて帰ってやりたまえ」


 軍人たちは大男に向かって一言だけ告げた。何やら言いかけていた男は、ぐっと出かけた言葉を飲み込む。長い付き合いになりそうな男を横目で見ながら、要は昴の後を追った。



☆☆☆



 昴が苦労してくれたおかげか、手続きは着々と進み、要は海兵隊寮の一室をあてがわれた。がらんとだだっ広い部屋の中に、三千院さんぜんいんの部下達がせっせと筋トレ用具を運び込んでいる。新兵で個室というのは異例の待遇らしく、先輩隊員たちが顔をしかめて作業を見守っていた。


 部屋にいても仕事がないので、要はぶらぶらと廊下をそぞろ歩いた。数メートル歩く度に、隊員たちがしきりに受付に誘導しようとする。誰かの子供が迷い込んだと思われているのだろう。


 そろそろ断り疲れたな、と要が首を回していると、廊下の向こうから話し声が聞こえてきた。ドアがわずかに開いていて、そこから声が漏れている。


 好奇心を刺激された要は、足音を殺して扉に近づく。部屋の中では、この前会ったばかりのあの大きな男が、ひどく脳天気そうな同僚と会話していた。


「で、その女の子が今日こっちに着くのか」

「ああ。もう荷物が運び込まれている」

「しかし最初からあんな広い個室とはなあ。どこぞのお偉いさんの子供か?」

「俺も全部は知らん。が、日本の有力者の娘だそうだ。アメリカ国籍はないので正式入隊扱いにはならんが、かなりの厚待遇なのは間違いない」

「金の力かねえ」


 軽薄そうな男が鼻を鳴らしたが、大男が首を横に振った。

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