おいでませ海兵隊(マリーン)
「間に合って良かった。君がカナメかね?」
「ああ」
大柄な男たちがずらりと要の前に並ぶ。一体ここはどうなってしまったのかとざわつく市民をよそに、男達は話し始めた。
「帰ってしまう前で本当に良かった」
「これから大事な話がある」
ここで軍人たちに向かって、昴が口を開いた。
「陸軍の方ですか? すみませんが、今回のお話はなかったことに。あまりよいお出迎えではなかったので」
昴の口調はいつもより厳しい。ああ、あの禿げの仲間かよ、と要も顔をしかめた。しかし、男たちはそろって首を横に振る。
「いや、陸軍所属ではない。さっきのことは誠に申し訳なかった。我等は海兵隊から来た。貴君の力、我々に貸していただくわけにはいかないだろうか」
「海兵隊?海軍とどう違うんだ」
要が聞くと、待ってましたと言わんばかりに男達が身を乗り出してきた。
「よくぞ聞いてくれた。海兵隊とはもっぱら切込を得意とし、国外での任務を主に受け持つ遠征上陸部隊だ。規模は小さいが、戦車・水陸両用車・航空機を自前で持ち、隊員たちは精鋭中の精鋭。歴代大統領の信頼も厚いぞ」
別に大統領なんぞに要は興味がなかったが、精鋭部隊という一言には心が動いた。要の表情の変化を読み取ったように、ごつい男達が身を乗り出してくる。
「国外での重要任務も多数こなす。君の将来には大きく役立つことだろう」
「しかし、契約したのは陸軍とですからねえ。部署の垣根を踏み荒らすのは、そちらでもよろしくないのでは?」
話を横で聞いていた昴が顔をしかめた。
「大丈夫。いつもやりとりはあるから」
「いや結構露骨にもめたことありますよね」
「何のことかね。それに、この男は海兵隊の中尉だよ。彼を見てもらえば、どういう気風の組織かは一目瞭然だと思うがね」
軍人たちが、急に大男をさした。要はじろじろと男のいかつい体をにらみつける。いきなり話に巻き込まれた彼はぴくりと眉を動かしたが、それ以上の動揺は表にださなかった。
「ふーん」
要は数秒考えた。そして、こくんと首を縦に振る。
「じゃあよろしく」
「では手続きにうつりましょう。こちらへ」
「ああ、また日本に帰ったらややこしい……」
昴ががっくりと肩を落としたが、要が言い出したら聞かないのもよく分かっている。結局昴は、長いため息を一つついてとぼとぼと歩きだした。
「ヴァンダービルト中尉、詳細は後ほど伝える。今は息子を連れて帰ってやりたまえ」
軍人たちは大男に向かって一言だけ告げた。何やら言いかけていた男は、ぐっと出かけた言葉を飲み込む。長い付き合いになりそうな男を横目で見ながら、要は昴の後を追った。
☆☆☆
昴が苦労してくれたおかげか、手続きは着々と進み、要は海兵隊寮の一室をあてがわれた。がらんとだだっ広い部屋の中に、三千院の部下達がせっせと筋トレ用具を運び込んでいる。新兵で個室というのは異例の待遇らしく、先輩隊員たちが顔をしかめて作業を見守っていた。
部屋にいても仕事がないので、要はぶらぶらと廊下をそぞろ歩いた。数メートル歩く度に、隊員たちがしきりに受付に誘導しようとする。誰かの子供が迷い込んだと思われているのだろう。
そろそろ断り疲れたな、と要が首を回していると、廊下の向こうから話し声が聞こえてきた。ドアがわずかに開いていて、そこから声が漏れている。
好奇心を刺激された要は、足音を殺して扉に近づく。部屋の中では、この前会ったばかりのあの大きな男が、ひどく脳天気そうな同僚と会話していた。
「で、その女の子が今日こっちに着くのか」
「ああ。もう荷物が運び込まれている」
「しかし最初からあんな広い個室とはなあ。どこぞのお偉いさんの子供か?」
「俺も全部は知らん。が、日本の有力者の娘だそうだ。アメリカ国籍はないので正式入隊扱いにはならんが、かなりの厚待遇なのは間違いない」
「金の力かねえ」
軽薄そうな男が鼻を鳴らしたが、大男が首を横に振った。




