淘汰の先に
葵はひとつ息を吸い、さらに続けた。
「敵の体や式紙に触れたものは己も紙に変えられるため、遠距離からの攻撃に専念しろ。格闘タイプのデバイス使いは最後方まで待避。班を適宜作り直せ」
各組、一斉にざわざわと話し出した。攻撃方法について確認しあい、直接攻撃が得意なものは後方支援にまわるということでだいたいどの組も話がまとまった。
「おい、アメリカ側にも敵の情報やった方がいいんじゃねーの。あたしもフグルマヨウヒとか知らねえし」
要とリアムペアから通信が入る。葵はそうだったな、と言いながらアメリカの司令官である大佐を呼びだした。二回話すのも面倒くさいので、要たちにも通信を聞いておくように言いおいてから話し出す。
「では、敵の説明を始める。まるっきりおとぎ話にしか思えないことを話すが、『そんなことあるわけがない』は禁句で頼む」
「ああ」
「もう何でもありなのはよくわかっている。続きを」
アメリカ側からもよい返事があった。葵は安心して口を開く。
「手紙は、誰かが読んでくれることを前提にして書かれるものだ。読まれなかった手紙は、受取人にとってはなかったことと同じ。が、差出人はやきもきし、ついには受取人を憎む。その恨みの念が手紙にたまると、手紙が化けて妖怪になる。これが文庫妖妃だ。ここまではいいな?」
「ああ」
「うん」
大佐と要、双方が子供のように素直に葵の話を聞いている。
「元々は、凶暴だが撃退は難しくなかった。なにせ相手は紙使い、火器がよく効いたからな。近寄るまでもなく火力で圧倒できたわけだ。しかしそれが、近年通用しなくなった。紙のくせに、火を無効化する進化型がでてきたからだ」
「一体どうして、と聞いてみても、わかんねーよな」
「残念ながらそういうことだ。ただ、抗生剤にさらされ続けた細菌が耐性を持つように、生き残るために体の構造を変える個体がでてもおかしくはない」
葵はそこで言葉を切って、水を一口飲んだ。
「なお、進化型は弱点の火を無効にしてきただけでなく、いろいろな能力を身につけている。まず一つ。自分の出した紙に直接触れたものを、同じ紙にしてしまう」
「……武器だけでなく、何でもか」
大佐がぼそっとつぶやいた。葵がうなずく。
「お察しの通り、人間も不用意にさわればあっという間に紙になってしまいます。それに相手は手駒として紙人形を操ることもでき、これに触っても紙にされる可能性がある。対処法が見つかるまではひたすら遠距離攻撃に徹するしかなさそうですね」
頭が痛いなとつぶやきながら、大佐が部下に情報を拡散していく。しかし要は、わくわくした様子で話の続きを求めてきた。
「その紙人形の強さはどうだ」
「そこそこ、といったところだな。Bクラスならともかく、Aなら確実に勝てる。ただ、この人形は何度倒しても本体がいる限りよみがえってくる可能性が高いので下手に囲まれないよう注意しろ」
「あーそっち。こっちゃ無限にわいてきてもかまわねえがな」
「ゾンビみたいだね!」
要はともかく、横のリアムまでうきうきとした声で叫ぶ。何故そこで嬉しそうにする、と聞きかけたところで葵ははたと思いあたった。アメリカ人、ゾンビ好きなんだよな。あと銀色の宇宙人。
「待てよ。さっき直接触ったものを紙にするって言ったよな? 武器だけ当たった場合は?」
要がめざとくつっこんきた。葵は頭の中から銀色の宇宙人を追い出してから答える。
「持ってる武器だけに触った場合は、紙になるのは武器だけだ。あくまで『彼女、または彼女が作った紙に直接触った』という部分が重要」
「じゃあなんで遠距離攻撃に徹せとかいうわけ」
「デバイスをかたっぱしから紙キレにされたら困る。あれ一個いくらすると思ってる」
「なるほどね。じゃあ、素手の格闘しかできないやつは」
「確実に後方待機。今回はいるだけ邪魔」
葵がきっぱりと言う。
「……だってよ。じゃあ、おまえ最後方な」
それを聞いた要がリアムにペア解消をつきつけた。




