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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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追いかけてくる過去

「はーい、サクサク歩けよ」


 あおいの指示を聞いた、とらえられた兵士たちはしょぼしょぼと肩を落としながら歩く。葵は捕縛した加藤かとうたちを引き連れて、ヘリが待機している広場まで戻ってきた。


 ほとんどのものは武装を取り上げられた後、手錠だけで普通に歩いているが、加藤だけは装備をはいだだけでは済まず、脇を屈強な隊員たちががっちり固めている。


「無事のご帰還、おめでとうございます」


 待ちかまえていた隊員たちが葵に向かって一斉に敬礼する。葵も敬礼を返し、挨拶に代えた。


「脱走犯はこれで全部だ。軍事裁判まで留置する。逃がすなよ」

「了解いたしました」

「そちらは変わりないか」

「周囲の警戒、ぬかりなく。狸が大量につかまりましたわ。変な物を持っていたので、取り上げておきました」

「そうか。休んでいたデバイス使いはどうなった」

「こちらも大事ありません。久世三尉の意識もだいぶはっきりされました」

「それは良かった」

「通信がいくつか入っておりますが、内容を確認されますか?」


 葵は不在中に入っていた全ての通信を確認すると言った。音声データを次々再生し、その内容に聞き入る。一通り聞いたところで顔を上げた。


「順調だ。あと、見せて欲しい資料がある。さっきの狸たちも見たい」


 資料も狸も直ちに葵の元に届いた。資料は高速でめくって一読し、部下に返す。次は檻に入った狸を見ながら報告を聞く。結果は全て葵が想像している通りの展開になっている。


「これからどうされますか?」

「久世三尉に話がある。それが済んだら基地に戻る」

「お疲れ様です。しかし、妖怪どもも今回は派手にやってくれましたね」

「ああ」

「部隊を入らせて追加調査をしていますが、あまり高位の種族はいませんね」

「ほう、妖怪側の総大将、天逆毎あまのざこはかんでいないと」

「一応、上の方も妖怪側に連絡をとったようですが、あずかり知らぬとの回答でした。住処を求めた一部の者が暴走した結果だ、こちらは関係ないとあっさりしたもので拍子抜けしておるようです」


 それを聞いたふうん、と葵は鼻を鳴らした。


「しかし良かった。向こうが悪いとはいえ、これだけやりあったら全面戦争になるんじゃないかと心配してましたから」


 更に何か言おうとする部下にいとまを告げ、葵は怜香れいかのもとに向かった。



☆☆☆




 怜香はヘリの中にある椅子を丸々使って、横になっていた。が、顔色はだいぶ明るくなっており、葵が入ってくるとにこっと笑って出迎えた。


「出番?」

「いや、ここはもう終わった」

「ふーん」


 怜香は事の顛末てんまつを聞きたがった。一通り話すと長いぞ、と前置きしたが彼女がそれでもいいというので、葵はしばらく口を動かす。


「なにかまた、考えてるの?」


 話が終わると怜香はそう言った。葵は黙ってうなずく。その時、外がにわかに騒がしくなった。首を出して覗いてみると、ちょうど加藤がヘリに向かって連行されていくところだった。本人は未だに納得していないらしく、離せと大声でわめきたてている。付添いの隊員が露骨に迷惑そうな顔をしていた。


 加藤があまりに子供のように騒ぐので、何事かと思ったのだろう、怜香が入口からひょこっと顔を出した。ほんの一瞬だったが、加藤は目ざとくそれを見つけた。


「おおい」


 加藤に声をかけられた怜香が身構える。加藤を見返す目は、すでに氷点下まで冷え切っていた。


「お前、裏切り者の娘だろ。そうだ、あの久世くぜの娘だ」


 加藤の声を聞いた瞬間、怜香の眉間にびし、と派手に縦じわが刻まれる。加藤はそれを面白そうに見ながらさらに言った。


「いい身分だよなあ。部下を丸々見捨てて逃げた将校の娘でも、三千院の坊ちゃんとお知合いってだけで三尉までいけるんだから」


 横についている隊員が叱りつけて歩かせようとするが、加藤は驚異的な粘りを発揮してまだ踏みとどまっている。


「なんだよ。お前だってそう思ってるんだろ? こいつのこと嫌いなんだろ? はっきり言っちまえよ」


 加藤が随行の隊員に向かって笑いだす。応援の隊員が駆けつけてきて、加藤をひきずり始めた。二人がかりで押されてようやく、巨体がずりずりと動き始めた。


「みんな、お前が死ねばいいと思ってるんだぞ。口に出さないだけだからなあ。みーんな、そう思ってるんだぞお」


 ははは、と耳障りな加藤の笑い声がゆっくり遠くなっていく。数分かかってようやく、加藤は葵たちの目の前から姿を消した。


「……ああ、馬鹿みたい」


 声が聞こえなくなってから、怜香はふーっと大きくため息をついた。胸元に手をやりながら首を振る。葵は怜香の頭をかきまわしながら聞いた。


「傷ついたか」

「そう見える?」

「いや。怒ってるようには見えるが」

「当たり」


 怜香はぶん、と拳を振りまわした。葵は静かに避ける。


「正直飽きたわ。こういうこと言う奴って、言うことほとんど同じなんだもん」

「頭が残念だからな」

「小学生の頃とか、まともに傷ついたりしたのよね。馬鹿みたい」

「あの時は、実際嫌がらせもされてただろう。一応周りが腹に収めてる今とは違うぞ」


 怜香の一言につられ、葵は過去の記憶をたどる。


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