話の途中でお邪魔します
「彼女と初めて会った時のことは今もはっきり覚えているよ。息子と一緒に空港に行ったら、なんとテロリストが制圧されたというじゃないか。しかもやったのは軍でも警察でもなく、子供。最初は信じられず、話のついでに見ておくか、と思っただけだったが」
そこで中将はくくくっと笑った。
「いや、これが本当に子供。しかも怖がるどころか、そっくり返って『おっさん、アメリカ軍か?』の一言だ。こちらが肝をつぶしたよ」
「それはそれは……」
隣の陸将が恐縮した。
「しかし彼女は口だけではなかった。あげた成果は素晴らしかったよ。コミックの中でしか見られないと思っていた、戦女神の戦いだ」
「少なくとも、彼女に歩兵では相手にならないでしょうからねえ」
「これは大変なものだ、私は触らずに外野で見ているのがふさわしいと思った。実際その時のサンダーボルトは、私の顔なんか覚えてもいなかっただろう」
「しかし、今はずいぶんと親しいではないですか」
「それはね、そのあと私が上官に呼び出されて……」
中将が質問に答えはじめた。その間にゆっくりと、雲が厚みを増していく。だんだん外が暗くなり、室内に置かれた灯りが存在感を増した。
☆☆☆
「……静かになった。みんな、行くよ」
浩然が声をかけると、兄弟たちが一斉にうなずいた。目がないのに、ぴょこぴょこと器用に浩然の後をついてくる。一番小さな紅花が遅れがちになるので、時々立ち止まりながら一行は建物目指して進んだ。
大きなコンクリートの建物の前には、見張りの兵士が二人立っている。
「あいつを食うの?」
やんちゃな国良が、待ちきれないといった様子で聞いてきた。浩然はじっと兵士たちを見つめ、考える。
人間を食うにあたって、浩然たちは胡蝶からいくつかの注意をうけていた。
『いいかい、あんたたちは基本人間なら誰でも食える。でも、何でもかんでも食ったら腹の具合が悪くなって動けなくなる。浩然が見ればどういう人間かどうかわかるはずだから、みんな指示に従うんだよ』
一つ。善人を食ってはならない。善人を食うと、その清らかな魂によって妖怪の体は壊されてしまう。
二つ。悪人を食ってはならない。今度はあくが強すぎて、これも腹を壊してしまう。
三つ。ならば何を食えばいいか……。
浩然は完全に胡蝶の指示を思い出した。それを頭に入れ、きょろきょろとあたりを見回して獲物を探す。すぐに、条件を満たす兵士を見つけた。
「うん、あいつは食っていい。行こう」
浩然が号令を発する。全員で一塊になって、兵士の近くに移動した。気配に気づいた兵士たちが銃を向けてきたが、そのときには既に浩然たちは相手の懐に入り込んでいた。
「な、なんだこいつらっ」
相手が動揺した。応援を呼ばれる前に、浩然はひくひくと自分の鼻を動かした。そのたびに、えもいわれぬ旨味が口の中に入ってくる。数えるほどしか食べたことのない、肉のたっぷり入ったスープに似た、やみつきになる味だ。
浩然にならって、弟妹たちもくんくんと臭いをかぐ。そのたびに、兵士は痩せ細り、顔色が真っ青になっていく。逆に、浩然たちの腹は丸くふくれていくのだった。
「よし、こんなもんでいいだろう。中に入るぞ」
ある程度食べて、相手が瀕死になったところで浩然は号令をかけた。弟妹たちから一斉に不満の声があがる。
「まだ食べたりないよ」
「こらこら、中にはもっと人間がいるんだぞ。いくらでも食えるさ。さ、国良から中に入れ」
兵士の背後にあった扉をあけ、ぞろぞろと五体は建物の中に足を踏み入れた。がらんとしたなにもない廊下を歩く。数人見張りがいたが、全て食べられる人間だったのでこれもおいしくいただいておいた。




