二枚舌はおなごの嗜み
蜃がやられた、とふらり火が胡蝶のところへ駈け込んできた。ぜいぜいと息を切らすふらり火とは裏腹に、胡蝶は少しだけ首をかしげる。
「へー。人間側の救援が、無事にこちらへ向かっていると」
「思ったより動きが速い」
横で難しい顔をしている魃を見ながら、内心で胡蝶はぺろりと舌を出した。
第一陣の布陣を考えたのは魃だった。彼女の計画が甘いことくらいは、さんざん人間とやりあった胡蝶には一目でわかっていた。が、それについて忠告してやることもなければ、手勢を貸してやるつもりもなかった。
こういう変にプライドの高いタイプは、一度失敗してからでないとヒトの話を聞かない。事前にあれこれ言ってはダメなのだ。派手に失敗したところで、つらかったでしょうおいたわしやと言っておけば万事丸くおさまる。
胡蝶が思った通り、魃はいきなりしおらしくなった。
「……すまぬ。かくなる上は、砂漠内にいる数千人を骸に」
「してもらっちゃ困るんだよ。これ以上醜態をさらしたくなければ、あたしの言うこともお聴きな」
最初に釘を刺しておいたにもかかわらず、もう忘れている。胡蝶は内心でせせら笑った。まったく、こいつは救えないバカだ。
「り、了解した。しかし、それでは私がなにもしていないようで」
「砂漠を作ってくれているだけでも、十分役にたっているさ。心配なようなら、あんたの手柄にすればいいさ」
「しかし、それでは後から揉めるであろう」
魃がいらぬ心配をする。後など貴様にはない、と胡蝶は内心苛立った。しかしそれを悟られぬように、にっこりと笑う。
「かまやしないさ。あたしはあくまで今回は縁の下の力持ちだからね」
「ほう。貴殿、良いおなごだな」
一方は感謝、一方は嘲笑。こめた思いは違えど、二体の妖怪はかわいらしく首をかしげあった。そこへ、呼んでおいた子供たちがばたばたとやってくる。さっき魃が拾ってきた小天狗も一緒だった。わずかな間に子供同士仲良くなったらしく、団子になってきちんと胡蝶の前に座る。
「一目五たち、準備はいいね」
「はい、頑張ってお仕えします」
「あんたたちはよく働いてくれて助かるねえ」
心にもないことを胡蝶は言ったが、長男らしき大きい個体は、きらきらと輝く目をこちらに向けてきた。残りの目のない四体と小天狗も、ぴょこぴょこと嬉しそうに一目の回りを跳ねている。
やっぱりガキの魂が化けたところは扱いやすい。使うだけ使って捨てられるとは露とも知らずに、幸せなこった。胡蝶は内心の嘲りを完璧な笑顔で隠して、一目五の頭を撫でた。それが終わると、小天狗に向き直る。
「あんたは里に戻らなくていいのかい?」
天狗族はそこそこ強いうえに、横の結束が固いことで有名だ。チビとはいえ、捨て駒にしたとあっては後から色々面倒くさいことになる。今のところはさっさと群れに戻してしまうつもりで胡蝶は聞いた。
「…………」
しかし、小天狗はぎゅっと目をつぶって、下を向いている。その肩はがくがくと震えていた。
「帰りたくないのかい? 誰か心配してるだろう」
「いや、です。里には、あたしが、いないほうがいいんです。あたしも、ここで働かせてください」
ようやく小天狗が口を開いた。胡蝶がじっと見おろしても、その眼光の鋭さは揺るがない。事情は知らないが本気なようだ。少し考えた末、しばらく駒として持っておくことに決めた。本当にいらない奴だと裏が取れたら、せいぜいこき使ってやろう。
「……そろそろあんたたちにもひと働きしてもらおうかねえ。魃、少し力を抑えな」
「なんと」
胡蝶がいうと、魃が目を丸くした。




