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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
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化かしの本家

 狐たちが立ち去ったところで、すっかり聞きなれた「へりこぷたー」とやらの音が聞こえてきた。しかし、下の様子が見えないため、何もできないまま胡蝶こちょうの上空をうろうろしている。


「無駄無駄」


 人間たちの無様な様子を見ながら、胡蝶はほくそ笑んだ。狐が丁寧に張った目くらましの封印だ、「へりこぷたー」ごときで破れるものか。


 胡蝶はどっしりと空中に腰を落ち着けた。今回、自分がこなすべき最も重要な任務に赴くまでまだ時間がある。それまではせいぜい、人間たちを引っ掻き回して楽しく過ごすつもりだった。




☆☆☆





「先行したヘリが全機戻ってきた」


 輸送隊のトラックの中の一台が、即席の司令部になっている。そこでたけるから報告を受けたあおいすばるは顔を見合わせた。


「やはり視界は開けず、か。わかってはいたがな」


 葵がむっつりした表情のまま腕組みをした。


「レーダーも働かず、適当に物資を投下するわけにもいかないので帰還させたとのことだ。地上からの輸送作戦が頓挫とんざした場合は、あてずっぽうでもやるしかないだろうがな」


 昴も暗い顔で水を飲む。暗くなった一行に追い打ちをかけるように、また非情な無線が飛び込んできた。


「輸送隊の一部が隊列を離れています。このままでは敵に接近されます」


 葵はモニターを見た。各車両が、緑の点で表示されている。確かに、緑点の一部が目標地点から遥かに離れた海岸線へ一直線に向かっている。普段ならこんなことがあるはずがない。


「直ちに進路を変更するように連絡を取ってくれ」


 葵が言うと、明らかに機嫌を悪くしたひびきが答えてきた。


「……もうやってる」

「今回は俺も響も何度も呼び掛けてる。が、向こうは順調に目標に近づいていると言って譲らないんだ」


 猛に言われて、葵は腕を組んだ。 


「さっそく、部隊の分断を仕掛けてきたか」

「なにをされたと思う」


 昴が聞いた。


「手っ取り早いのは幻覚を見せる方法だな。人を化かすのは、妖怪たちが最も得意としている」


 しばらくすれば運転手たちの幻覚も覚めるだろうが、富士駐屯地に近づけばまた同じ術をかけられるだけだろう。対策を考えなければならない。


「どうする?」

「……幻覚や化かしのレベルであれば」


 昴に聞かれて、葵が答えようとしたその時、響がまたボソッとつぶやいた。


「葵。このトラックも、道をそれ始めた」


それを聞いた葵と昴は眼を見合わせた。司令部は完全にコンテナ状になっていたが、外とはカメラでつながっている。二人とも先を争うようにしてモニターの前に座った。


「本当だ。これはまずいぞ」


 高速道路を順調に走行していたはずのトラック隊が、続々と出口に向かっている。これでは、目標にたどり着くどころではない。


「人を化かす妖怪は数えきれないほどいるが、ここまで離れた地点からこの大所帯を化かすとは大したものだ」


 葵が忌憚きたんない本音を言うと、昴につっこまれた。


「感心してる場合か。今ならまだ国道に乗ってるから高速に戻れる。全車両がどん詰まりに突っ込む前になんとかしないと」

「わかってる。幻覚はあくまで幻覚だ。タネがわかってる手品がつまらないのと同じで、人間がわが『これは騙しだ』と確信していればひっかからない」


 葵は立ち上がって、響に再び通信を入れた。


「姉貴。サーモグラフィのデータを全車両に転送」

「……はいはい」


 気だるそうに響は答えたが、彼女の仕事はいつも迅速だ。葵は間髪入れずに、全車両に向けて呼び掛ける。


「全車両に告ぐ。現在予定のコースから外れている。速やかに進路を変更せよ。繰り返す、速やかに進路を変更せよ」

「お言葉ですがね一尉さん、さっきからずっと高速を走ってますよ」

「一号車、予定のルートを走行中」


 次々と各車両から、同じ返事があった。予想通り、完全に敵の術中にはまっている。葵は肩をすくめた。


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