アベンジャーズ
「やめよう。味方同士でいがみあうのもつまらん話だ」
「あんたの言う通りだ。しかし、天逆毎さまが引き伸ばせというからには、必ず何かの意図がある。そこだけはよしなに頼む」
胡蝶が素直に同意して頭を下げると、魃は目をむいた。まさかプライドの高そうな胡蝶が、自分から折れるとは思っていなかったのだろう。
「……ふん。よかろう」
魃はひとかたまりになって遊んでいた子供たちを呼び寄せると、砂漠の真ん中へ戻っていった。彼女たちの後ろ姿に向かって胡蝶は赤い舌をぺろりと出す。
「せいぜい今だけ頑張りな、魃。どうせ最後にゃあんたも捨てられる」
そうぶっきらぼうにつぶやいて、胡蝶は金色の髪をかきあげる。ますます強くなる日差しを受けて、黄金の鎖のように胡蝶の髪がはためいた。
☆☆☆
一通りの質問に答え終わった昴が、そろそろ移動しようかと一同に声をかける。その時、切羽つまった顔をした男が駆け込んできた。
「どうした」
「三佐、緊急の無線が入りました。兵站部門の一斉集合の命がくだりました」
「誰の召集だ」
「日立陸将です」
男は張りつめた顔をして、どんな用件で会議をするのかは一切口にしない。葵にはそれがかえって、事態の深刻さを示しているように思えた。昴も同じ事を思ったのだろう、葵たちへの挨拶もそこそこに部屋を飛び出していった。
「一尉たちも、緊急召集です。ほかの皆さんも対策本部へ移動してください」
「穏やかじゃないな」
もう一人、陸曹が葵たちを呼びに来た。部下の並々ならぬ雰囲気を感じ取った葵は、黙ってうなずく。勝手知ったる怜香たちも、葵の後をついてくる。
「何があった」
歩いている時間も、無駄にするのはもったいない。葵は歩きながら、陸曹に聞いた。
「富士駐屯地が、急速に砂漠化しています」
「またどこぞの妖怪か」
「その可能性が高いです」
砂漠化だけなら、葵は今更何も感じない。相変わらずあいつら何でもありだな、と思うくらいだ。しかし、今の富士駐屯地であるなら大問題だ。
「おい、あそこは今」
「はい、自衛隊とアメリカ軍の共同演習中です。民間人ではないとはいえ、犠牲者が出ればアメリカの対日感情は確実に悪化します」
陸曹は顔を曇らせた。葵は妖怪たちの狙いがわからず、首をひねる。
「妙だな」
「はい、何故あのような急速な砂漠化が可能なのでしょうね。妖怪たちはつくづく変な生き物ですよ」
「そこは考えても仕方ない。相手はそういう生き物だ、後で原因とみられる種族をピックアップして対処するだけだ。それよりも」
葵はそこまで言って、拳を握った。
「何故米軍がからんでいる時に行動を起こした? 今まで、天逆毎は注意深く対立を避けてきた相手だぞ。戦争時に、多国を一気に敵に回すのが禁物なことくらい、あのタヌキがわかっていないはずがない」
「まさか、天逆毎がいないのでは」
真剣な顔をして寄ってきた陸曹を、葵は軽くいなした。
「あれがそんなタマか。いなくなっても部下の手綱が緩むほど弱い妖怪でもあるまい。何かあって考えを変えたか、もしくは」
葵は言葉を切る。隣で陸曹がごくりと唾をのむ音がした。
「最初からそうするつもりだったが、時期を待っていたか」
「世界相手に喧嘩を売るつもりだったと?」
「ありうる。今になってやたら大型の海外妖怪が、日本に上陸してきている。世界的に妖怪たちが結束し、人間に痛い目をみせようとしているのかもな」
葵がため息をついたところで、一同はさっきいた司令部の前まで戻ってきた。先行していた昴たちはデスクにつき、せわしなく電話をかけている。
先程までいなかったアメリカ軍の上層部とみられる軍人たちが、部屋の角に陣取っていた。葵は彼らに近づいて右手を差し出した。




