たのしい司令部見学
「ここにいる人員だけでもすごいことになってる」
行きかうトラックを見た葵がつぶやく。若菜が嬉しそうに胸を張った。
「そうよ。前線にでてる人数より遥かに多いんだから」
「毎年新兵に片っ端から声をかけて連れてくるからな。他の部署から『略奪犯』とまで呼ばれてるだろ」
「失礼な言い方よね。ちゃんと時間がたてば元の部隊に戻してるのに」
葵が皮肉を言うと、若菜が頬をふくらませた。優秀な人材はどこでも奪い合いだが、交渉と護衛のプロはその中でもなかなかたくましく働いている。
そんな話をしているうちに、車はなめらかに駐車場に滑り込んだ。一行はぞろぞろと車から降り、広大な土地を見回す。まず目に入ったのは、さっき車からも見えていた大きなトラックだった。
車体自体は軍標準装備の三トン半トラックだが、幌には三千院の家紋が入っている。ざっと見ただけでも数十台はあるだろう。荷台の高いトラックが行きかうと、見下ろされているような威圧感があった。
「わー、ようけあるなあ」
みかげと大和が無邪気に声をあげて、運転手に向かって手を振る。後からやって来た夕子と琴が、のんびりと車を見上げた。
「……お車があるのはここだけですか? 三千院の基地にしてはえろうゆったりしていますね」
「分けて置いてありますが、出払っている車もいます。正直もう少し台数がほしいのですが、維持費もかかりますので」
確かに本格的に戦闘が始まれば、ここにある台数では全く足りない。トラックだけでも軽く数千台は必要だ。葵たちは経験でそれを知っているが、いかにもおっとりした夕子が現実的な目を持っていたことは驚きだ。ただの深層の令嬢でも無さそうだ、と葵は夕子を見直した。
その時、遅れて走っていたアメリカ軍のデバイス使いたちが合流してきた。一気に人数が倍近くに増えてにぎやかになる。
「散らかっていますけど、事務所でお話ししましょうか。こちらです」
一行は昴に言われるがままに、四角い段ボールのような備蓄センターに足を踏み入れる。荷物や書類をカートで運ぶ兵士たちを横目で見ながらしばらく歩いた。
「さ、ここだよ」
昴が足を止める。葵たちは「司令部」とプレートが下がっている部屋に案内された。
司令部といっても、中は殺風景なものだ。壁にびっしり部隊の進行ルートが書き込まれた地図が貼り付けられ、昴のきちんと整った字の書き込みが目立つ。オフィスでよくある灰色のデスクが適当に並んでいた。全部つなげてあるわけではなく、ぽつぽつと島のように何個か固まって、間が開いていた。数人のグループがいくつもあり、ときどき顔をつきあわせて話をしている。
ここでも大和とみかげが探検に走っていった。無論、あっという間に和泉と佑馬が連れ戻す。ようやく全員揃ったところで昴が口を開いた。
「ここで、すべての基本となる輸送計画を作成しています。勤務は二十四時間制。輸送・燃料・食糧・空港や港の管理など、専門ごとに別れて仕事をしている。もちろん、部門を超えた協力が必要な場合は話し合います」
昴が指差した先を見ると、ちょうど一つの島から難しい顔をした士官が立ち上がって他の島へ移動する所だった。アメリカ軍にも同じ内容が、通訳によって伝えられる。
「同じ部屋だと気軽に話し合えていいな」
「……気がつまる。……個室がいい」
部屋の様子を見ながら呑気に言う要の横で、響があからさまに嫌な顔をする。四六時中誰かがいる状況は、彼女のようなコミュ障には辛かろう。諜報員の猛はこの中にも知り合いがいるらしく、いくつかのテーブルに顔を見せに行っていた。
「ほとんどこの部屋で全てが決まりますが、長期計画を検討する部隊は別の部屋になります。奥のドアへ行きましょう」




