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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
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俊足の革命児

 次の瞬間、金属製の紺色のスーツに全身を包んだ男の姿があった。騎士の鎧がモチーフなのか、腕には籠、足には膝当てのような装飾が見られる。ところどころ、赤いラインが入っていた。


 男の顔もフルフェイスのヘルメットよろしく全面金属で覆われている。目のところだけがモニターになっていて、金色の三日月形の光が浮かんでいた。絵文字のように、くるくると眼の形が変わると、ぐっと親しみやすくなる。


「おおっ」


 日本側の、変身ヒーローに慣れ親しんだ世代から声があがる。歓声に答えるように、スーツの男は天井まで飛び上がり、くるくると室内を巡回した。小回りをしているのに、全く危なげないその飛行に葵は感心する。


「どうかね」


 中将が聞いてきた。


「飛行装置の調整がすばらしいですね。うちのはまだ、狭い室内で使ったら壁にぶちあたりますよ」


 あおいが中将に返事をしているうちに、スーツの男に向かって一斉に赤いボールが投げつけられた。手投げではなく、バッティングセンターで使うような機械から一斉にボールが飛ぶ。しかし、男は慌てた素振りを見せない。


 男は四方八方から押し寄せるボールを全て間一髪でかわしきり、天井付近に張り付いた。何個か拾ったボールを、出てきた機械のほうへ向かって投げ返す。すさまじい動体視力と反射神経だ。いわおと同じような肉体強化系ののデバイス能力者なのだろう。巌がパワー強化なのに対して、こちらは徹底的にスピード重視だが。


 葵が考え事をしている間に、男は壇上に戻っていた。会場が、高らかな拍手で満ちる。男のパフォーマンスが終わったのを確認してから、女性もデバイスを起動させる。


「イシュチェル!」


 女性のベルトについていた蛇の飾りが、主の声にこたえてぐるりと鎌首をもたげた。かちりかちりと蛇が頭を動かすと、どこからともなく空中に大きな水瓶がどっと現れる。女がぱちりと指を鳴らすと、無数の水瓶から一気に水が噴き出した。こちらにも、惜しみない拍手が飛んだ。


 発表の時間もそろそろ終わりに近づいている。司会者がいっそう大きく声をはりあげた。


「では、最後に両名の手合わせをご覧いただきましょう」


 アナウンスにうながされ、二名は向き合った。互いに軽くうなずきあってから、開始の合図を待つ。


「始め!」


 号令が飛んだ。まず始めに、蛇を従えた女が動いた。無数の水瓶からあっという間に大量の水が吹き出し、激流となって男に降りかかった。


「大丈夫なのですか、あれ」


 本気でやっているようにしか見えなくて、葵はつぶやいた。中将はそれには答えず、ただにやっと笑っただけだ。


 中将の自信の理由はすぐにわかった。女の攻撃は、男には当たらない。男は濁流を乗り越え、恐るべき速さで女に接近し、女の喉元に手刀を突きつけた。


「そこまで!」


 上官から制止がかかった。男は戦闘体勢を解き、女に手を貸して立ち上がらせる。二人が揃って礼をすると、室内からは拍手が上がった。


「ほう、俊足のアキレウスの名に恥じぬ能力やな」

「これはいずれは抜かれるかもねえ。せいぜい日本も予算を積んでもらわなくちゃ」


 和泉いずみ隼人はやとのつぶやく声が聞こえた。葵も、男の実力に納得する。中将に向かって素直に称賛の言葉をのべた。


 模擬戦終了後、しばらくアメリカ側の細かいデータ報告が続いた。それが終わると、今度は日本側からの報告になった。


 デバイス実技は和泉と隼人が呼ばれ、段上で鎌鼬かまいたちが飛び交った。隼人はもちろんそれをあっさりとお札と式神で受け止める。見た目も日本ぽくかつ派手で、こちらもなかなか好評だった。


「では、続きまして妖怪たちの動きの報告をいたしましょう。現在、敵の拠点は山間部に集中しています。これを完全に殲滅せんめつするには困難が伴います」


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